言い訳の東京旅行三日目(3)。国連大学からアンカフェ、青山学院。『街~運命の交差点~』移植を希望する
こどもの城の東隣には、国際連合大学本部の施設が立っています。
国連大学を卒業したらエスカレーター式に国連に就職できるのか?
おそらくそういう上手い話は滅多に転がっていないと思いますけれども。
学生なのか、関係者らしい大勢の人たちが催し物の準備で忙しそうでした。
欧米人の人の姿も多かったので、やはり国際的な大学のようです。
もし国連に就職しやすいんだったら、渋谷のキャンパスライフなんて楽しそうだし、ここに入学してみてもよかったですね、私の人生。
国連大学の内実を全く知らないので、うかつなことは言えないのですが。
国連大学の東隣の敷地は、さらに奥まったところに通じる通路になっています。
この先にはコスモス青山という商業施設があって、私はここを目当てに来ています。
エスカレーターで地階に降りながら。
ああ、と思わず嘆息しました。
私の言わんとするところ、わかる人が見ればすぐにわかる風景です。
コスモス青山の地下2階中庭にある「un cafe(アンカフェ)」というオープンテラスのカフェなのです。
ここは、先述の『街~運命の交差点~』で、主人公の一人である大学生「金曜日」こと篠田正志(しのだまさし)が、謎めいた年上の女性「日曜日」と度々密談を交わす場所なのでした。
その他の登場人物たちもここを訪れています。
施設内にも席がありますね。
まだ営業時間前です。
テラス席は施設の共有スペースではなくお店の設備なので、座るのは遠慮しましょう。
もし営業時間内に来ていたら座って美味しいコーヒーの一杯もいただくところだったのですけれど。
今度は施設内にまわってun cafeの店舗を見ました。
施設内の敷地はわりと限られているようです。
ちなみに外からいくらのぞいても、厨房がどこにあるのか私にはついにわかりませんでした。
同じ階に青山ブックセンターもあります。
ここも結構有名なお店ですね。
確か洋書を多く取り扱っている書店だったと思います。
開店していたら、洋書の物色したかったですね。
コスモス青山から青山通りに戻りました。
青山通りの向こう、南側は青山学院大学のキャンパス敷地になっています。
各界に卒業生を多く輩出する大学です。
芸能人にもここの出身者が結構多いです。
国連大学じゃなくて、この大学に入ってもよかったですね、私の人生。
青山学院大学キャンパスの向こう側には、青山学院高等部があります。
金王八幡宮界隈と六本木通りを歩いていた生徒さんたちはおそらくここの高等部に通学していたのですね。
ついでに言っておくと、『街~運命の交差点~』に出てくる「緑山学院」のモデル。
ほぼ間違いなくこの青山学院です。
un cafeのくだりで言及した篠田正志は緑山学院大学の学生でした。
また別の主人公の飛沢陽平(とびさわようへい)は緑山学院高等部の生徒です。
思い出したので書きますが、この飛沢という人物はまだ高校生でありながら、ぶっ飛んだレベルのプレイボーイなんです。
彼のシナリオでは色男として浮名を流す彼が、un cafe含む渋谷に実在の各喫茶店で女性たちと会うシーンが頻繁に出てくるんですね。
飛沢のシナリオは詳細を語りにくいんですが、本当に内容を簡単にざっくり言うと、モテる男子が遊びすぎた挙句にかつて交際した女性たちによって苦境に追い詰められる…という話なんですね。
面白いんですよ。
私もいち男性プレイヤーとして最初は「モテ男が調子に乗りやがって、早く痛い目に遭え!」と思いながら遊んでいたのに、それがいつの間にか飛沢に感情移入しまくって、果てには彼の苦境と一緒に一喜一憂する自分を発見していた…というなんとも絶妙の構成と演出が盛り込まれているんです。
他の主人公たちのシナリオもそうなんですが、彼らが生きる渋谷での起伏に富んだ五日間を一緒に体験するうちに、感情移入せずにはいられなくなるんですね。
『街~運命の交差点~』、遊んでみればいかに深い作品であるかわかります。
なので皆様にはぜひ実際に作品を遊んでもらいたいところなんですけれど、今流通している家庭用ゲーム機ではPSPぐらいでしか遊べないんです。
それもPSP自体がもう古くてかろうじてハード本体が流通しているぐらいで、『街~運命の交差点~』のソフトは中古市場でないと買えません。
最新のゲーム機、あるいは手近なスマートフォン用のアプリで『街~運命の交差点~』が移植される日が早く来るように、私も祈っているんですけれども。
祈るだけでは足りないのかもしれませんね。
隙を見ては無関係の人たちに洗脳、もとい宣伝を仕掛けていくと移植の実現に結びつくかもしれませんね。
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言い訳の東京旅行三日目(2)。渋谷駅東口を経て、宮益坂を登る。岡本太郎作品の磁力
現代の渋谷の街に戻りましょう。
ここをずっと行くと、警視庁渋谷警察署の裏側に出ます。
ところでこの辺り、地価高そうですね…。
渋谷駅の至近なのに雰囲気が落ち着いていて、いい感じ。
