『手間のかかる長旅(010) 土手下でうたた寝すると夢になる』

芝生はいささか、ちくちくしている。

それが土手の緩やかな斜面に寝転がってまず時子(ときこ)が思ったことだった。

芝生の先が衣服ごしに背中を刺激するのだ。

スカートの先から伸びた両のふくらはぎにも芝生はちくちくといたずらをする。

ただ、不愉快になるほどの強い刺激ではないのが幸いだった。

横になっていれば、気にせずそのまま眠気にのまれてしまうこともできそうだ。

午前中に日光を吸った芝生は適度に乾いていて、温かい。

時子は身をよじった。

時子の隣で町子(まちこ)が仰向けに寝ている。

彼女の方を見た。 町子は頭の後ろで手を組んで枕にし、晴れた空を眺めている。

時子と違って、彼女は眠気に襲われてはいないらしい。

目をぱっちり開いているのだ。

このまま自分が眠ってしまっても町子が起きていてくれるなら安心かもしれない、と時子は思った。

「町子さん」

「うん?」

「ちょっと眠らせてもらっていい?」

「いいよ」

安請け合いが少し怖い。

「町子さんは起きてるの?」

「うん、私は起きてる」

「本当?」

「別に眠くないし」

目を見開いて、しっかりした声で言う彼女の言葉に説得力があった。

時子は再び上半身を芝生の上に横たえた。

土手周辺は静かである。

市街地からさほど離れていないのに、騒音もなく、すぐ下で流れる川のせせらぎが意識に届く。

どこかで川鳥が鳴いている。

あまりに静かだから、雌を呼んでいるのかもしれない。

心地よい日差しと芝生にこもった温かみの上に横たわって時子は再び、うとうと、まどろみ始めた。

次に夢を見るなら何の夢だろう、と思う。

時子は眠りに落ちた。

 

 

眠りに落ちて間もなく、時子は夢の中に来た。

そこは非常に明るい。

内側から照らされるような明るさだ。

なんでこんなところに来たのだろう、と時子は思った。

「うぐいすぱん」の夢を見たときは、時子の頭の中が「うぐいすぱん」の朦朧としたイメージで満たされるというものだった。

それは曖昧な夢だったのだ。

しかし今度のは、時子自身が夢の中に立っている。

妙な場所だった。

二本の川と川との間に挟まれた狭い中洲に時子はいる。

川と川の間の幅は3メートルばかりしかない。

だが中洲の両端はそれぞれ、地平線の果てまで続いていて先が見えない。

川の向こうにはまた川原があって、そこもその先のさらなる川との間に挟まれた中洲なのだ。

その中洲の先の川を越えた先もやはり中洲で、その先の川向こうも中洲である。

見渡す限りの向こうまで川と中洲とが繰り返すのである。

川と中洲になっている川原以外にあるのは空ばかりで、その空は雲に覆われてどんよりとしている。

だが時子を挟む左右の川から日光らしき光が反射して、明るく、またまぶしくもある。

曇っているのだか晴れているのだか落ち着かない。

どこかに移動しよう。

川を越えようにも体が濡れるのは嫌なので、地平線の向こうにまで続く中洲の先端に行ってみようと時子は思った。

石の敷き詰められた川原の上を時子は歩き始めた。

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