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『定期的なすき焼きの気分』 

不思議と、定期的に「すき焼き」が食べたくなる。

すき焼き。

美味しい牛肉を、豆腐、白菜、シイタケ、白ネギ等の具材と共に醤油、みりん、砂糖から成る割り下で味付けしながら。

鍋の上で煮たり焼いたりして食べる日本料理である。

その過程でかかるガス代等諸々の料金と、まず何より美味しいお肉の代金とを考えると、結構な高級料理である。

お金がかかる。

そんなわけで、たとえ定期的にすき焼きが食べたくなっても、定期的に食べるわけにはいかないのだ。

 

私は、孤独に街中を歩いている。

すき焼きが食べたいという、定期的な腹具合に私はさしかかっていた。

しかし、財布の中身はすき焼きの準備をするには心もとない状況だ。

まず、美味しい牛肉が買えない。

それどころか、昨今は付け合せの野菜類の価格も高騰している。

お肉も野菜も、とても私の手の届くものではなかった。

なんですき焼きにはあんなに金がかかるのだ、と私は腹さえ立ってきた。

 

きゃーっ、という悲鳴とも歓声ともつかぬ声が聞こえてくる。

私はすき焼き食べたさに意識朦朧としたまま、その不思議な声に釣られるように歩いた。

歓声は、目の前にある神社の中から聞こえてくる。

「きゃーっ」

まただ。

複数の、悲鳴とも歓声ともつかぬ声。

いったい、神社の境内で何が行われているのだろう。

私はふらふらと神社の鳥居から中に誘い込まれた。

「いてて…」

ばらばらと細かな、それでいて堅い物体が複数飛んでくる。

「きゃーっ」

依然として、悲鳴とも歓声ともつかぬ声。

それらは、境内に集まった参拝客があげているのだ。

高い場所にある神社の本殿の上から境内にいる参拝客に向けて、神社の職員たちが餅を投げている。

餅なのだ。

「いてて…」

ぼんやりと突っ立っている私の顔にも餅が投げられて、私の顔にぶち当たるのだ。

餅は固くて、当たると痛い。

私の顔に当たった餅は、そのまま地面に落ちていこうとする。

しかし落ちさせはせず、私の近くに立っている他の参拝客たちが、手を伸ばして餅を横からかすめ取っていくのだ。

目にも留まらぬ速さ。

「だって、あんたがぼやぼやしてるから」

餅を横から取っていく人、隣に立つ主婦らしい女性の顔を思わず見たら、彼女は言い訳がましく言った。

私は餅が欲しいわけではなくて、ただ餅を横から取っていく手際の良さに感心しただけなのだが。

「帽子とかスーパーの袋とか、そういうものを広げなさいよ」

うしろめたかったのか、彼女は私にそういう助言をする。

別に餅はいらないしなあ…と思いながらも、助言をもらった以上はそれをむげにするのも気が引ける。

私は上着のポケット内に突っ込んでいたスーパーの袋を取り出して、広げた。

神社の本殿から、職員が複数の餅を放った。

「きゃーっ」

歓声が上がる。

私は義務感で、スーパーの袋で飛んできた餅を受ける。

ひとつ、ふたつ。

私の手元に、餅が残った。

 

すき焼きが食べたいんだがな、と思いながら私は餅を持ち帰った。

仕方ない。

この餅をお肉に見立ててすき焼きにしよう。

私は、鍋を火にかける。

豆腐、モヤシ、細ネギなどのお手頃な具材を投入した。

さらに、今手に入れたばかりの餅も入れる。

餅のすき焼きだ。

割り下を鍋の中に振り入れると、素敵な香りが立ち上った。

甘くて香ばしい味わいが期待できそうだ。

取り皿に、私は生卵を割り入れる。

すき焼きには生卵がつきものである。

溶いた生卵の中に、適度に煮えたお餅と野菜類とを入れて、いただきます。

口の中で、熱く煮えた具材を転がした。

砂糖と醤油の味付けは、最高だ。

生卵のまろやかさもいい。

ただ餅はやっぱり、お肉の代わりにはならない。

神社でもらった餅を辛抱強く噛みながら、私は実感した。

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