六本木通りですね。
上り坂のずっと先に六本木ヒルズが見えますね。
渋谷から見えるんですね、六本木ヒルズ。
ちょっと興奮しました。
六本木ヒルズは、何年も前に見に行ったことがあります。
渋谷駅方向からこの六本木通りを六本木方向に歩いていく通学の生徒さんが多いです。
ここから六本木まで歩いていくとは思えないので、この辺りの学校に行くのでしょう。
渋谷で過ごす学校生活ってどんな感じなんでしょうね。
田舎育ちの私には想像もつきません。
渋谷駅東口の交差点にかかる歩道橋、補修中で閉鎖されていたんです。
私が渋谷警察署に気付かなかった理由、これですね。
この歩道橋に登っていれば、警察署の入口を上から眺めることができて、『街~運命の交差点~』に出てきたあの場所だと気が付いたはずです。
歩道橋に登らなかったので、気付かなかったのです。
今さら文句言っても仕方ないですね。
宮益坂下に来ました。
前年にも来たんですね。
前年には上まで登って行かなかったので、ちょっと心残りだったんです。
宮益坂上まで登ります。
おや。
御嶽神社、酉の市ってぼんぼりが出てますね。
まだ私が宮益坂登ってる途中なのに。
興味をそそられてしまいます。
宮益坂の最中、左手です。
鳥居の先は、どう見てもビルの上に誘導される石段ですね。
何か心惹かれますね。
石段を登ってビル上のお社にお参りしてきました。
後から調べたところによると、ここの狛犬は、かつて日本の山岳地帯にいた日本狼の姿をしているという珍しいものなのだそうです。
かくいう私は現地で全く気付きませんでした。
見逃しました。
よっぽどぼんやりとお参りしたのですね。
ちなみにこの御嶽神社の読みは「おんたけじんじゃ」ではなく「みたけじんじゃ」だそうです。
ビルの上の限られた敷地に神社の境内があって、酉の市の準備中でもありました。
御嶽神社に隣接して渋谷郵便局の大きなビルが立っています。
ローソン併設の郵便局って珍しいですね。
念のため書いておくとローソン内で郵便局の窓口業務を行っているわけではないので、24時間利用できるのはローソンのサービスだけです。
宮益坂も試しにいったん登ってみると割りとあっさり登れる坂ですね。
ここが宮益坂上なんですね。
坂の上にもビルが立ち並んでいるんですね。
歩道橋の上に乗って宮益坂下を見下ろしました。
街路樹の緑が密で坂の下まで全然見通せないですね。
ところで宮益坂の名前の由来は、渋谷区の公式サイト内にある「通りの名前」によると、「江戸時代、坂の途中にある御嶽神社にあやかって、町名を渋谷宮益町に変えたため」宮益坂なんだそうです。
お宮ってさっきお参りした御嶽神社のお宮から来ていたんですね。
私はまた、宮益坂の上に昔は皇族の方の別荘があったのだとばかり思い込んでいました。
渋谷の高台に別荘を持ちたいという私の願望が無意識に由来を捏造していたと思われます。
宮益坂からそのまま真っ直ぐ、しばらく青山通りを歩いてみます。
このビルの外装、いいですね。
「ラビアンローゼ表参道」っていうウェディングドレスのレンタルをしているお店です。
この先の青山、表参道沿道辺りには結婚式場なんかが結構あるみたいなんですね。
今は閉鎖されてしまっている「こどもの城(国立児童総合センター)」の施設の前に、岡本太郎の作品「こどもの樹」が立っています。
大阪の万博公園に立つ太陽の塔と同じ、得体の知れない磁力を感じます。
このこどもの樹は永遠にここに立って、たとえ渋谷が砂漠になっても道行く人たちの道標であり続けてもらいたいです。
でも東京砂漠って歌もあるし、すでに砂漠ですかね。
いい意味で。
そんな砂漠に飲まれてみたい気もします。
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言い訳の東京旅行三日目(1)。渋谷の街。金王八幡宮界隈へ。庚申塔群もある
東京旅行も三日目にもなると、東京の雰囲気に体が慣れてきますね。
今回の旅は一貫して「忠臣蔵の故地を巡る旅」がテーマだったわけなのですが、三日目はそのテーマからいったん逃れまして、朝から渋谷に来ました。
渋谷駅構内の、ハチ公前広場を見下ろす例の場所に来ています。
テレビゲームの『ペルソナ5』にも出てくるあの場所ですね。
前年にもここに来ているんですね。
まだ午前7時前で駅構内にも街にも人が少ないようですが、それでも渋谷に来るとなんだか気分が盛り上がります。
ご覧のように忠犬ハチ公も独占状態。
まだ11月なのですが、若者の街渋谷において早めに世界エイズデーを告知している忠犬ハチ公の姿。
人と人とが待ち合わせる場所だけに、告知効果、さらに言うと予防効果は絶大でしょう。
渋谷スクランブル交差点を横断する人の数もまだこんな程度です。
人が少ないので街歩き散策にはちょうどいいかもですね。
青ガエルの観光案内所もまだ出入り口が開いていませんね。
宮益坂下の交差点から、近くにある史跡、金王八幡宮(こんのうはちまんぐう)に向かいます。
渋谷ヒカリエのビルですな。
あんな建築よく建てましたね。
