『手間のかかる長旅(073) 町子は古墳が嫌らしい』
町子(まちこ)は、苦笑する。
「まあ、私はなんだかんだで何でもネタにできるから、何でもいいの。どこに行ってもいいの、時間つぶせるなら」
友人二人に、済ました顔を向けて、言った。
時子(ときこ)とヨンミは町子の顔を見ている。
「面白いネタは常に欲しいけどね。面白くない毎日だって、ブログ記事のネタにはなるのよ」
町子は語った。
三人はどこへともなく歩きながら、雑談を続けているのだ。
どこで時間をつぶすか、という話だった。
「だからね。別に古墳に行かなくてもいいよ。古墳とか有名人のお墓とか、ちょっと趣味じゃないから」
町子はあまり好き嫌いを言わないたちの女性だ。
それが、少し口調を強めて言い切った。
彼女の物言いは、時子には少し意外だった。
時子はなんだか気後れがした。
ヨンミほどではないが、三人で改めて古墳に行ってみるのも悪くはないかな、などと思っていたのだ。
町子が乗り気でないのに強引に勧めるほど、時子は押しの強い性格ではない。
「はじまん、まちこおんに、こぶぬんいぇっぽよ?」
空気を読まずにヨンミは町子に言った。
「え?ヨンミちゃん、まだこぶんの古墳推してる?」
町子は困惑している。
町子はヨンミの言葉がわからないのだ。
「『古墳はかわいい』って言ってるよ」
時子は通訳した。
いつから自分がヨンミの言葉を通訳できるようになったのか、時子には覚えがない。
不思議だった。
もしかしたら、ヨンミと一夜を共にしてからかもしれない、と密かに考える。
考えながら、一枚の夜具の中で二人、身を寄せ合っていたことを思い返した。
前夜の詳細は町子には話さない方がよさそうだ、と時子は頬を染めた。
町子の良心を信頼している。
けれども、まかり間違って彼女がブログで自分のことをネタにしないとも限らない。
「友人TとPが同衾!」という具合だ。
同衾という語彙を知っている自分を、時子は誰かに誇りたかった。
でも、それはできない。
沈黙を守った。
思索に耽る時子をよそに、町子とヨンミは視線を合わせていた。
「ヨンミちゃん、古墳がかわいいってどういうこと」
ヨンミの言葉の意味を聞いて、町子は苦笑している。
「古墳の形がかわいいの?」
「ね」
ヨンミはうなずいた。
時子はヨンミの横顔を眺める。
今朝、二人で鉢形山古墳の上に登って、石室を一緒に見ていた時間について思いを馳せた。
ヨンミにはヨンミなりの目線があったのだ。
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