『鰹節の味のするソーセージ』

鰹節の味がするソーセージを食べている。

初めて食べる銘柄だ。

ふいにソーセージが食べたくなって、近所のスーパーで手近にあった商品をつかんだら、その商品だったのだ。

かじると、豚肉の味とは別に、鰹節の味と香りが口の中に渦巻く。

うまかった。

私はソーセージは好きでよく食べるが、近所のスーパーでこんな商品を扱っているとは知らなかった。

ひと袋ソーセージ10本入りの商品である。

袋には販売会社の名前が印字されている。

知らない会社名であった。

「へええ」

と言いながら私は残り9本のソーセージが入った袋を冷蔵庫に戻した。

が、思い直して冷蔵庫から再び取り出し、2本のソーセージを新たにつまみ出した。

7本のソーセージが入った袋を改めて冷蔵庫に戻した。

手に2本の鰹節の味のするソーセージを持って、私は自室の外に出た。

 

アパートの裏手に竹林がある。

その竹林の中に、数匹の猫が住み着いていた。

私はそれらの猫たちと顔見知りであった。

鰹節の味のするソーセージをごちそうすれば、喜ばれるに違いない。

私は昼でも薄暗い竹林の中に分け入った。

竹はずいぶんと密生している。

ところどころ、土の中から竹の子が飛び出ている。

竹が地下茎を行き渡らせているのか、地面にはぼこぼこと段差があって歩きにくい。

つまずけば育ちかけの竹の先に倒れてしまいそうで、危ない。

「おーい。鰹節の味のするソーセージ持ってきた」

足元がおぼつかないので腰を落とした姿勢で私は呼びかけた。

にゃあああと声がする。

「どこ?」

にゃあああ。

「どこかな?」

私は2本のソーせージを両手にそれぞれ持ってぶらぶらと揺らしながら、猫を探索した。

にゃあああ。

私は竹の合間をさまよう。

猫の鳴き声が近づいてくる。

にゃあああ。

「どこ?」

にゃあああ。

背後だ。

「にゃあああ」

背中に感じる気配と声に後ろを振り返った。

猫を抱いた人が立っていた。

私の馴染みの三毛猫を抱いて、こちらを見ている。

見覚えのない、中年女性だ。

「あっ」

両手にソーセージを持った私は、思わず声をあげてしまった。

群生する竹がつくる影に顔を覆われながら、女性はじっと私の目を見ている。

「にゃあああ」

女性に抱かれている三毛猫は、訴えかけるように私に向かって鳴き声をあげている。

私は立ちすくんだ。

「あの、猫に餌を…」

何を言うべきかわからないが、口走っていた。

「駄目なのは知ってたんですが、つい…」

うしろめたい。

女性は言葉もなく、じっとこちらを見ている。

野良猫に餌を与えることはいけないし、もしかしたら市販のソーセージを食べさせることは猫の健康にもよくないのかもしれない。

女性はどちらかの理由で私を非難しようとしているのかもしれない。

私はいたたまれなくなる。

両手に持ったソーセージを手持ち無沙汰にぶらぶらと振った。

その瞬間である。

「うにゃああああっ」

女性が、興奮した猫のような激しい鳴き声を発した。

抱いていた三毛猫を放り出した。

両手を開き、私の方に向かって襲いかかってきて…。

「あああああっ」

私が両手に持っていた鰹節の味がするソーセージを、無理やりもぎ取った。

2本ともである。

女性はその包装ビニールに包まれたままのソーセージを口にくわえた。

顎を上下させて、わしわしと噛み始める。

野性味があった。

包装ビニールが破け、ソーセージ片が彼女の口内から飛び散る。

正視に堪えかねる光景であった。

「にゃあああ」

再び猫じみた声。

1本のソーセージを口に、もう1本を手に持って、女性は体を小さく丸めて走り去った。

密生する竹の隙間を素早くすり抜け、瞬く間にその姿は見えなくなる。

私は呆然と立っている。

「にゃあああ」

馴染みの三毛猫が、私の足にまとわりついて鳴いている。

私と彼女だけが取り残された。

「にゃあああ」

甘えた声だ。

「ごめんな、鰹節の味がするソーセージ2本しか持ってきてないんだよ」

しかしこんな目に遭うぐらいなら、今度からは尋常なキャットフードを持ってこよう、と私は思った。

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