渋谷駅前は工事中の箇所が多くて、作業員の方々の姿もよく見られました。
この高層ビルは渋谷ストリームって商業施設らしいです。
こちらもいい建築ですな。
この渋谷ストリームから明治通りを挟んだ道路向かいにあるのが、警視庁渋谷警察署です。
ところで私、実は今回渋谷で、今から21年前に出た『街~運命の交差点~』というテレビゲームのロケ地巡りをしたいと思って来ています。
この作品は実際に渋谷の街でロケを行い、俳優さんたちが演じる主人公と登場人物を撮影した各場面を背景として取り込んだ、進路選択式のノベルゲームになっています。
一時期あった「サウンドノベル」というジャンルのゲームです。
複数の主人公たちの人生が、渋谷の街の各所で交差する。
その舞台になった場所が渋谷中に点在しているのですね。
「忠臣蔵」からいったん離れたのは、渋谷滞在中は史跡巡りとは別に「『街~運命の交差点~』ロケ地巡り」をテーマにしたかったからなのですね。
渋谷には忠臣蔵の関連史跡は無さそうだったので。
で、話は戻りますが、警視庁渋谷警察署。
『街~運命の交差点~』主人公の一人であるゲーマー刑事こと雨宮桂馬(あめみやけいま)が所属する警察署であり、作中に何度も登場する重要な場所なのです。
なのですが、あろうことか私はその存在にまったく気付かずに素通りしてしまいました。
渋谷警察署は玄関口が特徴的なのですが、その玄関口が歩道橋の陰にあるんですよね。
それで気付かなかったのです。
のっけから大きなポカをやらかしました。
これは渋谷警察署前にあるのとはまた別の歩道橋です。
大阪では見たことのない、屋根付きの歩道橋ですね。
ここを渡って六本木通りを越え南側へ。
1階にCafe1886の入ったボッシュ渋谷ビルの脇を抜けると、緩い勾配の下に金王八幡宮の敷地が見えます。
六本木通りからひとつ路地を進むとこういうよさげな風景になるんですね。
朝早くのことで、神社の方か地元の有志の方か、何人かで神社の周りを掃除されていました。
平安時代に石清水八幡宮から勧請され、渋谷の土着の豪族だった渋谷氏が八幡宮を中心にして城館を築いていたということです。
八幡宮であり、渋谷氏の城館跡でもあるのですね。
八幡宮の敷地が少し高くなった台地の上にあるのは、城館の名残りであるのかもしれません。
お参りしましょう。
本殿は朱色の地に装飾が施されて、見るところが多いですね。
左手に虎ですね。
右手に象?ですね。
金王丸桜です。
源義朝(みなもとのよしとも)の従者だった渋谷金王丸常光(しぶやこんのうまるつねみつ)の義朝への忠義を偲んで、義朝の子息である源頼朝(みなもとのよりとも)が鎌倉から移植したものだと伝えられているそうです。
そもそも金王八幡宮の名称、渋谷金王丸にちなんで渋谷八幡宮から改名したのですと。
渋谷金王丸の実在は史料上は確証がないそうですが…後の時代の『平治物語』に金王丸の出てくる場面があるのです。
鎌倉時代以降の渋谷氏の人々が、伝説で有名な金王丸を自分たちの先祖であり代表であると考え、金王丸にまつわる遺跡を守っていたという可能性はあると思います。
この金王丸御影堂には金王丸が母に残したと伝わる自画像が入っているそうです。
…自画像見てみたいですね。
本殿の傍らに「澁谷城 砦の石」があります。
戦国時代、小田原を本拠にした後北条氏の二代目当主、北条氏綱(ほうじょううじつな)と上杉朝興(うえすぎともおき)が現在の品川区高輪の付近で「高輪原の戦」の合戦を行いました。
その際に、渋谷氏は氏綱の別働隊と合戦して、ここにあった渋谷城を焼かれてしまったのだそうです。
つまり渋谷氏は当時上杉方で、この砦の石はその渋谷城の名残りということですね。
城館を焼かれた高輪原の戦以降、渋谷氏がどこに新たな城館を移したのか、気になるところではあります。
ちなみに後北条氏と高輪原で戦った上杉朝興は敗戦し、太田道灌(おおたどうかん)がかつて築城した江戸城を、後北条氏に奪われています。
金王八幡宮のお隣にある豊栄稲荷神社にもお参りしました。
境内に面白いものを見ました。
庚申塔(こうしんとう)なんですね。
庚申というのは干支の庚申(こうしん、かのえさる)のことで、60日に一度巡ってくる庚申の日の夜に、人間の体内に住む三尸(さんし)という虫が地獄の閻魔大王にその人の悪事を知らせに行きます。
そういう中国の道教由来の考えなんですね。
悪事を閻魔大王に知られると、その人は地獄に行くことになります。
それで、眠っている間に三尸が活動するので、庚申の夜に村落では庚申待(こうしんまち)と言って村中の人が集まって集団で夜通し寝ずに明かす風習があったということです。
三尸の活動を阻止するわけです。
庚申塔は、その庚申待を達成する度に記念して建てられたものなのですね。
庚申塔群を見ると、今は大都会のこの渋谷にも、かつては素朴な信仰の根付く村落があったことがうかがえますね。
庚申塔群に手を合わせました。
私が写真を撮ったり手を合わせたりしている間に、古びた庚申塔群の後ろを、高校生の集団がひっきりなしに通っていきます。
通学路らしいのですね。
