読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

連載小説

『瞬殺猿姫(20) 一子は生きる。猿姫には負けない』

どうしたらいいだろう、と猿姫(さるひめ)は思案しながら歩いている。 神戸城の本丸御殿である。 背中に棒を担いで、通路を歩いている。 客人が、他家の城内をむやみやたらと歩き回るのは、あまり褒められたことではない。 だが、歩き回って城内の様子を確…

『瞬殺猿姫(19) 猿姫と離れ、茶席の三郎』

織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)は、座っている。 再び、神戸下総守利盛(かんべしもうさのかみとしもり)と対面しているのだ。 三方を土壁に囲まれた、狭くて暗い茶室である。 明かりは、三郎の背面にある障子戸から薄く入ってくるばかりだ。 神戸下…

『瞬殺猿姫(18) 三郎は、猿姫を城主に会わせたくない』

猿姫(さるひめ)に深呼吸をうながし、落ち着かせたところで。 織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)は、ようやく彼女を放した。 「お座りくだされ、猿姫殿」 蜂須賀阿波守(はちすかあわのかみ)が寝そべっている傍らを、手で示した。 「嫌だ」 猿姫はかぶ…

『瞬殺猿姫(17) 阿波守を爪弾きにする猿姫』

北伊勢の神戸城、縁側に猿姫(さるひめ)と織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)はいる。 忍びの一子(かずこ)がその場を立ち去った後も、二人は途方に暮れている。 南近江の大名、六角家と共に。 西の関家が、この城に攻めてくる。 「六角家の力を借りた…

『瞬殺猿姫(16) 一子の知らせを疑う猿姫』

「お二人の逢引を邪魔して、申し訳ございませんでした」 忍び装束の女、一子(かずこ)は、二人に深々と頭を下げた。 この女は何をしに来たのだろう。 そう思い、猿姫(さるひめ)は相手の頭頂部をにらみつける。 言葉通り、本当に「逢引」を邪魔しに来たの…

『瞬殺猿姫(15) 神戸城の縁側で、猿姫と一子』

猿姫(さるひめ)は、縁側の上に立っている。 織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)は、縁側の縁に腰掛けたまま。 振り返って見ている。 一子(かずこ)は、猿姫と向かい合ったまま、顔を三郎の方に向けていた。 彼女は三郎の目を見つめて、笑いかけている…

『瞬殺猿姫(14) 不審の三郎、苦しい猿姫』

北伊勢の神戸城、本丸の御殿。 猿姫(さるひめ)たち一行は客間をあてがわれ、しばらく滞在することになった。 それぞれの刀、鉄砲など、没収されていた武具も返却された。 与えられた部屋に来て荷物を置くなり、さっそく猿姫は、愛用の棒の手入れにかかる。…

『瞬殺猿姫(13) 神戸下総守との交渉に当たる、三郎と猿姫』

「下総守殿っ」 織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)は、上座に向かって前のめりになった。 「まずは見てくだされ。この羽織を」 下品でいやらしい絵柄が描かれた己の羽織を、指先でつまんで強調する。 「拙者、着の身着のままで、逃げてくる他なかったの…

『瞬殺猿姫(12) 猿姫に目をつける、神戸城の若殿』

猿姫(さるひめ)、織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)そして蜂須賀阿波守(はちすかあわのかみ)。 彼ら一行は、神戸城の主の間で座って待機している。 中庭に面した障子戸が開いた。 城主である、神戸下総守利盛(かんべしもうさのかみとしもり)が現れ…

『瞬殺猿姫(11) 神戸城、首の心配する猿姫』

北伊勢の神戸城を本拠とする武家、神戸家。 猿姫(さるひめ)一行は、現当主である下総守利盛(しもうさのかみとしもり)を訪ねてやって来た。 神戸家は、同じく北伊勢の亀山に本拠を置く武家、関家の支流にあたる家柄である。 もっとも、家柄としては関家の…

