『手間のかかる長旅(022) 町子はスマートフォンの達人』
時子(ときこ)は妄想世界の中である。
町子(まちこ)は食事を咀嚼しながら、そんな時子の顔をしげしげと見ている。
「時ちゃん…」
時子は我に返った。
「うん?」
「何を妄想したの?」
表情を読まれたらしかった。
「え、別に何も妄想してないよ」
時子は慌てた。
「何か妄想してる顔だったよ」
「私は何も」
「教えてよ」
「妄想してません」
時子は赤面した。
自分の馬鹿げた妄想について語るのは、羞恥心が許さない。
「まあ、そう言い張るなら、ここはあえて聞かないけどね」
澄ました顔で、町子は口元を紙ナプキンで拭った。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
町子の皿は綺麗に空になっている。
その気になれば人一倍、素早く物事を処理できる町子なのだ。
常時のスマートフォンへの没頭が、そんな彼女の活力を削いでいるのは間違いない。
何事も依存はいけない、と時子は思った。
今日は時子も町子も、それぞれ午後から自分の用事があったので、会計を済ませると店の前で別れることにした。
「次はみんなで来ましょうね」
何気なく言った時子の言葉に町子は反応した。
「あ、そうだったね。明日にする?」
町子は話が早い。
それは嬉しかったが、時子にとって、連日の喫茶店での食事は経済的にこたえる。
「明日は私、お昼お弁当にするから。それに明日いきなりだと、みんな都合がつかないんじゃない?」
「そうかな。じゃあ金曜日とかどう?」
今日は火曜日だから、間はある。
「みんなお昼の予定、空いてるかな」
「大丈夫でしょう。あれだったら、お昼じゃなくても、夕方ぐらいにここでお茶でもいいよ」
町子は背後の店内を親指で示した。
「その後、みんな予定が空いてたら二次会で遊べばいいじゃん」
町子に任せると、すぐ話が大きくなる。
だいたい、金曜の夜には友人たちもすでに予定を入れている可能性が強い。
友人全員を集める難易度は高くなるはずだ。
ただ、たまにはみんなで遊ぶのもいいかも…と、時子も思った。
本職のイタリアンマフィアだって、会合の後は一緒にカラオケに行ったり、ボーリングに行ったりして楽しむのかもしれない。
「私とりあえず、FINEでみんなに連絡入れておくよ。金曜日のお昼か夜か、空いてないかって」
町子は自分のスマートフォンを出して、明るく言った。
時子はよく知らないが、FINEというのは友人と瞬時に連絡を取れる、スマートフォン上のサービスらしい。
時子の携帯電話はスマートフォンではなく古い型のものなので、そういうサービスは利用できない。
だが彼女以外の友人たちは皆、スマートフォンを持っていて、そのFINEとやらで連絡を取れるようなのだ。
自分が後れを取っている、という意識は時子にもある。
ただうらやましいという気持ちは、特にはなかった。
その気になれば自分の携帯電話でも、メールを使って友人たちに連絡を取れないことはない。
それに時子は、スマートフォンの達人である町子と一緒にいることが多い。
何かあるときは、町子が皆とつながるための媒介になってくれるのだ。
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