『ドン・キホーテの独り言』木村栄一
スペインという国への関心を思い出す度に、何度も読みたくなる本です。
『ドン・キホーテの独り言』。
木村氏が客員教授としてスペインの大学に赴任していた頃の、見聞きした出来事を中心につづっています。
彼の赴任地は、スペイン文学『ドン・キホーテ』の著者、セルバンテスの出生地。
アルカラー・デ・エナーレスの街なのです。
中世からの大学都市であるこの街に滞在して、著者は見聞きした事柄から自由な発想で想像を巡らせます。
南米アルゼンチンの作家ホセ・ルイス・ボルヘスのものした作品を始めとして、「マジックリアリズム」と称される一連のラテンアメリカ文学の作品群があります。
これはひとことでは表現しにくいのですが、日常と幻想とが不可分な世界を描いた、特に中南米で盛んな文学のジャンルなわけです。
マジックとリアリズムとが融合した世界観の、小説なんです。
木村氏は、そうした作品群の翻訳を手がけてきている方なのですね。
スペインで見聞きする不思議なもの、独特な出来事がそんな著者の様々な記憶、読書体験を呼び覚まします。
己が体験した面白い出来事を著者はラテンアメリカ文学的マジックレアリズムに絡めて解釈しながら、同時にそれら文学作品の紹介もしているのですね。
読書案内的な。
ラテンアメリカ文学に関心のある読者には、より楽しめるところです。
またスペインにはその盛衰の歴史的な経緯など、ラテンアメリカの「旧植民地」との関わりを通して見える側面もあるのですね。
単なるスペイン通の人ではなく、ラテンアメリカ文学に通じた著者だからこその洞察が本作には見られます。
日本に住んでいるとスペインも中南米も、そこにどんな世界があるのか実感しにくいところはありますよね。
ですが、本作のような読みやすいエッセイを読むと、それらの国々の雰囲気が何となくわかったような気がして。
旅をした気になれるのですね。
そして私のような貪欲な旅人の場合、それらの国々に、実際行ってみたくなるのです。
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