『島津戦記』新城カズマ
私、以前、鹿児島県に旅したことがありまして。
もともと鹿児島の風土と食べ物、そしてかの地に存在した薩摩武士たちの足跡に興味があったのです。
戦国大名島津(しまづ)氏に代表される、薩摩武士。
憧れを持って旅した鹿児島は、やはり刺激的な土地でした。
そういう体験があって、今でも鹿児島と島津氏に関わる書籍にはよく目を通しているのです。
そんな折、この小説を読みました。
新城カズマ氏による『島津戦記』です。
戦国時代の薩摩国(現在の鹿児島県西部にあった国)を舞台にした、伝奇小説なのですね。
鎌倉時代と室町時代を通して、薩摩国の守護大名であった、島津氏。
戦国時代に至って、後に島津家中興の祖と仰がれることになる偉人、島津日新斎(しまづじっしんさい)が現れ、自身の子息である島津貴久(しまづたかひさ)を島津家当主の座に据えることに成功します。
これを機に島津氏は、幕府の権威に頼っていた守護大名から脱皮し、実力を兼ね備えた戦国大名になったのです。
島津家当主島津貴久の子供たちである四兄弟の三男、島津歳久(しまづとしひさ)の視点を主軸に据えて、物語は進みます。
日本列島の西に存在感を誇る大国、明。
そしてその向こうに存在する天竺、南蛮の国々。
島津氏が治める薩摩国には、海流に乗ってそうした異国の人々が訪れます。
歳久の祖父である日新斎は、そんな世界と通じる地の利によって、広い見識を備えていました。
彼は島津家の興隆に関わる世界規模の壮大な構想を、島津家当主である貴久、そしてその子である歳久たち四兄弟に託します。
京の都を掌握した織田家の政治にも、遠い薩摩国から関与を深める島津家。
島津家一門は日新斎の構想に従ってまず南九州の統一、さらに九州全土の統一を目指すのでした。
しかし彼らの周囲を、様々な異国から集まった人々の思惑が取り巻きます。
島津一族の勇猛果敢な戦いぶり、例えば関ヶ原の合戦での島津義弘(しまづよしひろ)公による「島津の退き口」等々、日本史好きの人には恐らく有名でしょう。
ところが本作の主人公である歳久は、文化人としての教養を備えた、戦いよりも思索に傾倒する人物として描かれています。
そのため本作は戦よりもむしろ、歳久が少年の頃から体験した薩摩国での不思議な体験、異国の人たちとの出会い、親兄弟との係わり合いの描写を中心に物語が進行して行きます。
島津一族が武勇で活躍する活劇を期待すると、かなり面食らうと思います。
しかし見識があり内省的でもある歳久のキャラクタで、彼と島津家に起こる諸々の不思議な物語を追体験することが出来て、私は大変楽しめました。
島津氏、織田氏といった戦国時代の大名たちの熾烈な戦いが、日本列島の中だけで閉鎖されたものではなく、実は世界情勢からの強い影響を受けて左右されていたのかもしれない。
そしてその日本列島内での個々の戦いの結果が、翻って世界情勢に影響を与え返していたかもしれない。
そんな感慨がわきました。
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