『手間のかかる長旅(066) ヨンミと美々子の仲』
時子(ときこ)とヨンミ、二人で歩いて例の喫茶店にやってきた。
ヨンミは若干緊張している。
家出してきた訳を、町子(まちこ)と美々子(みみこ)に説明するのだ。
何かにつけ緩い町子はともかく、美々子は厳しいところがある。
当事者のヨンミでなく、時子も緊張しているぐらいだ。
店内に入ると、すでに町子と美々子が来ている。
店内奥のテーブルに座っているの見えた。
「時子、ヨンミ、こっちこっち」
奥のソファに腰掛けた美々子が、こちらに大きく手を振って見せた。
手前のソファの町子はこちらを振り返り、控えめに手招きしている。
応対に出た女性従業員に目で会釈して、時子とヨンミは奥のテーブルに向かった。
「ヨンミ、あんたはこっち」
「ね、あるげっすむにだ」
持参のボストンバッグをソファの脇の通路に置いて、ヨンミは美々子の隣に座った。
時子は町子の隣へ。
テーブルの上には二人分の水の入ったコップがあるだけだ。
町子も美々子も、まだ入店したばかりのようだ。
「さあて、何食べようかな」
美々子はテーブル上のメニューを手に取って開いた。
開いたメニューを、隣に座ったヨンミにも見せてあげている。
ヨンミもそれを覗き込んでいた。
二人の様子には、何ら深刻なところがない。
果たして美々子は状況をわかっているのか、時子は心配になる。
「美々子さん、ヨンミちゃんが…」
時子は説明しにかかった。
美々子は時子に視線をやる。
「あ、そうだった。時子、ヨンミを一晩泊めてくれたんだったね」
「うん、そうなの。ヨンミちゃん、事情があるみたいで…」
「ご苦労様。ヨンミさ、昨日の夜、私にFINEで連絡くれたんだよね」
「えっ」
「こいつ、同棲してた男に浮気されて、追い出されたんだって」
美々子は事も無げに答えた。
「えっ。そうなんだ…」
時子は、そう答えるのが、やっとだった。
ヨンミの方を見た。
彼女は時子を見返して、にこにこと機嫌よく微笑んでいる。
ヨンミと美々子は、仲がいい。
さらに、美々子はヨンミの言葉が理解できるのである。
昨晩時子の部屋に泊めたヨンミが、状況をすでに美々子に報告していたとしても、何ら不思議はなかった。
だが何となく、時子はヨンミと二人きりの状況を共有しているような気でいたのだ。
ヨンミが時子に知らせることなく美々子と通じていた事実は、少し、時子のプライドを傷つけた。
目の前にいるヨンミに、何ら悪びれたところはなかった。
彼女にしてみれば、時子を裏切ったようなつもりは毛頭ないのだろう。
時子はヨンミの言葉がわからなかったし、相談のしようがない。
比べて美々子には相談できるのである。
無理もない。
心でそう納得はしながら、目の前で美々子とヨンミが仲良くメニュー表を覗き込んでいるのを見ると、時子の胸はざわついた。
そんな時子を、隣から町子が見守っている。
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