『うつらうつらと夢見心地な朝』

深夜、眠れない。 

手持ち無沙汰なので、少しだけのつもりでスマートフォンパズルゲームを遊び始めた。 

朝である。 

あっという間だった。 

スマートフォンの電池が切れて、我に返った。 

一睡もしていない。 

頭が重い。 

まぶたも重い。 

しかし、今日は月曜日だ。 

出かけなければ。 

ベッドから渋々起きだした。 

とたんに、激しい眠気に襲われた。 

なんという間の悪さだろう。 

「ああもう、眠気のひどさで顔が曲がる」 

叫び声をあげて、自分の気持ちに景気をつける。 

通行人たちが驚いてこちらを振り返った。 

しまった、と思った。 

路上を歩いているところだった。 

もう家にいるのか外にいるのかすら、あやふやなのだ。 

寝ぼけながらも恥ずかしくなって、人通りの少ない裏路地に逃げ込んだ。 

半分眠りながら、歩いている。 

そこは、歩道と車道の境があやふやな、狭い道なのだ。 

車道はぎりぎり二車線あるかないかの幅だ。 

車同士がすれ違うときにはどちらもいったん止まって、注意深く低速でお互いをやり過ごさなければならない。 

田舎でよかった、と思う。 

幸運なことに、朝の出勤通学時間帯にも関わらず、通る車はとても少ない。 

その環境に甘えた。 

半分眠りながら、道の上をあっちへ行ったりこっちへ行ったりしているのだ。 

もし後ろから自動車が走ってきたら、轢かれるだろう。 

走ってこないので、生きながらえている。

 「眠いいいい」 

車よりも、心配は眠気だ。 

歩きながら睡眠状態に入って、そのまま倒れて頭部を強打するおそれがある。 

いつの間にか側溝に足を突っ込んで、転倒して頭部を強打するおそれがある。 

それだけならまだしも、眠っている間に転倒して、数日後どこか見覚えのない場所で目覚めるおそれもある。 

数日間眠れるならそれもいいかもしれない。 

頭を振った。

 駄目だ。 

何としても、意識をしっかり持って一日を耐え抜かなければ。 

 

ひと気も車気もない寂れた裏路地なのに、コンビニがあった。 

店舗の前にのぼりが立って、風にあおられはためいている。 

じっくり煮込んだおでん。

手握り感の新鮮おにぎり。 

お野菜たっぷり具だくさん豚汁。 

そんな売り文句がはためいている。 

おでんか豚汁で一杯やりたいな、と思った。 

一杯やってから寝よう。 

コンビニ店内に入った。 

カウンター内の従業員におでんを注文しようとして、我に返った。 

寝てはいけない。 

「眠気覚ましドリンクとかあります?」 

若い男性従業員が薄目を開けてこちらを見ている。 

「でしたら、あちらの棚です」 

近くの棚を指差した。 

声が消え入りそうだし、指先が力なく垂れているし、薄目は今にも閉じそうになっている。 

この従業員もなんだか眠そうだ。 

この人もスマホ中毒かな、と一瞬気の毒になる。

いや、夜勤明けなのだろう。 

他人の心配をしている場合ではない。 

眠気覚ましドリンクとおでんとワンカップ酒を袋につめてもらい、店の外に出た。 

よし、帰って晩酌…と思うのだが、周囲が明るいので気分が出ない。

また眠るつもりになっていた。 

駄目だ、気を抜いたら体が勝手に家に帰ってしまう。 

 

こんなことではいけない。 

眠気覚ましドリンクを飲んでしまおう、と袋から小瓶を取り出した。 

ラベルには「天国のような安眠をおやくそく。天使のねむねむドリンク」と書いてある。 

よしよし、あつあつのおでんで一杯やった後に、こいつを飲めば一発だぜ。 

重くてたまらない目をつぶって口元だけで笑いながら、もと来た道をさかのぼった。

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