『べつの言葉で』ジュンパ・ラヒリ

人が外国語を学ぶ理由はどんなものでしょう。

私も外国語を学んでいます。

外国語に堪能になることで得られるいろいろな利点を妄想しながら、学習しているのです。

ですが強いて一番の動機を挙げるなら、その目的は日常を見る自分の視点を変えたいがため。

そういうことになります。

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

作家ジュンパ・ラヒリ氏の新作『べつの言葉で』です。

中嶋浩朗氏による翻訳です。

 

ラヒリ氏はインドの民族であるベンガル人の両親のもとに生まれ、アメリカで育ちました。

最初はベンガル語、やがては英語を自分の言葉とし、英語によって作家となったラヒリ氏です。

イタリア旅行を機にイタリア語に出会った彼女は、その響きに魅せられます。

以来イタリア語を20年以上学んだ後、彼女は家族と共にイタリアに移住しました。

現地で生活しながら、秘密のイタリア語日記をつけていたラヒリ氏。

やがて彼女は、イタリア語を使って小説を書き始めます。

本書はイタリアでイタリア語を学びながら過ごす日々を、ラヒリ氏がイタリア語でつづったエッセイです。

 

私は「どうして外国語で執筆するのだろう」ということを気にしながら読んでいました。

ラヒリ氏は両親と家庭で話すベンガル語と、家庭の外で友人たちと話す英語、この双方と共に育ちました。

彼女はベンガル語を「母」、英語を「継母」と例えています。

長年、この対立する二人の母の板ばさみだった。

けれども、新たにイタリア語が加わったことで、二人の母と距離が取れるようになったと。

ベンガル語と英語のどちらの言葉にも母語として安住することはできず、葛藤を繰り返すなかで彼女は作家になりました。

その彼女が新たに不自由なイタリア語と格闘する過程で、新たな表現を生み出そうとしているのかもしれない。

私はそう解釈しました。

 

日本語に翻訳された本書の文章ですが、ところどころぎこちないながらも味わいのある文章がつづられています。

不自由な言葉で自分の言葉を紡ぐ試行の跡が見られます。

短い小説も二作、収録されています。

今回は翻訳本のお世話になりましたが、いつかラヒリ氏のイタリア語の文章を原書で読んでみたい、と思いました。

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