『手間のかかる長旅(101) おおらかになだめる時子』
時子(ときこ)たちは、駅前のバスターミナルにあるバス停で、バスを待っている。
土曜日の午前中である。
先日アリスと二人でアルバイトの面接に出向いた帰り、如意輪寺(にょいりんじ)という寺に寄った。
その帰り、友人たち皆で再び如意輪寺に来ることをアリスは提案したのだ。
提案通りアリスは友人たちに話をして、今、全員が集まっている。
如意輪寺方面に行く路線バスに乗るのだ。
時子、町子(まちこ)、美々子(みみこ)、ヨンミ、アリス。
なぜか、美々子のパートナーの東優児(ひがしゆうじ)も来ている。
バス停のベンチに座って談笑する皆を置いて、時子と町子は二人その場から離れた。
仲間たちに話し声が聞こえない場所まで、歩道を歩いてきた。
「ちょっと時ちゃん、なんであの男がいるの?」
押し殺した、それでいて勢いのある声を響かせながら町子は時子に詰め寄った。
両肩をつかまれて、時子は苦しい。
「落ち着いて」
「仲間うちの集まりって言ってたじゃん」
しかし、アリスが皆に連絡をまわしたのだ。
時子の関知するところではない。
「アリスは何て言ってたの?」
「だから、仲間うちの集まりだって」
町子は目を剥いた。
東優児は美々子のパートナーである。
だが、彼は町子にも好意を持っているらしかった。
「東さんも仲間うちってことじゃない?」
個人的には優児に何ら悪い感情を持っていない時子は、何気なく言った。
彼女の両肩をつかむ町子の手に力がこもった。
「痛い、肩折れる」
「あの人は私たちとは関係ないでしょ」
強張った顔を、時子の顔すれすれに近づけてくる。
二人の鼻先が触れ合わんばかりになった。
「たぶん、美々子さんが独断で連れてきたんじゃないかな」
「もうっ…」
二人は後方のバス停の方を振り返った。
美々子は優児、ヨンミを両脇に置いて楽しそうに話している。
アリスも三人の傍らに立って、機嫌よく話しているようだった。
優児は女たちと話しながら、時折こちらを盗み見ている。
「あっ、あいつ、こっち見てる」
町子は舌打ちした。
そんな彼女を、時子は残念に思った。
休日の優児は美々子同様、顔に平日よりも薄く化粧を施して、やはり美しい顔立ちをしている。
服装にも気を配っている。
彼の方を見ながら、美々子とよくお似合いだ、と時子は思った。
「東さんとも仲良くしてあげてよ」
「何言ってるの」
時子の言葉に吐き捨てるように返して、町子はにらみつけてくる。
時子は、たじろいだ。
「あいつの魂胆はわかってるでしょ。美々ちゃんが鈍いのをいいことに、私のことも狙ってるんだよ」
時子はうなずいた。
しかし、町子の言葉だけ聞いていると、自意識過剰な人物のそれだ。
ただ実際時子は優児の町子への態度を見ているので、彼女の言葉を否定しきることもできなかった。
「でもきっと仲良くしたいだけなのよ、あんまり悪く取らないであげて」
皆で仲良くしたい時子は、おおらかな態度で町子をなだめた。
「悪く取る」
町子は、親指を唇に当てて、噛む。
「どうして」
「時ちゃんは、全般に男を甘く見てる」
町子の言葉に、時子は一瞬、体を強張らせた。
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