上海旅行二日目(2)。拳士たちと文豪。伝統と近代。魯迅公園散策
魯迅公園に侵入しましたよ。
地域の人たちの多様なサークル活動の場となっている、とガイド本に紹介されていた魯迅公園であります。
大音量で流れる、ノリのいい中国ポップスの曲に合わせて踊る中高年の人たちが目立ちました。
それ以外にも、伝統の拳法着をまとって太極拳に興じる人たちも。
剣を扱った、ゆっくりとした所作を見せる人たちもいました。
近くで撮るとどんな目に遭うかわかりませんので、隠し撮りの体です。
おそらく太極拳の範疇にある技術なのでしょう。
日本の現代武道って、合気道とか柔道とか剣道とか弓道とか、徒手空拳の武道と武具を扱った武道がすっぱり分かれてますよね。
でも中国の場合は素手の武術の延長線上に武器術があって、太極拳の使い手が剣を操ったら、太極拳の動きを生かした剣術になるんですね。
他の流派の使い手の場合も、例えばひと足踏み込んで鋭い拳を突き出す武術であれば、槍なり剣なりを手にして同じ動きをすることでそういう武器術になります。
中国武術には、素手の体術と武器術とが不可分であるという面白みがあるのですね。
日本でも古流柔術、沖縄の空手などは、本来そういう武術だったみたいですがね。
日本で盛んなのは現代武道であって、古流武術などを知る人は少数ですよね。
魯迅公園では中国武術を嗜む人たちがそこかしこにいて、何か古来からの伝統が現代に生きているような感を覚えます。
踊り手たちと太極拳士たちの隙間を縫って、魯迅の痕跡を目指して行きます。
ここは世界文豪広場だそうです。
文豪である魯迅に合わせて世界の文豪を集めたのでしょう。
ウィリアム・シェイクスピアだそうです。
私は作品を読んだことも演劇を見たこともありませんが。
イギリスの文豪、1563年生まれです。
シェイクスピアが生きた時代、日本ではだいたい戦国時代の後期ですね。
彼と同じ年に生まれた戦国武将には、姫路城の築城で著名な池田輝政がいます。
うろ覚えですが、こちらはバルザックだったと思います。
フランスの文豪、1799年生まれです。
代表作には『ゴリオ爺さん』なんかがあるそうですが…。
国語の教科書にでも載っていないと、世界文学ってなかなか読む機会がないですよね。
今度図書館で借りるか、文庫本でも買って読んでみましょう。
私が見逃しただけという可能性はあります。
さらに歩いて、魯迅紀念館へ。
素晴らしい彫刻ですな。
背景の魯迅紀念館、開館は9時からで、来るのが早すぎました。
紀念館の白壁に記された題字は、政治家であった周恩来によるものだそうです。
1972年、田中角栄首相と共に日中共同声明に調印したのが周恩来でした。
この声明が、日本が台湾の中華民国ではなく中華人民共和国を中国政府と認め、正式な国交を開始する根拠となりました。
開館時間まで間があるので、今回は見学を見送りますが、魯迅紀念館の存在意義にも政治的な意図が大なり小なりあると見るのが自然でしょう。
などと私は思うのでした。
ガイド本によると、魯迅の各作品の解説と展示、あとはかつての内山書店を模した売店などもあるそうです。
魯迅紀念館のすぐ横のスペースで、拳法着の男性たちがたむろしています。
この記章が彼らの所属を示すもののようです。
南北拳なる武術の使い手たちのようでした。
こうやって記章の写真を撮っていると、その南北拳士の一人が近づいてきたので、緊張しました。
何か話しかけてきますが中国語で、わかりません。
するとこちらの顔色を見てとって、彼が拙い日本語で言うには「魯迅のお墓、見ました?」とのこと。
まだ見てませんと答えると、魯迅の墓所のある方向を教えてくれました。
南北拳士が親切で、日本語も出来る人で、私は助かりました。
この先の池の端に茶店があって、そこでは持ち帰りもできる小吃が売られていて、お饅頭を買い求める人で行列ができていました。
お茶店の中も朝食をとる人たちでいっぱいです。
休日とは言え、公園の中が朝からこんなににぎわっているのは、人口の多い上海ならではかもしれませんね。
左右の二本の木の合間に隠れるようにして、魯迅墓所はあります。
二本の木の下には、数人が木陰に隠れて太極拳に興じるなどしています。
墓石上の「魯迅先生之墓」という揮毫は、毛沢東の作だそうです。
私も魯迅先生に手を合わせました。
作品を通して近代中国人の意識を啓発しようと努めた彼の功績が、現代中国人の中にどう生きているのか。
私は今回の上海旅行にあたって、あらかじめ邦訳版と中国語原書で魯迅の作品集を読んできました。
伝統的儒教社会の因習を批判した魯迅の作品をもってしても、また彼の作品を賞賛し象徴的な意味合いを与えてきた政府の試みがあったうえでも、中国人の無意識に根付いた儒教の伝統を奪うことはできなかったのではないか。
そう思います。
しかしそうであっても、魯迅の作品群を読むことで、大陸に生きる人々が「中国人である」という自意識を見出す契機となったことでしょう。
今、私が手を合わせている横の木陰で太極拳に夢中な高齢男性の心にも、魯迅の啓発が生きていないとは言えません。
サッカー場なのですね。
「上海緑地申花」というプロサッカーチームのホームグラウンドだということです。
魯迅公園とサッカー球場とが並存する政治的意図を読み取ろうとしましたが、なんら答えが浮かびませんでした。
ただ、大阪の長居公園と陸上競技場、プロサッカーチームのガンバ大阪のことを連想しました。
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