『手間のかかる長旅(075) 町子のブログを、頑として読まない時子』
三人で、ぼんやりと、古墳の周囲に長居するわけにもいかない。
時子(ときこ)は、町子(まちこ)とヨンミを近くの自宅に連れていった。
どうせ時間をつぶすなら、自宅がいい。
町子はこれまで何度か遊びに来たことがあるし、ヨンミもすでに一泊している。
二人にそう気遣わせずに済むだろう、と思い二人を招いたのだった。
三人で、床に座り込んで、ぼんやりしている。
時間をつぶす場所を確保したものの、何もすることがなかった。
「こういう休日もいいね」
自分のスマートフォンをのぞきこみながら、町子は機嫌よく言った。
彼女の横に座ったヨンミがうなずいている。
町子はまた、ブログを更新しているのかもしれない。
何かと言えば一日中ブログの更新をしている彼女のことが、時子はうらやましくなってきた。
日々の時間の空白を埋めることが、自分には難しい。
しかし町子は、それができている。
町子のブログ記事執筆について言及すると、彼女にそれらの記事を読むよう勧誘される。
それを避けるために、時子は自分からその話題を町子に振ることができない。
町子がどんな記事をブログに書いているかには、興味がないのだ。
だが彼女がそこまでブログにのめりこむ理由と、それだけの更新頻度に結びつく発想力の豊かさには関心がある。
気になっていた。
もし自分が町子の真似をしようと思っても無理だろう、と時子は思う。
自分には同じようなことはできない。
だが、試してみてもいいかもしれない、と思わないでもなかった。
町子に習って、自分もブログを開設する。
毎日10本を目標に、記事を執筆する。
やれるだろうか。
やるとしたら、その参考のために、町子のブログを読んでみた方がいいだろうか。
読みたくはなかった。
親しい友人の、その内面を活字の姿で目の当たりにするのは、恐ろしいことだ。
たとえ劇的なことであったり、町子の裏の顔だったりが露出してはいなかったとしても。
生の友人と、活字の友人との間に齟齬があったとしたら。
その齟齬を目にした後に、時子は町子とこれまでのように接することができなくなるかもしれない。
「時ちゃん、私ね、またブログ更新したよ」
スマートフォンの画面から視線を時子の方に移して、町子は笑顔で言った。
「あ、そうなんだ」
考えている時子は、気もそぞろに返事した。
「何。また考えごと?」
町子は時子の表情に気付いて、苦笑する。
彼女は時子の心を読むのが上手だ。
「いや、別に」
ブログの開設を考えている、とは町子には言えない。
この件に関して、これから町子は時子のライバルなのだ。
時子は、町子のブログを読むことになしに、彼女に匹敵する更新頻度のブログを立ち上げる。
その決心を、固め始めていた。
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