『手間のかかる長旅(060) 二人の朝食』

翌朝、部屋は冷え冷えとしている。

時子(ときこ)が目覚めたとき、彼女はヨンミと抱き合う格好になっていた。

寒かったので、お互い同じ寝具の中で丸まるうちに、抱き合っていたらしい。

人間二人で抱き合って寒さをしのぐ話を、登山小説か何かで読んだことを時子は思い出した。

ヨンミを起こして、寝具を片付け、朝食の準備をする。

ご飯はないが、食パンがあった。

知名度の低い地方の製パン会社がつくっている安価な食パンを、地元のスーパーマーケットで売っていて、時子はよくそれを買っている。

6枚切りで100円なので、お手頃なのだ。

朝食にもいいし、昼食のサンドイッチにも使える。

ジャムかマーマレードでも塗れば、おなかが空いたときの間食にもなる。

ぱさぱさして美味しくはないが、おなかがふくれるのは大事だ。

食パンの袋の口を両手でつかみ、破った。

ヨンミに背中を向けて、袋から密かにパンの香りをかぐ。

食パンを二枚、取り出した。

トースターに仕掛けた。

ヨンミは二枚ぐらい食べるだろう、と思う。

昨晩はご飯がなかったせいで、ひもじい思いをさせている。

三枚ぐらい食べるかもしれない。

自分の分のトーストは後で焼こう、と時子は思った。

トースターがパンを焼いている間に、コンロにフライパンを置いて、熱し始める。

ハムエッグをつくるつもりだ。

同時に、ケトルもコンロにかけ、コーヒーのためのお湯を沸かしにかかった。

トーストとハムエッグとコーヒー。

悪くない朝食だと思う。

単身世帯用の小型冷蔵庫から、卵とハムを取り出した。

 

温まったフライパンにそれらを落としてハムエッグをつくりながら、時子は小さく鼻歌を歌っていた。

先日、河原で町子(まちこ)から聞いた曲だ。

一緒に朝食を食べる人がいるのは悪くない、と時子は思う。

朝食の準備ができたので、ヨンミと二人で食べた。

昨晩の夕食と同じく、畳の上に座って、食べ物をトレーに載せての食事だった。

ヨンミはおとなしく食べた。

昨晩から、口数が少ない。

その表情にどことなく不安そうなところがあった。

時々彼女の顔を盗み見ながら、時子はかけるべき言葉に困っていた。

ヨンミは、今日の行き先を思案しているに違いない。

詳しい事情はわからないが、すぐに家に戻れない状況なら、また次の行き先を探さなければならないのだ。

今日の昼に、町子と美々子(みみこ)と一緒にヨンミの今後を考える予定ではある。

ただ、その結果うまくヨンミの落ち着き先を決められる保証はない。

 

時子は、状況次第ではもう一晩か二晩くらいヨンミにいてもらってもいい、などと考え始めていた。

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