反応の鈍さ
運動中に軽い怪我を負って、整形外科に行った。
仕事帰りの夕方、予約無しで立ち寄ったため、待つことになった。
待合席に座っている。
レントゲン室が近かった。
レントゲン技師が時折出てきては、レントゲン待ちの患者の名を呼ぶ。
自分の診察までの長い待ち時間、このレントゲン技師のコールの度にその様子を見ていた。
私を含め、中高年になると、看護師や技師から呼ばれた場合、声に出して返事する者が多い。
その方がすぐに気付いてもらえて、入室して処置まで円滑に進むとわかっているからだ。
ところが、私が見ていると、レントゲン技師が名を呼んだ後、待合室中に視線を散らせて、患者を探している場合が度々あった。
気付いた。
患者が返事をしないのだ。
返事が返ってこないから技師は該当の患者がその場にいないのかと思い、再度名前を読んだり姿を探したりと動作が増える。
ところがワンテンポ遅れた後に、呼ばれた当の患者が、無言でレントゲン室前に歩いてくるのだった。
ちゃんと待合室にいたのだ。
ここに至って技師は「あ、いたんだ」と気付いてレントゲン室内に患者を迎え入れる。
この繰り返しが多くて、毎回患者を探すためのタイムラグが発生していた。
見ていて技師が気の毒になった。
返事をしない患者というのは、これが基本、若い男性だった。
学校帰りに通っている制服姿の高校生、または大学生ぐらいの若者。
場合によっては松葉杖を頼りに歩いていたりして、考えればレントゲン室に呼ばれるぐらいだから骨折なり捻挫なり、少なくとも打撲なりは負っているのだろう。
怪我が辛くて反応が鈍くなるのもやむを得ないのかもしれない。
それにしても毎回毎回、無言の反応薄な若い男性患者が続くと、この人たちはなんでこう反応が鈍いんだろう、と不思議になり始める。
自分が高校生ぐらいの頃はどうだったか。
こういう病院の待合室等で、積極的に声を上げて看護師とアイコンタクトを取って意志表示を心掛けていたのかどうか、記憶に自信が無い。
だが、ちゃんと意思表示をしていたと思う。
思い返すと、高校大学に通っていた頃、学生の間には大人相手に従順な態度を取るのが恥ずかしいような空気があった。
教師たちも反抗的な生徒、また反抗的とは言わずとも、何かと反応の鈍い生徒たちを扱うことに、慣れている。
他の子たちはだいたいそうだったな、と合点がいった。
だが学校でも、中には、大人相手に物怖じせず対応できる明朗な社交性を持ったタイプがいた。
その多くは進学を目指している、ちょっと育ちのいいような子たちだった。
私は、彼らのような姿を目標にしていながら、本質はそれを打算で装っているだけという、そういう人間だった。
教師に丁寧に接していれば、損はしまい、と。
特定の教師にはなぜか素気無く扱われることもあって、そういう教師はこちらの本性を見抜いていたのかもしれない。
打算無しに素直でいい子なのと、違うことを考えながらそれを装う者とでは、心根に大きな差がある。
だったら最初から、反抗的な子、誰相手にでも自分の素を露わにした子の方が、よほどよかっただろう。
私も、相手かまわず自分の本心を出せる他の子が、うらやましい時もあった。
損得を考えての、如才の無さ。
待合室で反応が鈍いぐらいの、自分に素直な若者たちは、健康な大人になるかもしれない。
大人になって、今更、そちらには戻れない。
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