『東洋天文学史』中村士

韓国の慶州に旅した際に「東洋最古の天文台というものを見ましてですね。

それ以来、アジアの宇宙観について関心が尽きないのですよ。

東洋天文学史 (サイエンス・パレット)

中村士氏の『東洋天文学史』です。

東洋、加えて日本での天文学の歴史について述べてあります。

 

エジプト、インダス、メソポタミア黄河文明からなる四大古代文明において、数千年前のほぼ同時期に天文学は発生したそうです。

それ以降、世界に天文学が広まっていくわけなのですね。

私が韓国で見た天文台にも触れられていて、満足しました。

日本で独自の暦、また占星術などが生まれた経緯も記されています。

本書を読んで「アジアの宇宙観」をつかむつもりでしたが、かえって「宇宙に向き合う人の心は世界共通だ」という気持ちに満たされました。

私が思うに、天文学というのは人間の欲望にかなっていたからこそ発展したのでしょう。

天体の動きを観測することで、人は時間の流れを測ることができます。

また自分が今いる位置、進んでいる方角など、空間を把握することもできます。

規模の大きい建造物をつくる際にもその知識が必要になります。

天文学の知識が、時と空間を支配することを可能にしたのですね。

軍事面での有用性も大きく、また天体の有り様が為政者が民に対して強いる世界観ですとか宇宙観をも左右しますから、天文学は慎重な取り扱いを受けたわけです。

ガリレオ・ガリレイが関わった地動説天動説論争などもそうですね。

日本でもやはり、為政者が天文学を管理してきました。

「宇宙への憧れ」だけで天文学が発展してきたわけではないのです。

 

宇宙というものに個人として憧れがありますし、ロマンを求めたくなります。

ですがその存在が巨大で、またなまじ富をもたらすだけに、宇宙は生々しい人の世の欲望に関与することになってしまうのですね。

現代の宇宙開発競争もその延長線上にあるのかもしれません。

天体すらその形を変えるのに、人の本質は変わらないのです。

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