『瞬殺猿姫(10) お伊勢参りはできない猿姫』

通路の脇で、壁にもたれかかって。 猿姫(さるひめ)は、指先を噛んでいる。 彼女は愛用の棒を傍らに立てかけて、思案しているのだった。 宿の下女が来て、彼女を一瞥して通る。 「お嬢さん、えらい今日はおめかしして、どこへ行くん?お伊勢参り?」 「いや…

『瞬殺猿姫(9) 猿姫と物置部屋の者』

狭くて暗い、物置部屋の中である。 猿姫の首には背後から腕がからみついている。 あごの下にかかるその腕に、猿姫(さるひめ)は指を立てた。 人間の腕に存在する急所の位置を、猿姫は熟知している。 「待て、何もしないから」 猿姫の殺気を気取ったらしく、…

『瞬殺猿姫(8) 身だしなみの猿姫。脅しをかける髭武将』

可愛らしい、さえずる小鳥の声が障子窓のすぐ外から聞こえる。 織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)は、気持ちよく、まどろんでいた。 弟である織田家当主、織田弾正忠(おだだんじょうのじょう)の手によって。 三郎は、故郷、尾張国を追われた。 行きが…

『瞬殺猿姫(7) 髭武将には手荒な猿姫』

男をうつ伏せにさせて、座敷の畳の上に押し付けている。 猿姫は彼の上に覆いかぶさり、男の背中に片膝を押し当てているのだ。 そのまま、うつ伏せの男の両手首と足首とを背中の上できつく縛り上げて。 男を、えび反りの体勢にさせた。 酷い体勢で縛られてい…

『手間のかかる長旅(074) 三人で古墳に来た』

三人で、時子(ときこ)の自宅近くにある鉢形山古墳まで来た。 「だから古墳なんて嫌だって私は言ってるでしょ」 古墳の嫌いな町子(まちこ)は、古墳の前に立ってごねている。 しかしもう現地に来てしまったので、手遅れだった。 「まちこおんに、ちょごる…

『瞬殺猿姫(6) 猿姫と三郎、下克上を提案される』

すでに、日は落ちている。 座敷の隅では、燭台の上のろうそくに火が灯っている。 一行は、ろうそく明かりに照らされた座敷で車座になって、議論している。 猿姫(さるひめ)と織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)。 そして蜂須賀阿波守(はちすかあわのか…

『瞬殺猿姫(5) 白子港で、戸惑う猿姫』

船尾を岸壁に繋いだ後も、船はぐらぐらと揺れている。 「三郎殿、着いたぞ」 船板に腰掛けたまま、すやすやと寝入っている織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)。 猿姫(さるひめ)は彼の体の上に屈みこんで、揺さぶった。 「着いたのでござるか」 三郎は、…

『瞬殺猿姫(4) 二者から歌を強いられる猿姫』

尾張国の農民の生まれである猿姫(さるひめ)。 彼女は棒術の達人である。 猿姫と同じ国の武家の生まれである織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)。 彼は南蛮渡来の武器である鉄砲を使える。 二人とも故郷を追われ、今は行く先も知れない、長い旅の途中に…

『瞬殺猿姫(3) 猿姫が打ち据える、船着場の髭武将』

猿姫(さるひめ)は殺気立っていた。 周囲から、敵意に満ちた多数の視線を受けている。 こういう状況では、猿姫は殺気立たずにはおれないのだ。 彼女の連れの織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)は、心配そうに猿姫の背中を見守っている。 猿姫は、棒術の…

『瞬殺猿姫(2) 堺を熱く語る三郎と猿姫』

こいつのせいで考えがまとまらない、と猿姫(さるひめ)は苦々しく思った。 目の前で、彼女の連れがあぐらをかいている。 織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)である。 三郎は、尾張の国を治める領主、織田家の一族出身の若者である。 この三郎のまとう上…

