小説:熊殺しの男
こそこそと、人の目を盗んで、それを飲んでいる。 持参したシェイカー容器に入れておいた、プロテインの粉。 そこに、購入したコーラを注いで混ぜ、飲んでいるのだ。 「おい、ばれたら追い出されるぞっ」 混ざりきらないプロテインとコーラを飲み下している…
どこかで見たような奴が前のめりになって、覚束ない足取りで歩いている。 大きな男で、頭から血を流していた。 学生だ。 学生服の黒い上着が、ぼろぼろである。 前がはだけて、白いシャツと胸板がのぞいている。 歩き方も頼りない。 意識朦朧としているのか…
心労からか、彼女の顔はげっそりと痩せていた。 「お願いします」 膝に両手をついて腰を曲げ、彼女は何度もこちらに頭を下げる。 いたましい、と彼は思った。 彼、餅田万寿夫(もちだますお)は、しばらく前から「熊殺しの男」と呼ばれている。 彼が通う私立…
「熊殺しの男」の異名を持つ餅田万寿夫(もちだますお)は、自身のその異名が広まることに怯えていた。 「熊」というのは、彼が通う私立高校の体育教師で生徒指導官、田中金治(たなかきんじ)を指す。 田中金治はヒグマを上回る体格と凶暴性とを兼ね備えた…