『夜明け前に来る不審なもの』
騒々しい音に惑わされて、目が覚めた。
辺りはまだ暗い。
夜明け前だ。
ぶいいいん、と何かが細かく振動するような音が続いている。
カーテンを閉めた窓の外から聞こえてくる。
よほど大きな音なのだ。
菊江(きくえ)は、窓に近づいた。
カーテンを少しだけ動かして、小さな隙間をつくった。
二階の窓越しに外をうかがう。
家の前の通りを見下ろして、はっと息を飲んだ。
家の前に、奇妙なものがある。
それは横に伸びた楕円形の、ワゴン車ほどの大きさの物体だった。
夜明け前の空の下で、うすぼんやりと発光している。
その物体が、奇妙な騒々しい音を発しているらしい。
悲鳴をあげそうになる自分の口と喉を、菊江は必死に両手で押さえた。
声をあげたら、物体に自分の存在がばれる。
でもとりあえず写真を撮っておこう、と思った。
携帯電話を取り出した。
カメラ機能がついている。
フラッシュを焚くと、物体に自分の存在がばれるかもしれない。
フラッシュモードをオフにする。
これで、大丈夫だ。
菊江は薄く開けたカーテンの隙間から、携帯電話のレンズを窓越しに物体に向ける。
ぶいいいん。
物体が発する音が、大きさを増した。
何か不吉な感じがした。
あれだけ音が大きくなれば、うちの両親かご近所の誰かが気付いて起き出してくるのではないか、という気がする。
もしかしたら、下の階で寝ている両親はすでに起きているかもしれない。
今の自分のように、窓からあの物体の様子を息を殺して見守っているかもしれない。
菊江はカメラのシャッターを切った。
派手な音と共に、フラッシュが焚かれる。
「え、ちゃんとオフにしたじゃん」
思わず、携帯電話に向かって抗議の声をあげていた。
はっとして、窓の外をのぞく。
発光物体は、変化を見せていた。
物体の中央で光が渦を巻き始めている。
やがて渦は大きく広がり、その中心から、人の姿が現れた。
菊江は口元を押さえた。
物体の中から、人が現れて外に出てきたのだ。
だが、その人の姿は物体と同じく発光していて、鮮明ではない。
人型をしていることだけがわかる。
その人型が、菊江の家の玄関先に歩いていくのが窓から見えた。
悲鳴をあげそうになる。
不慮の事故ながら、自分がフラッシュを焚いたせいだ、と思った。
ベッドに戻って、毛布を頭からかぶって恐怖から逃れたい。
だが菊江の足は、根が生えたようにその場に固まって動けない。
どんどん、と玄関の扉を叩く音がする。
来てしまった。
どんどん。
どうしよう、と菊江は混乱した。
どんどん。
動けない。
下の階で、人の動く気配があった。
両親の寝室の扉が開く音がした。
玄関に向けて、足音の重さからすると父だろう、大股に歩いていく。
どんどん。
「帰れ」
怒鳴り声。
やはり父だった。
どんどん。
「帰れ」
どんどん。
「帰れ」
扉を叩く音は、聞こえなくなった。
菊江は窓の外を見る。
発光する人型が、物体に戻っていくのが見えた。
物体は、渦の中に人型を飲み込んだ。
渦は一度波打って、物体の表面から消えた。
奇妙な音が収まった。
物体は静かに宙に浮く。
そのまま上昇を始めた。
窓の内側から見ている菊江の目の前を下から上に通り過ぎ、空に向かっていく。
音もなく、静かだ。
夜明け前の空の向こうに、発光する物体は遠ざかっていった。
朝になったらひとこと、父に礼を言っておこう。
携帯電話のカメラで撮った写真を見ながら菊江はそう思った。
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