『手間のかかる長旅(073) 町子は古墳が嫌らしい』

町子(まちこ)は、苦笑する。 「まあ、私はなんだかんだで何でもネタにできるから、何でもいいの。どこに行ってもいいの、時間つぶせるなら」 友人二人に、済ました顔を向けて、言った。 時子(ときこ)とヨンミは町子の顔を見ている。 「面白いネタは常に…

『手間のかかる長旅(072) 小さな候補地選び』

妙な雰囲気になったまま、四人は食事を終えて別れた。 ヨンミの分の支払いは、美々子(みみこ)が払った。 美々子には、午後からも仕事がある。 彼女の仕事が終わって帰宅するまで、ヨンミは時子(ときこ)と町子(まちこ)に同行することになった。 ヨンミ…

『手間のかかる長旅(071) むしろ時子のことが心配』

だいたい自分だって、生活に苦労している。 時子(ときこ)はそう思った。 ここしばらく、両親からのわずかな仕送りのほかには収入がないのだ。 自分だってヨンミと同じくらい状況は切羽つまっている。 先日はアリスにも心配された。 できることなら自分も働…

『手間のかかる長旅(070) 次の仕事を探しているヨンミ』

つらいのはヨンミなのだ。 下手な同情は無責任だ。 時子(ときこ)は慌てて、くしゃみをするふりをして、流れそうになった涙をごまかした。 「だからさあ、店も辞めたいし、しばらく休むってそいつに連絡したのよ。ヨンミは」 なにげなく時子から視線を外し…

『手間のかかる長旅(069) その店で働きたいヨンミ』

食事を終えた町子(まちこ)と美々子(みみこ)はコーヒーを追加注文した。 さらに、女性従業員は時子(ときこ)とヨンミにもコーヒーのおかわりをサービスしてくれた。 四人でコーヒーカップを前に、まったりしている。 「この店、静かだし、まったりできて…

『手間のかかる長旅(068) ハンバーグを食べた三人』

時子(ときこ)とヨンミはまったりコーヒーを飲んでいる。 その間、町子(まちこ)と美々子(みみこ)は配膳されたそれぞれの料理を食べている。 町子はスパゲッティペペロンチーノ、美々子はハンバーグランチだ。 二人とも、食欲旺盛なようだった。 午前中…

『手間のかかる長旅(067) ヨンミの進退』

例の女性従業員がテーブル横に瞬間移動してきた。 時子(ときこ)とヨンミの前に水のコップを置く。 美々子(みみこ)と二人でメニューを見ていたヨンミは、驚いて従業員を見た。 ヨンミに笑いかけて、従業員はカウンターの方に戻って行った。 ヨンミの顔つ…

『手間のかかる長旅(066) ヨンミと美々子の仲』

時子(ときこ)とヨンミ、二人で歩いて例の喫茶店にやってきた。 ヨンミは若干緊張している。 家出してきた訳を、町子(まちこ)と美々子(みみこ)に説明するのだ。 何かにつけ緩い町子はともかく、美々子は厳しいところがある。 当事者のヨンミでなく、時…

『手間のかかる長旅(065) ガムは苦手な時子』

おなかがいっぱいで動くのが辛かったが、そろそろ出かけないといけない。 ヨンミが身の回りのものをまとめて、持参したボストンバッグの中に片付けている。 その仕草を眺めながら、時子(ときこ)は歯磨きした。 先ほど二人で食べたキムチは美味しかったが、…

『手間のかかる長旅(064) おやつにご飯とキムチ』

結局ヨンミは時子の自室まで、購入した米袋総量10キロを運んでくれた。 ヨンミは小柄な女性で、特に力持ちにも見えなかった。 その彼女が自室までの短くはない道のりを、文句のひとつも言わず重い米袋を運ぶ姿に、時子は感銘を受けた。 もしかしたらヨンミな…

