『手間のかかる長旅(045) コーヒーのおかわりは気持ちを落ち着ける』

コーヒーをおかわりして、時子(ときこ)は落ち着いた。

町子(まちこ)もコーヒーをおかわりして飲んでいた。

食べ終わったモンブランの皿は、すでに片付けられている。

先ほど店の女性従業員が、二人が座るテーブル席に来たのだ。

彼女は空いた皿を下げながら、コーヒーのおかわりが自由だと言って勧めてくれた。

ありがたかった。

三日連続で来店して、覚えてもらったのかな、と時子は思った。

東優児(ひがしゆうじ)がいる間も彼が帰った後も、時子たちの周りには不穏な空気があった。

あの従業員なりに、遠くから成り行きを見ていたのかもしれない。

彼女の心遣いに時子は感謝した。

時子が優児の扱いについて町子を責めたことで、二人の間に気まずい空気が流れていたところだった。

二人とも美味しいコーヒーのおかげでひと息つけて、何となく場の緊張感が緩んだ。

「時ちゃん、もう心配するのはやめようよ」

町子が先に口火を切った。

「私やり過ぎたかもしれないけど、ともかく短期的な結果だけ見ればうまくいったんだから」

町子の楽観的な姿勢には、いつも感心してしまう。

時子は、口元で苦笑した。

「まあ、確かにね」

優児から、彼が美々子(みみこ)との交際から知りえた秘密をいくつか聞き出した。

美々子がグループ旅行の旅先として台湾を強硬に推す理由も知ることができた。

「そうでしょ。これからは、美々ちゃんをもう少し操れるようになるよ」

町子は無防備な発言をする。

眉をひそめて見る時子の視線に気付いて、慌てて首を振った。

「あ、そうじゃなくてね。何となく彼女が無茶するときには、勢いを抑えられるかな、って」

「ははあ」

時子は生返事をする。

彼女の反応に、町子は不安を覚えたらしい。

「だいたい、これは信じて欲しいんだけどね。私だって知った秘密を悪用して美々ちゃんを脅すようなつもり、全然ないんだから」

なおも言い募った。

確かに、それも時子が心配していたことだった。

「美々ちゃんが荒ぶってどうしようもなくなったときに、他に方法がなければちらっとほのめかすぐらい。そういう加減でいいかな、と思ってるの」

「全然使わなくてもいいぐらいよね」

彼女の弱みを握っていることを美々子に気付かれたら、逆に足がついてしまうかもしれない。

優児を呼び出して脅した、ということが今度はこちらの弱みになるのだ。

そして、時子はできる限り美々子と敵対したくない。

「あくまで、知っていることで心理的優位に立つ、ぐらいの効果を狙うだけにしない?」

「まあ、できればそうしたいけれど」

町子は若干、不満そうな顔だった。

彼女は、美々子より露骨に優位な立場にいたいのかもしれない。

私は美々子も町子も気をつけて見ていなければ駄目なのだ、と時子は改めて緊張感を持った。

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