毎日通る通学路に面してかつての土俗信仰の跡が残っていること、若い人たちの多くはおそらく気付いていないでしょう。
このような場所は大都会の空間と空間の隙間と言えるかもしれないな、と思いました。
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言い訳の東京旅行二日目(9)。観光地浅草歩き。浅草寺、待乳山聖天から浅草六区
東京スカイツリー前に来たのが午後2時頃、展望デッキに登って降りてきたら午後5時前で、二時間と少し観覧にかかった計算になります。
夕暮れ時ですが宿に帰るにはまだ早い時間です。
これから隅田川向こうの浅草まで足を伸ばそうと思います。
東京スカイツリーの横に東部伊勢崎線のとうきょうスカイツリー駅があって便利です。
浅草駅まで一駅乗ればいいのですからね。
浅草駅から出てきたら、目の前が吾妻橋とその向こうの金のオブジェです。
私の隣に観光客の若い女性二人組がいて、私と同じように写真を撮っている連れにもう一人が「何撮ってるん?う○こ撮ってるん?」と大阪弁で朗らかに話しかけています。
大阪人の私は、わずかに同胞愛を覚えました。
雷門ですね。
浅草の名所でしょう。
以前にも何度か来ているのですが、来るたびに観光客の数が増えている気がします。
10年ほど前に来たときは週末の昼間でもこんなに人は多くなかった…と思います。
仲見世商店街ですな。
昔ここの沿道のお店で揚げ饅頭を買って食べたらとても美味しかったです。
ただ今は仲見世商店街での食べ歩きは禁止されているんですってよ。
飲食物テイクアウトのお店が多いのに、食べ歩きが出来ないのでは辛いです。
今回は揚げ饅頭を買いません。
お店の裏側の通りは通行人の数も少なくて、近道にいいんですよね。
左右に仁王の構える宝蔵門(仁王門)もライトアップされております。
五重塔もライトアップされております。
浅草寺は五重塔があって、奈良の興福寺とか大阪の四天王寺の境内と雰囲気が似ていますね。
お参りしました。
浅草寺の開基は江戸開府のずっと以前、飛鳥時代にまで遡るんですね。
江戸一帯がまだ湿地帯だった頃から、浅草寺周辺は信仰の場として発展したといいます。
古代から江戸、東京の歴史の中で重きを成して来た場所だと言えるでしょう。
おそらくは観光地としての歴史も古代から持っていると思います。
浅草寺から出て、周辺の街並を見て行きます。
ところで私は時々小説を書いているのです。
以前にこの浅草界隈を舞台にして短い作品を書いたことがあるんですね。
今度、その作品の内容を膨らませて長編にできないか?などと考えています。
それで改めて現地を歩いてみようと思ったのですね。
観光と作品用の取材とを兼ねているというわけです。
道路が広々としていますね。
5月に行われる三社祭の神輿を通すために車道を広く取ってあるのでは?という気がしますね。
大阪の岸和田でもだんじり祭りのために道路を拡張してあるので、そこから連想しました。
言問橋向こうに見えるスカイツリーも電飾が施されていて素敵なのですが、いかんせん私のカメラのレンズが駄目になっていて写真が駄目です。
あんまり遅い時間にお参りしない方がいいと思うんですけれど、待乳山聖天さんです。
境内に小高い丘があって、その上に聖天さんのお社があります。
お参りしてきました。
境内には作家の池波正太郎の生誕地を示す碑もあります。
1月に行われる「大般若講・大根まつり」と言われる祭礼が有名だそうです。
大根まつりって、何か創作意欲を刺激される響きです。
待乳山聖天から、東京スカイツリーの夜景を見に隣の隅田公園へ。
グラデーションというのでしょうか、深海で発光する海月のそれのように、スカイツリーの電飾が波打ちながら彩りを変化させていくのですね。
しばらく眺めていました。
スカイツリーに気を取られて気付きませんでしたが、スカイツリーの北では雲間から満月がのぞいていました。
こちらもしばらく眺めていました。
浅草六区を通って駅方面に戻りましょう。
沿道に立ち並ぶ飲食店の中で、ここでも韓国由来のチーズドッグのお店が人気でした。
通りかかったカップルの男性が行列を見ながら「そんなもんは韓国で食えや」と冷笑気味にコメントを寄せていて、私は別にチーズドッグに恨みはないのですが、ちょっと彼に同感するところもありました。
観光に来たらその土地のものを食べるのが定番です。
ただ、ですね。
チーズドッグ店に集まっているお客さんたちが観光客とは限らないんですね。
地元の人が浅草名物ばかり食べているはずはありませんし、たとえ食べていてもそれは飽きますからね。
目新しい異国の食べ物を好んで当然です。
そしてまた観光客であっても、よほど観光慣れした人になると土地の名物のようなものに一喜一憂せず、どこへ行っても土地に関わり無い自分の食べたいものを食べるようになるのですね。
どこへ行こうが土地の名物が何であろうが食べたいチーズドッグを食べる観光客。
私はそこに潔さを見出します。
些細なことに動じない生き方、旅人として人として目指すべき生き方なのかもしれません。
三平ストアって林家三平師匠から来てるんですかね。