『手間のかかる長旅(063) 二人はお米で頭がいっぱい』

二人は朝食にトーストを何枚も食べて出てきたのだ。 だが古墳を見て、かまどとお釜とご飯とを連想した時子(ときこ)とヨンミは、それぞれご飯に心を奪われた。 前夜、夕食の際に十分なご飯を食べられなかったことが、心残りでもあった。 「なんか、ご飯食べ…

『手間のかかる長旅(062) 古墳とご飯』

坂道を登って雑木林を抜け、小さく開けた場所に出た。 時子(ときこ)とヨンミは、盛り上がった古墳の裾に立っていた。 「わりと大きいね」 時子は感心して声をあげた。 古墳は、土を持った円形の小山だった。 数メートルの高さがある。 小山の斜面の上部に…

『手間のかかる長旅(061) 住宅地にそんなものもある』

朝食後、時子(ときこ)はヨンミを案内して自宅の周辺を散歩することになった。 周辺は、何の変哲もない郊外の住宅地である。 特に見るものもないが、昼の待ち合わせまでかなり間があるので、軽く時間をつぶそうと時子は思ったのだ。 二人で部屋にいて、それ…

『手間のかかる長旅(060) 二人の朝食』

翌朝、部屋は冷え冷えとしている。 時子(ときこ)が目覚めたとき、彼女はヨンミと抱き合う格好になっていた。 寒かったので、お互い同じ寝具の中で丸まるうちに、抱き合っていたらしい。 人間二人で抱き合って寒さをしのぐ話を、登山小説か何かで読んだこと…

『手間のかかる長旅(059) 部屋にある寝具』

食事を済ませて、時子(ときこ)とヨンミは交代でシャワーを使った。 時子はパジャマに着替えた。 ヨンミはパジャマを持参しなかったらしく、シャワー前とは別のTシャツとジャージに着替えている。 その後の二人は、言葉が通じない以上特に話すこともなく、…

『手間のかかる長旅(058) 米不足の食卓 』

ヨンミを泊める一件をとりあえずメールで連絡した町子(まちこ)と美々子(みみこ)から、時間差を置いてそれぞれ返信が来た。 勤務先での休憩時間に入ったのだろう。 時子(ときこ)はそれらのメールを読んだ。 二人とも激励の言葉と、明日の昼に例の喫茶店…

『手間のかかる長旅(057) ヨンミがうらやましい時子』

時子(ときこ)は、友人のヨンミを部屋にあげている。 こうなった以上は、なんであれ今晩は彼女を泊めなければ、と時子は思った。 「まあ、とりあえずは今晩は泊めるよ」 畳の上に二人であぐらをかいて向かい合っている間に、時子はヨンミに言い渡した。 「…

『手間のかかる長旅(056) 甘すぎるお茶請けクッキー』

時子(ときこ)とヨンミは肩を並べて、自室の真ん中にあぐらをかいて座っている。 二人して、マグカップで入れたばかりの紅茶を飲んでいた。 目の前に、茶器類が載ったトレーを置いている。 トレーの上には、お茶請けのお菓子の紙箱もあった。 ドラッグスト…

『手間のかかる長旅(055) 思い余って二人で部屋に入る』

ヨンミは切実な目でこちらを見ている。 時子(ときこ)は戸惑った。 ヨンミの足元に落ちているボストンバッグから察するに、おそらく泊めて欲しいと言っているのだ。 どうしよう、と思った。 なにしろ意思疎通ができない。 「泊めて欲しいの?」 「ね」 ヨン…

『手間のかかる長旅(054) お金が欲しいままに自宅に戻る』

食事の後の、つかの間の雑談を終えた。 店を出た時子(ときこ)たち三人は、挨拶を交わしてその場で別れた。 それぞれ、午後からの予定に向かうのだ。 町子はアルバイト先、アリスは広告向けの撮影でスタジオに行くという話だった。 時子には、午後の予定は…

