『手間のかかる長旅(043) 美々子の弱みを聞き出しにかかる』

美々子(みみこ)の交際相手は、東優児(ひがしゆうじ)だった。

それを優児から聞き出したはいいが、彼は泣き出していて、それ以上の追求は難しい。

美々子の弱みを聞き出す状況ではなさそうだ。

と、時子(ときこ)は思った。

「まさか、東さんが相手だったなんて」

町子(まちこ)はテーブルの向こうから、呆れた目を優児に向けている。

「美々ちゃんもあなたも、私に上手く隠してたのね」

「ごめんなさい」

優児は泣きじゃくる。

「まあ、実際あなたたち二人がどんな関係だろうが。私には、何の関係も無いことですけど」

「お願いだからそんな言い方しないで」

冷たい町子の言い草に、優児は涙をこぼしながら懇願している。

そんなに謝らず堂々とすればいいのに、と時子は思った。

彼が本当に美々子と交際しているのなら、時子と町子…特に町子が欲しがっている美々子の弱みを、おそらく優児は知っているはずなのだ。

本当なら、町子はもっと低姿勢になってそれを教えてもらうはずのところだ。

だが町子の邪魔をするのは悪いので、時子は黙って状況を見ている。

「私とも美々子さんとも仲良くしてください、お願い」

この優児から、美々子の弱みを聞き出すことなんてできるのだろうか。

「仲良くしますよ。もちろん」

答える町子はにこりともしない。

「でも、問題があるんです」

優児は涙をハンカチで拭い、もったいぶって言う町子の顔に思いつめた視線を向ける。

念入りな化粧が乱れに乱れて、気の毒だ。

「最近、私たち美々ちゃんとの接し方に悩んでいまして」

私たち、と言う中に自分が含まれていることに時子は気付いて、驚いて町子を見た。

町子は時子に目配せする。

黙っていろ、ということらしい。

「あの子、本当に押しが強いんですよ。それがいいときもあるんだけど、仲間内の和を乱すようになると困ります」

「彼女、悪い子じゃないんです。根は優しいんです」

冷たい町子の言い方にさすがに黙っていられなくなったらしい。

優児が美々子を弁護する。

まるで美々子の母親のようなことを言っている。

「いや、もちろんそれはわかってますけどねえ。彼女が我が強いのは事実でしょう?」

「それは」

優児もそこは言い返せなかった。

「美々ちゃんが他の子たちを圧迫するようになったら、お互いのためによくないと思うんですよ」

「ええ…」

「で、あなたに協力して欲しいんです」

町子は抜け目が無かった。

「私にできることなら」

優児はおずおずとうなずいた。

時子は思う。

ここで、優児から美々子に「自己主張を若干控えるように」とでも言ってもらうよう頼めば、話は解決するのだ。

「美々ちゃんの弱みを教えて欲しいんですよ」

町子は、優児の顔を上目遣いに見ながら言った。

それは時子が見慣れた、いつもの町子らしい表情だった。

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