と、外から眺めて通り過ぎながら思いました。
いまだ観光地での食事に土地のものを求めてしまう私は、浅草駅前にある老舗の天丼店で夕食に浅草名物の天丼を食べて、電車に乗って宿に帰りました。
言い訳の東京旅行二日目(8)。東京スカイツリー内部に潜入。男性と無言の攻防。眺めは抜群、東京の絶景
東京スカイツリーの根元に来ています。
屋台スペースがありますが人が多くてちょっとお店をのぞいてみようという気になりませんでした。
これからあの上まで登ってやろうというのです。
建物内に潜入します。
しかしまず入場券販売カウンターにたどり着くまでにこの大行列。
上の展望デッキ階に行けるまで一時間待ちとか何とか。
信じられない観光客の数。
天下の東京スカイツリー。
窓からスカイツリー支柱部分が拝めます。
前回にも書いたテレビゲームの『真女神転生Ⅳ FINAL』とその前作にあたる『真女神転生Ⅳ』で東京スカイツリー内部は重要な場所として出てくるのです。
一度スカイツリーに入って上まで登ってみたいと思ったのは、実地に内部を自分の目で見てみたかったからなんです。
内部はこうなっているんですね。
行列はじりじり時間をかけて進みます。
はるか遠方にチケット販売カウンターが見えただけで希望の灯が灯ったような。
それぐらい刺激の無い待ち時間を耐えていたのでした。
一時間近くかけてようやく販売カウンタに到着、展望デッキへの入場チケットを手に入れました。
当日券で2100円です。
東京随一の観光地であることを考えると、さほど高くもないかな?と納得できる価格であります。
この後さらに展望デッキ行きのエレベーターに乗るために行列に並びました。
この間に、ちょっとした不快な出来事がありました。
エレベーターまでは縄張りが張ってあって細い通路になり、順番待ちの人たちがずっと一列に並ぶ仕切りになっているのです。
で、なぜか途中でこの細い通路の仕切りが広くなる箇所が度々あるんですね。
ここで近くにいる係員が「順番関係なくお並びください」と呼びかけております。
通路が広くなる箇所ではいったん行列を崩して、大勢を順番関係なく複数列に並ばせるんですね。
ですがその後にまた一列に並ぶ仕切りが待っているので、いったん崩れた行列がまた一列に戻るんです。
その際に、もともと前にいた人が後ろに行ったりその逆になったり、順番が前後してしまうんですね。
それで私も前後にいた人たちと入れ替わってしまったんです。
その後に私の真後ろに来たのが、孫らしい小学生ぐらいの子供を連れた高齢のご夫婦でした。
で、この人たちは、見慣れない私の背中が急に自分たちの目の前に現れたので、私が後ろから来て自分たちの順番を抜かしたものと勘違いしたらしいのですね。
本当は逆で、私はもともと彼らよりずっと前にいたのですけれど。
そのために私はその夫婦の高齢男性から一方的な遺恨を抱かれたらしく、一列に並んだ後も曲がり角にさしかかる度に彼はこちらの隙を突いて、私の前に割り込もう割り込もうと体をねじ込んでくるのでした。
私はその都度さりげなく阻止しました。
小学生の孫は孫で他人の体に無頓着で、こちらの背中にやたらとぶつかってくる…。
本来の私ならお年寄りとか子供とか、先に行かせてあげても構わないと思う方なのですが、件の男性はカーブになるとインサイドから攻めにかかるばかりか、それ以外のときは私の背後で順番を抜かされたことに対する?文句を奥さん相手にぶつぶつ言っているので、私もストレスが溜まります。
勘違いというか逆恨みというか、なんなのでしょうね。
絶対に譲る気はありませんでした。
しばらく攻防が続きます。
最終的にエレベーターにたどり着くと、このエレベーターの箱内部がずいぶん大きくて、順番待ちの数十人が一度に入れる許容量があるのですね。
当然、私も後ろの高齢夫婦とお孫さんも、一度に大人数でエレベーター内へ。
真後ろの人たちと小競り合いをしていたことが馬鹿らしくなる結末でした。
最後はこうなることがわかっているから、運営側も順番待ちの列を途中で崩させたりわりとルーズに並ばせていたのでしょう。
けれども長時間並んでいる人間にとってみれば、前後の人と順番が変わることには非常に敏感になってしまうものなのです。
運営側の人たちにはその辺りの来場客の心理を把握して順番待ちの仕切りを考え直して欲しいと思いました。
まあおそらくは来場客が多すぎて、仕切る側も効率優先にならざるを得ないのだとは思いますがね。
なにしろ物凄い人の数なのです。
日本中から、世界中から観光客。
展望デッキに来ました。
右手から奥にかけて東京湾が広がっています。
ただ展望デッキも人でいっぱいで、通路の幅もそれほど広くはなく、時間をかけて景色を楽しむ余裕がありません。
隅田川沿いの左岸に浅草、その北の南千住方面まで眺められます。
南千住のさらに北、隅田川と併走する荒川の先に広がっているのが足立区の街並ですね。
スカイタワー北側のお膝元には向島、そして曳船の街があります。
どちらも趣きある素晴らしい地名ですね。
遠くに見える大きな山は筑波山でしょうか?
