『手間のかかる長旅(035) 疎遠な人を頼りにする』
美々子(みみこ)の職場、ドラッグストアにいる彼女の同僚を狙う。
美々子の弱みを握るために、時子(ときこ)と町子(まちこ)がたどりついた結論がそれだった。
とは言っても時子は美々子と敵対することには消極的なので、ほとんど町子の主導なのだ。
「私だって別に美々ちゃんと敵対するつもりなんかないよ」
町子は今さら言い訳する。
「言い訳じゃないって。ただ、みんなで公平にしたいだけ」
どこまで本音なのか、怪しいところだ。
「もう、私ばかり悪者にして」
町子は時子をにらんだ。
「片棒かつぐって決めた以上時ちゃんも共犯だよ」
町子の言葉は胸に刺さる。
片棒をかつぐと明言したつもりはないが、流れでそうなってしまったのだ。
「でも、どうやってその同僚の人たちに接触するの?知り合いでもいるの?」
答えを期待せずに時子は尋ねた。
町子は携えたバッグからまたスマートフォンを取り出すそぶりを見せる。
「この期に及んでブログの更新?」
「違うの。美々ちゃんの同僚の人、アドレスに入ってるのよ一人」
初耳だ。
「そんな人がいるならはやく言って。知り合い?」
「ううん、ずっと前にアドレスの交換をしただけで…」
と口ごもる。
立ち止まって、スマートフォンを操作し始めた。
「うん、今年はお誕生日のときにお祝いメッセージ送ったきりだ」
町子とその人物は、たいして親しくもない間柄らしい。
「連絡取れそう?」
「連絡は取れるけど、美々ちゃんのプライベート聞きだす流れに持っていくのがな…」
町子は眉間に皺を寄せる。
「まあ、あんまり深く考えないで聞いてみようか」
「深く考えようよ」
時子は町子の腕を取って押し留めた。
「疎遠だったのにいきなり美々子さんのこと切り出すのは失礼じゃない?」
「そんな気にしなくていいんじゃないかなあ」
町子は誰にでも社交的なたちである。
彼女の方が時子よりも人付き合いが上手い。
だから、時子が心配することはないのかもしれないが、少し心配だ。
「でも今、美々子さんの同僚で連絡取れるの、その人だけなんでしょう」
「うん」
「なら、少し慎重になった方が」
「まあねえ」
と言う町子はさして時子の言葉を重んじる風でもなかった。
「真面目に聞いて」
「そんなに心配しなくていいよ。もし相手を怒らせるようなことになったらさ。お店行って、他の同僚の人をナンパでもすればいい」
「無理でしょう。美々子さんにもばれるよ」
時子はため息をついた。
どっちに転ぶにしても、町子に任せるほかない状況だ。
時子にできることはない。
「じゃあ、もう任せるね」
町子は笑顔を見せる。
「うん。うまくすれば、その人呼び出して、あの喫茶店で事情聴取するよ」
そんなにうまくはいかないでしょう、と時子はため息をついた。