『手間のかかる長旅(023) 公園で食事をとれない二人』
翌日、昼どきに時子(ときこ)と町子(まちこ)は落ち合った。
時子は弁当を用意している。
バッグの中に円筒状のランチジャーを忍ばせてある。
ステンレス製のジャーの中にご飯、おかず、スープの三つの容器が入っている。
おかずにたいしたものはつくっていない。
ほうれん草のおひたし、うずらの煮卵、市販のソーセージを炒めたもの。
自分の好物ばかり入れた。
スープは、みそ汁だ。
秋も深まり肌寒くなってきたので、お昼には温かいみそ汁が恋しくなる。
町子の方は、弁当をつくる時間の余裕がなく、朝のベーカリーで惣菜パンをいくつか買ってきたらしい。
町子と並んで歩きながら、時子は弁当に思いを馳せた。
「どこで食べようか」
「公園のベンチが空いていればいいんだけどね」
オフィス街と飲食店街を結ぶ場所にある公園のベンチに、一昨日には二人は午前中から陣取っていたのだ。
だが今日は昼どきに合流したので、これから席を確保できるかどうかわからない。
二人は件の公園に来た。
「あっ」
町子が気の抜けた声をあげる。
入口から全体が見渡せるほどの、小さな公園である。
先日時子と町子が座っていた場所のものを始め、園内のベンチ全てがすでに占められていた。
昼食をとる勤め人、学生たちに先を越された。
「まあ予想の範疇ではあったよね」
「うん」
と言って、この公園が駄目ならどこへ行っていいかわからない。
「どこへ行こうか」
二人とも一瞬、思案した。
「時ちゃん、例の土手下は」
時子はかぶりを降る。
「嫌だよ、あの土手はもう…」
「まあ、今日はちょっと寒いもんねえ」
先日種々の災難に遭った河川敷への時子の生理的嫌悪感を、町子はいまいち理解していないらしい。
「屋内がいいよね」
「そうね」
木枯らしも吹いている。
「飲食物持ち込みのできる屋内に行きましょう」
町子は元気のいい声で言った。
「それはどこ」
「いろいろあるでしょう」
時子の顔色をうかがっている。
「ね、どこか思いつかないかな?」
時子頼みなのだ。
時子は首をかしげた。
街中で、屋内で、飲食物を持ち込めて食事ができる場所は限られている。
公共施設ぐらいだろうか。
「公共施設の休憩スペースとか、食堂とか?」
「さすが時ちゃん、頭いいね」
町子は手放しで褒める。
時子も悪い気はしなかった。
「それで、さ。この辺にそういうところあったかな」
「どうかな」
官庁街は離れていて、歩いていくには少し遠い。
「ああそう言えば警察署あったよね、この近所に」
町子が頭に思い浮かんだらしいことを気軽に言う。
「警察署も公共機関だから、食堂使えるんじゃない?」
町子は警察署に抵抗がないのだろうか、と時子は呆れた。
彼女の方は土手での警察官との一件もあるので、警察官にも彼らの施設にも、できる限り近寄りたくないのだ。
「私、警察はちょっと」
「どうして?時ちゃん何かしたの?」
「この前警官に絡まれた話、したでしょう。あなたが寝てる間の話」
「そうだっけ」
鈍感な人だ、と時子は内心憤慨する。
「それなら仕方ないけど、警察署以外に公共施設とかあったかなあ」
「近くの交差点に、周辺の案内地図版があったでしょう。公共施設、載ってるかも」
「そう言えば何かそんなのあったね」
二人は近くの十字路にまで向かうことにした。
歩いている最中に、町子のショルダーバッグの中でスマートフォンの通知音が鳴った。
町子は歩きながらごそごそとスマートフォンを取り出して、画面を確認する。
「あっ、美々ちゃんがお昼に合流したいって言ってるよ」
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