『手間のかかる長旅(074) 三人で古墳に来た』
三人で、時子(ときこ)の自宅近くにある鉢形山古墳まで来た。
「だから古墳なんて嫌だって私は言ってるでしょ」
古墳の嫌いな町子(まちこ)は、古墳の前に立ってごねている。
しかしもう現地に来てしまったので、手遅れだった。
「まちこおんに、ちょごるぼせよ。こぶにえよ」
嫌がっている町子の腕を手に取って、ヨンミは彼女に古墳を指し示した。
ヨンミは、なぜだか古墳が好きなのだ。
町子もヨンミに従って、古墳の方を見た。
盛り上がった小山を、うさんくさそうに見ている。
「お墓なんでしょ、これ」
「ね」
ヨンミはうなずいた。
時子もうなずいた。
「古代の古墳です」
「それはわかったけどね。私、さっきも言った通り、お墓は苦手なの」
町子は言った。
渋い顔をしている。
町子でなくても、世の中にお墓が好きな人は少ないだろう。
だが町子の様子からすると、よほど嫌そうである。
何か特別、つらい思い出でもあるのかもしれない。
「無理に連れてきてごめんね」
時子は謝った。
彼女としては、町子のブログ執筆のネタの足しになれば、と思ったのだ。
「ブログのネタに使えない?」
町子の顔をのぞきこんだ。
時子を見返しながら、町子は首をかしげた。
「どうしようかな…」
嫌だと言いながら、迷いはあるらしい。
「あ、ネタにはするんだ」
「だって、きつい思いして前まで来たのに、記事にしないのはもったいないから」
顔をしかめて、町子は早口に答えた。
時子と町子が話している間に、ヨンミは二人から離れて、古墳の斜面を登っている。
石室に繋がる、古墳の開口部に向かった。
「あ、ヨンミちゃんが古墳に登ってるよ」
「そうね」
町子は目を細めて、ヨンミのいる古墳の風景を眺めた。
ふいに、表情が変わった。
何か思いついたらしい。
携えているバッグから、スマートフォンを取り出している。
「どうするの?」
「悪くない風景だから、撮っておくね」
時子にそう答えて、町子はスマートフォンのカメラレンズ部分を、古墳の方に向けた。
液晶画面を覗き込み、撮影の角度を調整している。
「人がいると絵になる?」
横から時子は声をかけた。
「うん」
町子はうなずく。
「男に浮気されて、住む場所を失った女の子が、夢中で古墳を登ってる。絵になる」
スマートフォンを構えて画面を見ながら、町子は嬉しそうに言った。
時子は呆れた。
ヨンミは、今や古墳の高台、開口部前に立っている。
石室の中を覗き込んでいるのだ。
ヨンミと町子を交互に見ながら、時子は思案した。
町子は、ここで撮った写真を自身のブログで、どう使うのだろうか。
今まで彼女のブログの購読を、拒否し続けてきた時子である。
でも、今この瞬間について書かれた記事なら読んでみたい。
そう思うのだった。
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