『専門技術とラーメン』

「おいっ休むんじゃねえよ」

監督が怒鳴っている。

鞭をぴしりぴしりと地面に叩きつけて鳴らす。

堂に入っている。

「すみません」

私は謝った。

巨石を背負って、通路をよろよろと進んでいたのだ。

巨石の重さは200キロはくだらない。

そんなものを頑張って背負いながら進んでいるのに、監督は容赦がないのだ。

「おいっがんばれがんばれ」

応援しながらも、道の端に突っ立っている監督は鞭を地面に叩きつけた。

ぴしりぴしり。

「はい」

私は息も絶え絶えなので、返事もままならない。

200キロをくだらない重さの巨石を背負っているのだ。

無理もない。

しかもその巨石を運ばされてはいるが、その用途については聞かされていなかった。

「おいっ余計なことを考えるな、心を無にして運ぶんだ」

監督は鞭を鳴らした。

やたらと怒鳴りつけてくる監督だ。

「はいっ」

返事をしないと叱られるので、こちらは苦しくとも返事せざるを得ない。

私は背中に負った巨石を、左右に揺らしながら、その重心の移動を利用して進むのだ。

こうすると、不思議と重さを苦にせず歩けるのである。

この技術は、代々巨石人足であった私の家系に伝わるものだ。

門外不出であり、余人には不可能な芸当なので、それがまた私一人が巨石を運ばされている理由でもある。

技術を占有することは食い扶持を保証することでもあり、また同時に足かせでもある。

巨石を負うことのできる私は幸せであろうか、不幸せであろうか?

「おいっ余計なこと考えるんじゃねえぞ。がんばれがんばれ」

監督は歩いて私を追いながら、鞭を鳴らす。

ぴしりぴしり。

「はい」

私は答えた。

彼が持っている鞭は、うまくぴしりぴしりと音を鳴らすのが難しい。

素人にはできないのだ。

噂によると、監督は代々監督を務める家柄の出身ということだ。

彼が持つ鞭をうまく鳴らすことができるのは、現代では彼だけになってしまった。

彼を唯一の監督たらしめる理由である。

「おいっさっさと片付けてラーメン食いに行くぞ」

ぴしりぴしり。

 

「はい」

それぞれの持つ技術で立場は違っても、ラーメンは平等だ。

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