『手間のかかる長旅(039) 美々子の同僚と喫茶店で会う二人』

東優児(ひがしゆうじ)は、背の高い男性だった。 

ほっそりとした体格をしている。 

顔立ちは整っている。 

美男子、と言っていい風貌だ。 

ただ異様なのは、彼は美々子(みみこ)とよく似た顔なのだった。 

というのも、ファンデーションを地肌に厚く塗っていて、顔が白い。 

目の周囲に濃いアイラインをくっきりと引いている。 

唇に赤々としたルージュを塗っていた。 

彼が自分たちがいるテーブルの横に立ったとき、時子(ときこ)は思わずどぎまぎした。 

「どちらに座ったらいいかしら」 

優児は柔らかい声で言って、町子(まちこ)と時子双方に笑いかけた。 

戸惑う時子と目が合った瞬間、優児は目尻を下げて微笑む。 

時子の心臓が高鳴った。 

「時ちゃんの隣に座ってください」 

町子は、優児に対してぞんざいな口を利いた。 

優児は時子の方を見た。 

呆気に取られた時子は、場所をつめることを忘れている。 

優児の困ったような笑顔を見てようやく気付き、場所をつめた。 

「ごめんなさいね」 

優児は時子に向かってささやくように言って、彼女の隣に腰を下ろした。 

すぐ隣である。 

時子は、優児の体温すら感じ取れた。 

「会いたいって、どういうことだったんですか?」 

心中穏やかではない時子とは別に、町子はテーブルの向こうから、至って冷静に優児を見ていた。 

親しくはない…にしてもずいぶん冷たい口ぶりである。 

もしかしたら、警戒しているのかもしれない。 

そうは思ってみたものの、優児の隣に座っている時子は、冷静な思考を巡らすことが難しかった。 

「それは言葉通り、町子さんに会いたかったの」 

時子の隣で、優児は無邪気に言った。 

柔らかい声だ。 

甲高くはないが、野太くもない。 

耳に心地いい声だった。 

時子は、めまいを覚える。 

「だってあなた、全然相手してくれないんだもの」 

優児は町子の方を見ながら小声で言った。 

その横顔を見ると、町子を軽くにらむようにしている。 

綺麗な横顔だった。 

なんでこんな人が私の横に座っているんだろう、と時子は不思議な気持ちになる。 

「ブログのアドレスは教えたでしょう。私のことが気になるなら、ブログ見てくれたらよかったのに」 

町子は冷たい声で話している。 

またブログか、と時子は思った。 

「ちゃんと毎日読んでます」 

優児は、語気をわずかに強めた。 

拗ねたような口調だった。 

「それにしたって、たまにはあなたの可愛い顔を見て安心したいの」 

優児は、熱っぽい調子で続けた。 

町子は、渋い顔をする。 

どうやら、優児は町子に好意を持っているのに、町子から邪険にされてきているらしい。 

二人の間に何があったのか知らないが、時子の好奇心は俄然高まった。 

「美々ちゃんの話が聞きたくて、来てもらっただけですよ」 

町子は冷酷な声で言った。 

優児の横顔に、失望が見える。 

「で、その子は私の親友の時ちゃん。ちゃんと挨拶してもらえますか?」 

町子は時子を指差しながら、冷たく優児を見据える。 

優児は、時子の方に向き直った。 

目と目が合う。 

時子の胸が高鳴った。 

「私、東優児です。私のこと、町子さんからもう聞いてるかしら?」 

「え、いいえ」 

かすれる声で、何とか時子は答えた。 

優児は寂しそうな笑みを浮かべる。 

「町子さんの友人の時子です、よろしくお願いします」 

時子は慌てて、優児に向かって右手を差し出した。 

男性相手に、手を差し出すのは、時子にとって常ないことである。 

だが、無意識にそうしていた。 

優児は、時子の手をそっと両手で覆った。 

「よろしくね」 

時子の目を見て、笑顔でささやく。 

時子は、気が遠くなった。

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