アサヒビールの金のオブジェを眺められるかと思ったら、その後ろのアサヒビール本社ビルとリバーピア吾妻橋ライフタワービル(長いね)に阻まれてちょっとしか見えません。
後で浅草側に行ってから拝みましょう。
芝の東京タワーも拝めます。
東京タワーからは東京スカイツリーが拝めるのでしょう。
混むので急き立てられるようにして景色を見ていますが、一方で他の来場客の人たちと絶景を共有している感もあって、悪くないですね。
南に向けて、緑のラインが伸びていますね。
もともと錦糸町方面から歩いてくる予定だった大横川親水公園です。
上から眺めることができました。
ずいぶん長い公園であります。
次に錦糸町からスカイツリーに歩く機会があれば次は大横川親水公園沿いに来ましょう。
ここに来なければ拝めない東京の絶景を見ました。
2100円のもとは取れましたでしょう。
残念ながら今回は見えませんでしたが、空が晴れているときには富士山の姿まで拝むことができるそうです。
帰りのエレベータに乗るのも大変です。
足元がガラス床になっていて、混雑しているせいでこの上に立って待たないといけない状況がありました。
高所恐怖症の私にはつらいものがありました。
展望デッキの下階の窓から見た風景です。
遠景に、川の中州に浮かんでいるような高層ビル群があって、目を奪われました。
おそらくは佃から月島にかけて建つ高層ビル群なんですね。
混雑に苦しみながらも、かなり楽しめた東京スカイツリーでした。
将来的にもう少し来客数が落ち着くことでもあれば、また何度か登ってみたいと思います。
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言い訳の東京旅行二日目(7)。『真女神転生Ⅳ FINAL』で馴染みの錦糸町駅、錦糸公園。東京スカイツリーの威容
コシャリ屋コーピーでコシャリを食べた後、JR錦糸町駅前に来ています。
駅ビルの名前はTERMINAって言うんですね。
イタリアの駅みたいですね。
丸井錦糸町店も駅側から見るとしっかり百貨店然としています。
私は見た目の地味な裏口から入ったのでスーパーに入るような気持ちで入ってしまいましたが。
錦糸町駅前ロータリーに明治時代の歌人で小説家でもあった伊藤左千夫(いとうさちお)の歌碑があります。
小説の『野菊の墓』を書いた人ですね。
ここ、彼が経営していた牧舎跡なんですって。
もともと酪農家だったのが、同業者の影響で文芸活動に目覚めたのですと。
想像がつきません。
巨大な駅舎ですな。
少し中をうろついてきました。
この下にある地下鉄駅構内が『真女神転生Ⅳ FINAL』というゲーム作品の中で主人公「ナナシ」とヒロイン「アサヒ」の住居になっているんですね。
ただ今回は地下鉄を利用するわけでもないので、地下鉄駅構内には入りませんでした。
後から考えれば、聖地巡礼で来ているんだから入場券買うなりして入ってみればよかったですね。
惜しいことをしました。
駅ビル脇のトンネルを通って北側へ抜けます。
なぜなのか、歩いている人の数が妙に多いです。
東京はどこもそうなのでしょうかね。
駅を北に抜けたところにある錦糸公園に行きます。
お察しの通りここも『真女神転生Ⅳ FINAL』に出てくる場所で、ゲーム内では一種のダンジョンとして再現されております。
公園の東側に野球場があるんですね。
ゲーム中では「錦糸公園」の東端は壁のようになっていて背景も暗いのですが、よく見ると野球場のフェンスらしい陰影があります。
ゲーム冒頭の山場になるイベントの発生場所がこの噴水前なのでした。
どんなイベントなのかは重大なネタバレになるのでここでは明かせませぬ。
どうぞ皆様『真女神転生Ⅳ FINAL』を遊んでください。
私は実際の場所に来れて、感無量でした。
錦糸公園隣に立つ高層ビル「オリナスタワー」の陰から、東京スカイツリーがこちらの様子をうかがっております。
いよいよスカイツリーの勢力圏に足を踏み入れてしまったようです。
ロケットの形を模した遊具も健在でした。
ゲーム内では配置場所が現実のものから変更されてはおりますが。
錦糸公園を後にして、東京スカイツリーを目指して歩いていきます。
結構距離はありそうなのですが、途中の街並を見ながら歩いておきたいんですね。
東京スカイツリーもゲーム中に出てくる重要な場所で、私は普通の観光客である以上にメガテンファンとしての目線でランドマークとか街並を鑑賞しています。
あらかじめ言っておくと東京スカイツリーの内部もダンジョンとして出てくるんですね。
それで普段観光地のタワー系建造物には入らず登らずに済ませることが多い私も、今回は中へ入ってみようと計画しております。
錦糸公園からずっと西に行くと「大横川親水公園」という南北に長く縦走する川沿いの公園がありまして。
