『手間のかかる長旅(040) 客人にいらだつ町子を観察する』
いろんな人がいるものだな、と時子(ときこ)は思った。
隣に座る東優児(ひがしゆうじ)を、横目でちらちらと見ている。
彼の同僚である美々子(みみこ)の交友関係を聞きだそうと、町子(まちこ)と二人で喫茶店に呼び出したのだ。
優児は、落ち着いた仕草でコーヒーを飲んでいる。
町子は、優児が来てからというもの、表情が優れない。
彼女は時子と二人でいるとき、優児のことをまじめくさった人だと言っていた。
今のところは、町子の方がまじめくさった顔をしている。
優児がどうまじめなのかじっくり見よう、と時子は思った。
「今言ったとおり、美々ちゃんのことが聞きたくて呼んだんです」
町子は低い声で優児に話しかけた。
優児の顔を見ながら、右手に持ったフォークで皿の上のモンブランの残骸を弄んでいる。
「彼女、最近変わったことありません?」
「美々子さんね。元気よ」
優児は笑顔だ。
「私の方は美々子さんに、町子さんは元気って?いつも聞いてるの。ひどいのよ。FINEでも何でも使って自分で聞け、っていつも怒鳴られるの。彼女強いわね。相変わらずよ」
口元を押さえて笑う。
「でも、私スマートフォンの扱い、あまり得意じゃないの。根が古い人間なのね。FINEとかSNSとか、気がすすまなくって」
私と気が合うかもしれない、と時子は思った。
優児は町子の目を見ている。
「で、あなたのことずっと気になってて。あなたのブログ毎日読ませてもらってて、もどかしくて。挙句にはFINEでメッセージを送ろうかどうか迷ったんだけど。決心がつかなかったのね。気を揉んでたの。町子さん、元気してた?」
「ブログ読んでるなら、私の近況はわかるでしょ」
町子はそっけなく言って、目を逸らした。
いつもの彼女を知っている時子から見ると、邪険になったと言ってもいい変わりようだ。
「そうだけど…。久しぶりに会ったから、私、あなたの口からいろいろと聞きたいの」
「ここ、そういう目的でセッティングされた場所じゃないんですよ」
町子はフォークの背でケーキを皿にぎゅうっと押し付けた。
いらだっているのだろうか。
時子はそんな彼女を興味深く見ている。
回りくどい言葉を吐き捨てる彼女の態度が新鮮だった。
「あら、ごめんなさいね。私、お喋りが過ぎたかしら。ごめんなさい」
隣の彼は口元を押さえた。
助け舟を求めるように、時子の方を見る。
敵意がないことを示そうと思って、時子は笑顔をつくった。
優児も笑顔を返してくる。
感触は悪くない。
基本町子と優児に話し合いを任せながら、機を見て自分も口を挟んでいこう、と時子は思った。
そういう機をつかむには勇気がいるが、優児相手だとそこまで緊張しなくてもいい気がしてきた。
「時子さんは、町子さんとも美々子さんとも長いの?」
笑顔の交換だけかと思ったら、ふいに優児の言葉を受けた。
一瞬戸惑った。
「ええと、まあまあです」
「あら、まあまあなの」
「はい。短くも長くもないです」
「そうなのね。それは、まあまあね」
優児は馬鹿にする風でもなく、微笑んだ。
確かにまじめな人かもしれない、と思いながら時子は彼に微笑み返した。
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