『手間のかかる長旅(058) 米不足の食卓 』
ヨンミを泊める一件をとりあえずメールで連絡した町子(まちこ)と美々子(みみこ)から、時間差を置いてそれぞれ返信が来た。
勤務先での休憩時間に入ったのだろう。
時子(ときこ)はそれらのメールを読んだ。
二人とも激励の言葉と、明日の昼に例の喫茶店で皆で落ち合う旨をつづっている。
メールの文面を読みながら、時子はうなずいた。
とりあえず、ヨンミを一晩預かる決心はついたのだ。
気持ちに区切りがついたので、時子は夕食の準備をしようと思った。
昼食向けにこしらえた豚の甘辛焼き、煮豆、きんぴらごぼうの残りが冷蔵庫に入っている。
お客に出すおかずとしては若干華やかさに欠けるが、ヨンミは納得してくれるだろう。
時子の暮らし向きがさほど豊かでないことは狭い部屋の様子からわかりそうなものだ。
「ご飯はあるかしら」
小さく独り言を言いながら、キッチンに置いた炊飯器の中をのぞいた。
二人分としては、心もとない量だった。
しかも米びつの中には、新しく炊くだけの米が残っていない。
時子は暗い気持ちになった。
もしヨンミが転がり込んでくることがわかっていたなら米ぐらいは無理をしても買っていた。
普段の時子は、米を買うことに消極的だった。
一般的に米は多めのものを買うほど割安だ。
だが、重量があるので気軽には買えない。
時子の住居から、米を買える一番近い場所にあるスーパーマーケットまで距離がある。
自家用車を持っていない時子には、米を買って担いで帰るのは苦痛なのだった。
近隣の米穀店に配達を頼めれば便利に違いないのだが、そうして配達料金がかかることを時子は恐れた。
それでスーパーマーケットの特売時に出向いて行っては、自分で持ち帰れるぎりぎりの量の米を買っている。
どうしても米を買う頻度は少なくなるので、米びつの米は不足しがちになった。
それでも小食な時子の一人暮らしなら、さほど困ることもなかったのだ。
畳の上に座って機嫌よくしているヨンミの方をうかがい、時子はため息をついた。
夕食時になった。
二人で座って、食事を載せたトレイを間に置き、食べている。
二人分のご飯茶碗にご飯をよそったが、ヨンミの分を多めにしても、茶碗の底の方で盛り上がっている程度の見た目になってしまった。
時子はヨンミの表情を目にするのが怖くて、相手の顔を見ることができない。
ヨンミは特に文句も言わず食事をとった。
部屋にはテレビもラジオもないので、面と向かって食事するほかない。
二人とも口数は多くなかった。
食事を始める前にノートパソコンを起動させて、インターネットラジオの番組でも流せば、食卓も若干にぎやかになったかもしれない。
食べながら時子は気付いたが、気付くのが遅かった。
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