その川沿いに北にスカイツリーまで歩いて行こうと思います。
ということでオリナスタワーのある太平四丁目の交差点で左に曲がり、まずは西方面に行きます。
と思ったら、途中の太平二丁目交差点でこんな通りを見つけてしまいました。
「タワービュー通り」と言って、ご覧のとおり東京スカイツリーを眺めながらその下まで歩いていける、奇跡のような通りなんですね。
東京スカイツリーの全容をここで目にして、興奮しました。
大横川親水公園を経由して行く予定をここで変更しました。
このまま目の前のスカイツリーに向かっていきます。
途中の街並を堪能する余裕もなくなりました。
スカイツリーしか目に入ってきません。
人類があれだけの高さのものを建てて許されるのか?という問いが心に浮かんできます。
圧倒的な高さです。
浅草通り沿いの建物に突き当たりました。
ここに至ってこの眺めです。
見上げると、腰を反る体勢になって痛いです。
建物を迂回して、スカイツリーの根元まで行きましょう。
川向こうにツリー。
ツリーの下は商業施設、東京スカイツリータウンです。
北十間川という川だそうです。
スカイツリーの根元付近は川の両岸が親水テラスになっていて、散策できるようになっています。
スカイツリーの対岸のビルの窓にはスカイツリーがそのまんま映っていました。
ビルの中の人はツリーを毎日至近で見ながら生活することになるのですね。
歩行者専用橋「おしなり橋」を渡って私もいよいよ東京スカイツリー側に参りましょう。
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『瞬殺猿姫(52) 猿姫の縁者。吟味にあたる織田弾正忠信勝』
織田弾正忠信勝(おだだんじょうのじょうのぶかつ)は、那古野城の地下牢に来ている。
いくつかに区切られた房のそれぞれに、罪人が押し込められている。
尾張一国を統一して後、弾正忠は領内の治安回復に努めていた。
それで、収監される罪人の数は日増しに増えている。
常に地下牢の房は罪人で満ちて、空きが無い。
ひとつの房の中に、赤の他人の罪人同士を複数入れることを余儀なくされている。
だが中には、家族ぐるみで押し込められている者たちもいた。
「猿姫の縁者」家族である。
「もう半年にもなるとな」
房の中を覗きこみながら、弾正忠は気の毒そうに言った。
家族は、それぞれ莚の上に力なく座り込んでいる。
壁際にもたれかかっている、年輩の男。
着衣は擦り切れて、汚い。
やせ細り、頬がこけている。
精気の無い目で、無表情に弾正忠を見返している。
居住まいを正すことはなかった。
「亭主の名は竹阿弥(ちくあみ)、御先代の頃にお側に仕えておった者です」
弾正忠の隣に立ち、房内を燭台で照らしながら説明しているのは、那古野城の城主である織田孫三郎信光(おだまごさぶろうのぶみつ)である。
孫三郎信光は、弾正忠の父である先代弾正忠信秀(のぶひで)の実弟で、弾正忠にとっては叔父にあたる。
「竹阿弥。しかし、知らぬ顔だが」
「病を得て暇を出されたと聞いております。御館様の御元服前のことでしょう」
「城仕えをしていたにしては、姿勢がよくない。その病のせいか」
「さようでしょうな」
孫三郎は若い甥の質問とも皮肉ともとれる言葉を受け流した。
竹阿弥は心身ともに衰弱しきって、尾張の支配者を迎えても作法を改めることすらできないのだ。
死相さえ浮かんでいる。
責めるのは酷であろう。
弾正忠はしかめ面でうなずきながら、竹阿弥から視線を他の者に移した。
「竹阿弥は正気を失っておりますので、無礼はお許しを」
竹阿弥の隣にいる女房は莚の上に平伏している。
「表を上げよ」
弾正忠は好奇心から声をかけた。
女房はおそるおそる、顔を少しだけ上げた。
弾正忠の顔を見上げる。
痩せて汚れた顔に、目鼻が乗っている。
中年の主婦であった。
やはり疲れきった表情である。
半年も牢での生活を強いられていては無理もない。
「お主が猿姫とやらの母御か」
「左様でございます」
猿姫の母はもつれる舌で言った。
「女房の名は、なか、という名だそうです」
横から孫三郎が補足する。
弾正忠はうなずいた。
「母御の名は、なか。して、なかよ」
「は」
「猿姫は父御と母御、どちらに似ておるか」
「は…」
唐突な質問に、猿姫の母は面食らった。
「どちらと言って似ては…」
「あの娘は死んだ弥右衛門(やえもん)の子です。少なくとも私にはひとつも似ておりません」
女房の言葉を遮って、壁際の竹阿弥がしわがれ声を発した。
酷薄な言い方であった。
弾正忠は孫三郎の方を見た。
「猿姫は、なかの前の亭主の子です。弥右衛門と言って、当家の足軽だった男です」
「討ち死にか」
