『食券を買わずに男は店内で暴れる』

「牛肉だ、牛肉をよこせ」 大きな肉切り包丁を持った男が、牛丼店の店内に乱入した。 カウンター席で丼を口に寄せてご飯をかきこんでいた義雄(よしお)は、横目で男を盗み見た。 自動ドアの手前にたち、両手で握った包丁を腰だめにかまえたその男は、冷静さを失った顔だちである。 「おい、俺に牛肉をよこせ」 やたらめた…