『手間のかかる長旅(029) 警察署の食堂で話を切り出す町子』

時子(ときこ)はようやく自分の弁当にありつくことができた。

ランチジャーに仕込んできた手作りの弁当を、警察署食堂のテーブル上に広げている。

ほうれん草のおひたし

うずらの煮卵。

市販のソーセージ。

そして、みそ汁である。

食堂で食事をとることがわかっていたなら、みそ汁は用意してこなくてもよかったのだが。

先のことはわからないのだ。

カツ丼定食をおしとやかに食べる美々子(みみこ)の隣に座って、時子も食事を楽しんだ。

向かいの席で惣菜パンを食べていた町子(まちこ)は、パン類を平らげて、食堂で注文したポテトサラダをフォークで崩しながら食べている。

時子と美々子のペースに合わせて、町子はゆっくり食べている。

自然に彼女の口数は多くなった。

「時ちゃん」

「何?」

もぐもぐ。

「せっかくだからこの場で美々ちゃんから聞いておけば?」

「何の話?」

「あれよ。旅の話よ」

「ああ」

時子も思い当たった。

今週の金曜日、友人たち皆で例の喫茶店に集まって会合をする話をしていたのだ。

今度、皆で出かける予定の旅について話したかったのである。

「美々子さんは、金曜日は大丈夫なの?」

時子は横目で美々子を見た。

美々子は、箸でカツ丼の豚カツと卵とじ、ごはんを細かくつまんでは口に運んでいる。

普段ならもっと野生的にものを食べる彼女なのだ。

今日はドラッグストアでの勤務があって、彼女は念入りな化粧を己に施している。

仕事柄、必要であるらしい。

それで彼女は化粧崩れが気になって、オフの日のような野生的な食べ方ができないのだ。

少しずつしか食べられないものだから、内心いらついているのに違いない、と時子は思う。

気の毒なのであった。

「大丈夫だよ。町子にFINEで連絡もらってから、すぐお店に休みの申請したから」

豚カツを箸先で扱いながら、美々子はもどかしげに説明する。

「オフにしてもらった。だから私は一日大丈夫だよ」

町子が金曜日の連絡を入れたのは昨日で、火曜日。

金曜日はその三日先だ。

ドラッグストアで三日前のシフト変更が通るものなのかどうか時子にはわからないが、それが受け入れられているということは、美々子は職場でもそれなりの地位と信頼を得ているのかもしれない。

時子は美々子を頼もしく思った。

「それはよかった。私と時ちゃんで、旅のことを話しててさ。みんなで一度集まって話そう、ということになったの」

町子は説明した。

「私は台湾がいいって」

美々子は言下に言った。

「まあまあ」

町子はなだめる。

友人たちのメンバーの中で、台湾に行きたがっているのは美々子だけだ。

「言っとくけど、私、妥協の余地はないからね」

美々子はがんばった。

性格的に言って、説得が一番難しそうなのは美々子なのである。

「まあまあ。希望はみんなあるわけだからさ」

町子は穏当に話を進める気でいるらしい。

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