「戦場で膝に矢を受けて、御役御免になったのですな。その後何年か経って病で逝ったものと女房は申しております」
「であるか」
弾正忠は気も無さそうに相槌を打った。
ただ猿姫の容貌を、両親の顔から連想したかっただけなのだ。
弾正忠は視線を移した。
女房の横で同じく平伏する少年と、その横には幼い少女。
「猿姫の、父親違いの弟と妹です」
「であるな」
弾正忠はうなずいた。
「両名、表を上げよ」
兄と妹に声をかけた。
二人は顔を上げる。
「む」
弾正忠は声を漏らした。
見上げる二人から、敵意のある視線を向けられている。
痩せた兄妹の鋭い目に射られて、弾正忠は同じく厳しい視線を相手に返した。
「両人共、何か言いたそうな目であるな」
少年の方に語りかけた。
少年の口元が歪む。
だが発言をためらっていた。
「童。名を申せ」
「小一郎(こいちろう)です」
弾正忠の目を見据えたまま、はっきりと言った。
「小一郎。私は織田弾正忠である」
「知っています」
「私の素性を知りながら、その方のその目つきは何か。無礼とは思わぬか」
弾正忠は正論を言った。
しかし、小一郎は態度を改めない。
「そうでしょうか」
「何、無礼ではないと申すか」
「殿様が私たちになさった仕打ちをお考えください」
「どういうことであろう」
「私たち一家は言われ無きことで半年もここに閉じ込められております」
「言われ無きことでもあるまい。猿姫はお主らの係累であろう」
「そうです」
「猿姫がこの弾正忠の配下の者たちを殺めたのだ。当人が逃げれば、係累であるお主らが責を負うのは当然であろう」
小一郎は納得しない顔でいる。
「確かに、姉…猿姫が三郎様をそそのかしたうえ、お侍を殺したと言われて私たちはここに閉じ込められました。ですが、もとより話がおかしくはありませんか」
「なぜそのように考える」
弾正忠は口元にわずかに笑みを浮かべて先をうながす。
小一郎の理屈っぽい語り口が、満更不愉快でもないらしい。
「姉がお侍を殺す理由がありません。理由があったのは三郎様の方でしょう」
「そういうことか」
「猿姫が三郎様の代わりにお侍を殺して、何の得があります。むしろ三郎様が姉を脅して無理にお侍たちを殺させたのではありませんか」
「筋は通っておるな」
弾正忠はうなずいた。
「そのはずです。本来三郎様が責を負うべきことを、身分の低い姉に押しつけて縁者の私たちを半年も閉じ込めている。これは殿様の御政道として、無体ではありませんか」
小一郎は言い切った。
母親のなかは、畏れ多くて言葉を失っている。
ただただ額を莚の上に付けて、平伏した。
壁際の竹阿弥は、聞いてか聞かずか、壁にもたれかかったままぼんやりとしている。
小一郎の幼い妹は、弾正忠を無言でにらんでいる。
「であるか。しかし仮にそうとして、小一郎。猿姫が当家の侍たちを殺めたのは事実だ。これは言い逃れできまい」
「農家の小娘ごときに倒されてしまったのはお侍の側の瑕疵でありましょう。お武家のたしなみとしての武芸に怠りがあったのでは」
弾正忠は口をつぐんだ。
織田家は兵の強さでは近隣の大名家に引けを取っている。
家中の武士たちを見ても、武芸に秀でた者は少ない。
痛いところを突かれた形である。
弾正忠の隣で、孫三郎は話の流れに呆れた顔だ。
「御館様。この成り行き、どうするのです」
「猿姫捕縛の手がかりを得ようとしてここに来たのだ。収穫はあった」
小一郎にやり込められたばかりなのに、口元がほころんでいる。
再び小一郎の方に視線を向けた。
「小一郎の言い分はわかった」
「では、私たちを出してもらえるのですか」
「それはお主次第である」
房内の雰囲気がふいに軽くなった。
小一郎の顔に、期待の色が浮かぶ。
「私次第ですか」
「そうだ。小一郎、私はお主が気に入った」
「これは」
少年は、何と言葉を返していいかわからないらしい。
戸惑いの表情でいる。
「…ありがとうございます」
「お主のように弁舌巧みな者が城下におるとは。稀有なことである」
「ありがとうございます」
「おそらくは城仕えをしていた父御の薫陶によるものであろう」
弾正忠が自分に言及しても、竹阿弥は壁によりかかったままで反応しない。
代わってなかと小一郎が平伏をする。
「…ついては小一郎」
弾正忠が声の調子を強めた。
「お主だけを牢から出そう」
「どういうことでございましょう」
小一郎の表情は翳った。
「小一郎。その弁舌で、猿姫を連れ戻して参れ」
「えっ、そんな無体な」
「お主に期待するところがある。猿姫の身柄と交換に、父御も母御も妹も解放する」
「無体です」
小一郎はあえいだ。
流れに乗って殿様相手に出すぎたことを言ってしまった、とようやく気付いた顔だ。
手遅れであった。
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