『手間のかかる長旅(034) 陰謀の相談をする時子と町子』
「そういう界隈って、彼氏さんのこと?」
歩きながら、時子(ときこ)は町子(まちこ)に尋ねた。
「そうよ」
「美々子さんの彼氏さん界隈を探る?」
「そう」
時子は納得しかねた。
だいたい、美々子(みみこ)に男がいるのかどうかすら定かではない。
「じゃあ私たち、実際何をすればいいの?」
「それは」
町子は口ごもった。
「そこまで考えてないよ」
時子はため息をついた。
やっぱり町子は町子だ、と思う。
「そういう具体的なところは時ちゃんが考えるの得意でしょ」
「別に得意じゃないよ。私を魔法使いか何かだと思ってるの?」
「魔法使いであって欲しい」
「無理です」
たいだい美々子の弱みを握るなんて企み自体が無謀だ、と時子は思う。
美々子に感づかれたらどんな目に遭うかわからない。
それに時子の本音としては、美々子ともっと仲良くなれそうな気がしているので、妙なことをして彼女からの信頼を失いたくなかった。
「怖気づいたの?」
渋い顔の時子を時子の方を見て、町子は見下した顔をする。
しかしそんなものはつくり顔である。
「怖気づいた」
「怖気づかないでちょっとは考えてよ」
町子が懇願する立場なのだ。
「時ちゃんは美々ちゃんを優遇すればいいとでも思ってるのかもしれないけど。そんなことしたら他の人がやる気をなくすよ」
「そうかなあ」
美々子の要求に合わせ、みんなで台湾に行けばいいのだ、と時子も思い始めている。
「そうよ。公平にしなきゃ駄目」
町子の言うことが正しいのかもしれない。
警察署での諸々があって、自分が無意識に美々子に肩入れしている面は否めない、と時子は自覚した。
「でも、実際どうしたらいいの。美々子さんの身辺を探るなんて」
「家を見張ろうか」
「まさか」
そこまで私も暇ではない。
時子は思った。
「だいたい家を見張ったところで、もし彼氏さんがいたとしても来る保証はないでしょう」
「そう消極的なことばかり言わないでよ」
町子はふくれた。
二人はしばらく無言で歩いた。
先に案内板を見た交差点に戻ってきた。
時子は、思いついたことがあった。
「町子さん」
「何?」
「美々子さんの男性関係の有無に限るとね」
「うんうん」
「知ってそうな人に聞いてまわればわかるよね」
「そうかもね。誰に聞けばわかる?あ、美々ちゃん本人をのぞいて」
難しい質問である。
だが、要は身近な人に聞けばいいのだ。
「家族?」
「あの子、今一人暮らしだよ。郊外のアパートに住んでる。ご両親も、今の美々ちゃんに男がいるかどうかなんて知らないんじゃない?」
「じゃあ、私たちの仲間以外で美々子さんと仲いい人がいれば」
「あのドラッグストアの同僚の人は?」
「知ってるかも」
そうやって言葉を交わすうちに、時子と町子の間でだんだんと狙う対象が明確になり始めた。
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