『手間のかかる長旅(063) 二人はお米で頭がいっぱい』
二人は朝食にトーストを何枚も食べて出てきたのだ。
だが古墳を見て、かまどとお釜とご飯とを連想した時子(ときこ)とヨンミは、それぞれご飯に心を奪われた。
前夜、夕食の際に十分なご飯を食べられなかったことが、心残りでもあった。
「なんか、ご飯食べたくなったね」
古墳の築山から下りながら、時子はつぶやいた。
ヨンミは時子を振り返った。
「お。おんにど?ちょぬんぱぷるもっこしっぽっそよ」
表情に同意の意を表していた。
古墳の下に来た。
まだ、午前中だ。
町子(まちこ)、美々子(みみこ)たちとの待ち合わせ時間までにはまだかなり間があった。
時子はご飯のことを考えている。
「まだ時間あるし…。お米買いに行きましょうか」
時子はヨンミに提案した。
「ちゃんそんいんにだ」
ヨンミはうなずいた。
同意のようだ。
古墳のある空間から再び雑木林を抜け坂道を降りていく。
歩きながら、時子の脳裏にひらめきがあって、彼女はじわじわとほくそ笑んでいた。
一人ではお米を買いにくい。
米の詰まった袋は重いのだ。
でも、今はヨンミがいるのだから、お米を多めに買うチャンスだ。
一緒に買い物に行くべきなのだ。
「お米食べたいよね?」
「ね」
ヨンミは一も二もなく同意する。
「お米重いけど、運ぶの手伝ってくれる?」
「ね。むるろんいんにだ」
ヨンミは力強く請け負った。
自分が5キロ、ヨンミも5キロ。
なんとかお米の袋を担いで帰れるだろう、と時子は計算する。
古墳をきっかけに、二人してお米のことを考えながら、最寄りのスーパーマーケットに向かった。
住宅地から離れ、しばらく歩いた国道沿いにその店はある。
時子の行き着けのスーパーマーケットである。
お米も安い。
「ここでお米を買って、家に持って帰って炊いて食べます。運ぶの、大丈夫ね?」
「ね、けんちゃなよ」
時子とヨンミの息はぴったり合っている。
開店時間になったばかりの店内に、二人で入った。
迷わずお米売り場へ。
5キロのお米を二人でひとつずつ、抱えた。
重いが、家まで運べないほどではない。
「レジに行きましょう」
「あーおんに、ちゃんかんまんにょ。きむちけんちゃなよ?」
レジに向かおうとする時子にヨンミは慌てて声をかけた。
「え、キムチ?」
「ねー、きむちどましっそよ」
時子に媚びるような視線を送ってくる。
キムチは、韓国で食べられている辛い漬物だ。
実は時子はこれまでの人生で、キムチを食べたことがなかった。
「キムチ…ご飯にあうの?」
「ね」
言われてみれば、お米のことで頭がいっぱいなのに、付け合せのことを考えていなかった。
家には漬物もない。
せっかくだからこの機会にキムチを食べてみようかな、と時子の気持ちが揺らいだ。
いったん米を棚に戻して、二人で漬物が並んでいる冷蔵棚の一角に行った。
時子が予想したよりも、キムチの銘柄はいろいろあった。
どれにしたらいいのかわからない。
「どれが美味しいのか見た目でわかる?」
「もってよ。くどぅるん、いるぼねきむちいむろ…」
ヨンミは自信がなさそうに、首を振った。
自分で選べ、ということらしい。
やむを得ず、値段が手頃でそれなりに量のあるキムチを時子は選んだ。
キムチを片手に持ったまま、お米のコーナーに戻って、5キロの米袋を空いている手に取った。
ヨンミが気を利かせて、時子の分の米袋を受け取り、米袋二つを重ねて胸の前に抱える。
10キロ分の米袋を、一人で持ってくれるつもりのようだ。
「ありがとう」
これからお米を買いに来るときはいつもヨンミに手伝いをお願いしようか、と時子は思った。
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