『韓国の軍隊 徴兵制は社会に何をもたらしているか』尹 載善
韓国を知るうえで、避けて通れない話だと思って読んだのです。
尹 載善氏の著作、『韓国の軍隊 徴兵制は社会に何をもたらしているか』です。
韓国の徴兵制について。
各種データと兵役経験者たちの語るエピソードなどから、その全容が明らかにされていきます。
韓国へ行くと都会であれ地方であれ、街中で迷彩服などを着た若い軍人さんの姿を度々見かけるのですね。
また韓国に知人(特に男性)ができて雑談をすれば、必ず韓国の兵役が話題にのぼります。
あるいは韓国ドラマ好きの方だと、お気に入りのスターが兵役のためにしばらく芸能活動を離れることになった、なんて。
そんな経験をお持ちかもしれません。
建前として「軍隊を持たない」日本と違い、韓国には軍隊があります。
「北の国」からの脅威に、常にさらされている韓国にとって、国防は日本のそれ以上に大きな意味を持つのですね。
しかも、韓国の軍隊は国民からの徴兵制で成り立っています。
国民としての義務があり、男性の場合、基本的に成人すれば必ず軍に入隊しなければなりません。
そして二年もの長きに渡り、軍人として厳しい生活を送ることが義務付けられているのです。
国民の義務としての兵役。
「北」の脅威から自国を守る義務。
兵役につけば、訓練中、任務中に重傷を負ったり、命を落とす場合すらあります。
そういう事態を恐れ、故意に自分の健康を害する、外国に逃亡するなどして徴兵自体を免れようとする人も出てきます。
ところがそんなことをすれば刑事罰を受け、また社会的にも排除されてしまいます。
「あいつは非国民だ!」というわけです。
ある意味、戦時中の日本のような状況なのですね。
兵役についてもつかなくても、過酷です。
私たちの隣国にいる、ごく普通の若者たちが、そんな非常に厳しい義務を背負って生きているわけなのです。
韓国、という地理的に特殊な位置にある国に生まれたばかりに。
私たちとたいして変わらない現代の若者たちが、成人したとたんに突然大きな試練を強いられる。
彼らの心境を思うと、つらい気持ちになります。
しかし本書では軍隊生活の厳しさを強調するばかりではなく、その恩恵についても語っているのです。
兵役経験者たちいわく、「軍隊生活のおかげで人として成長できた気がする」。
「社会に出ると、かつての軍隊の思い出が懐かしい」。
「厳しい軍隊生活の合間に食べた間食の美味しさは今でも忘れられない」。
「軍隊で恵まれた友情はかけがえがない」などなど。
韓国の若者たちにとって軍隊での二年間は、大きな試練に違いありません。
でもその二年間を生き抜いた後には、彼らが大きく成長していることは事実なのですね。
また、彼らが後からその厳しい生活を懐かしく思い出して、感謝することもあるのかもしれません。
この本を読みながら、今まで見た、知り合った韓国の男性たちには、落ち着いて風格のある人物が多かった、と。
そんなことを思い返しました。
比べて、平和な国に生きる自分のなんと軽薄で軟弱なこと。
韓国の男性を見て、自分を恥じ入るばかりの私です。
ともあれ。
実感としてなんとなく韓国には兵役があることを知っている…そんな理解が、本書を読めばもっと具体的になると思います。
韓国に興味をお持ちの方は、ぜひ読んでみてください。
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