『手間のかかる長旅(053) お金の話はつらい時子』

「ごちそうさま」 食事を終えたアリスが、空になった食器類を前に手を合わせている。 こういう作法も誰か教えた人がいるのに違いない。 時子(ときこ)はぼんやりとアリスを見ている。 カップに残っていたコーヒーを口にした。 町子(まちこ)もアリスの隣で…

『手間のかかる長旅(052) 恐山は日本の聖地』

時子(ときこ)も町子(まちこ)も、戸惑ってアリスを見た。 「恐山って。あの石を積んだ河原があって、霧に包まれてて、イタコさんがいるところでしょ」 「まったくその通りだにゃ」 アリスはくぐもった声で返事しながら見返している。 バターライスをスプ…

『手間のかかる長旅(051) 日本の聖地を推す友』

アリスは料理をおいしそうに食べている。 適度な速度である。 時子(ときこ)も町子(まちこ)も、彼女の食事に付き合って長々待たされずには済みそうだ。 それぞれ自分のケーキを食べ終えて落ち着いたので、二人はアリスが食事する様を眺めている。 アリス…

『手間のかかる長旅(050) アリスの食欲は揺らぐ』

「お前たちは、瞬間移動を見たのに、よくケーキをぺろぺろ食えるね」 アリスは呆れた声をあげる。 ケーキを食べていた時子(ときこ)と町子(まちこ)は、二人とも同時に吹き出してしまい、とっさに口元を押さえていた。 「ぺろぺろって何よ、ぺろぺろって」…

『手間のかかる長旅(049) 肝心な瞬間は見えない』

カウンターの内側に戻る女性従業員を、時子(ときこ)は上半身をひねり、振り返って見ている。 件の従業員は、まるで瞬間移動するように、近づく気配を気取らせずに注文を取りに来る。 そう薄々思っていたところだった。 「瞬間移動の瞬間を見たの?」 上体…

『手間のかかる長旅(048) 勘に優れる友人の所見』

アリスは目を細めてカウンターの方に視線を送っている。 「怪しいと思ったが幽霊なら仕方ないにゃ」 口元でつぶやいた。 彼女がこの店を嫌ったらどうしよう、と時子(ときこ)は心配になる。 この店を知ってからまだ四日目だが、時子は居心地がいいのだ。 友…

『手間のかかる長旅(047) 寒がりの友人を連れて喫茶店へ』

しょうがを使った手作り弁当を食べたおかげで、体が温かくなってきた。 元気が出る。 時子(ときこ)は気分が良かった。 これから町子(まちこ)ともう一人の友人に会うことになっている。 今日は何にも心配することはない、と気楽にかまえた。 「寒いところ…

『手間のかかる長旅(046) 時子は外のベンチで一人食事する』

翌日の昼、時子(ときこ)は一人でいる。 公園のベンチに座っている。 北風が身に冷たい。 彼女の傍らに町子(まちこ)はいなかった。 町子は後ほど、美々子(みみこ)とは別のグループの友人の一人を連れて合流することになっている。 お昼には間に合わない…

『瞬殺猿姫(1) 猿姫うつけ殺し』

領主が本拠を北方の清洲の城に移してからというもの、那古野の城下は寂れる一方だ。 その那古野の、長屋が並ぶ裏路地である。 小柄な若い女が、まじめくさった顔をして歩いていく。 顔が小さくて額の広い彼女が眉をひそめている様は、どこか思慮深い猿を連想…

『手間のかかる長旅(045) コーヒーのおかわりは気持ちを落ち着ける』

コーヒーをおかわりして、時子(ときこ)は落ち着いた。 町子(まちこ)もコーヒーをおかわりして飲んでいた。 食べ終わったモンブランの皿は、すでに片付けられている。 先ほど店の女性従業員が、二人が座るテーブル席に来たのだ。 彼女は空いた皿を下げな…