『手間のかかる長旅(107) 暗い本堂。座り込むアリス』
靴を脱いで、暗い本堂に足を踏み入れた。
「あれっ」
中の風景に目が慣れてきた。
「アリス…?」
時子(ときこ)は恐る恐る声を上げた。
すぐ手前に、正面の御本尊に向かって、アリスが座り込んでいる。
その横に美々子(みみこ)が立っていた。
御本尊に向かう祭壇の手前には、誰も座っていない座布団と木魚がある。
「あれ、これ」
時子は気付いた。
誰もいないのに、勤行の経を読む声と、木魚の声。
本堂内部に鳴り続けている。
「スピーカーで鳴らしてたんだ」
美々子が時子の方を振り返って言った。
「なんでこんな…」
座り込んだアリスが、こちらに背を向けたまま、くぐもった声で言った。
時子はいたたまれない気持ちになった。
「にぎやかしかな」
美々子は首をひねる。
時子の後ろから、町子(まちこ)とヨンミ、東優児(ひがしゆうじ)が本堂に入ってきた。
「いご、ちんっちゃちょあよ。ぽくぽくぽく…」
「ヨンミちゃん、これ録音されたお経と木魚だよ」
「お、ちょんまりえよ?」
「本当に。誰もいない」
「くれ…しんぎはねよ。ぽくぽく…」
ヨンミも腕組みして口ずさみながら、胡散臭そうに天井あたりに視線をやった。
スピーカーの場所を探しているらしい。
しかし物陰にあるらしく、暗い本堂の中では容易に見つからない。
「無人でお経なんて…」
「防犯対策かしらね」
町子も美々子のそれよりも世知辛い見解を示した。
時子にはわからない。
先日の夕暮れ時に時子が来たときには、こんな自動のお経も木魚も再生されてはいなかった。
週末だけの試みなのだろうか。
「くろんで、ありすおんに。けんちゃなよ?」
ヨンミがアリスを気遣い、静かに声をかける。
アリスの背中は小さかった。
沈黙している。
「おんに?」
「…あんまり大丈夫じゃない」
ややあって、気落ちした小さな声が返ってくる。
アリスの隣に立つ美々子が、アリスの肩を軽く叩いた。
アリスの左右に美々子とヨンミ。
アリスの後ろに時子、その左右に町子と優児。
皆がアリスと同じく御本尊の方を向いて彼女を囲み、正座している。
すっかり意気消沈したアリスを放っておけず、集まった。
そのまま、思い思いに祈っている。
アリスは膝の上に両手をついて、前屈みになっている。
誰も声をかけない。
美々子もヨンミも、アリスの顔を覗き込むことを遠慮して、前方の如意輪観音像を眺めている。
町子はその場の雰囲気に合わせながら、どこを見るでもなく顔を上げてぼんやりと過ごしていた。
優児はアリスに同調したのか、しんみりしてうつむき加減でいる。
時子は前に座るアリスの背中を撫でて慰めたい衝動に駆られながら、遠慮してそれをしないでいる。
録音のお経と木魚でアリスに期待させたお坊さんは罪な人だ、と思うのだった。
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『瞬殺猿姫(51) 海の上、阿波守に復讐する猿姫』
織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)と蜂須賀阿波守(はちすかあわのかみ)は力を合わせた。
二人で茶店の中から、猿姫(さるひめ)の体を抱えて、外に運び出した。
外には、農家で借りた荷車を支えて、佐脇与五郎(さわきよごろう)が待っている。
阿波守が猿姫の背中側から両脇の下に手を入れて彼女を持ち上げ、三郎は猿姫の両脚を大事そうに奉げ持っている。
猿姫はおとなしくされるがままになっている。
阿波守と三郎は二人で息を合わせて、荷車の上まで猿姫の体を運んだ。
「猿姫殿、ご気分はいかがでござる」
荷車の上に力なく収まった猿姫を、三郎は気遣った。
「恥ずかしい」
猿姫は小声で短く答えた。
阿波守が笑い声をあげる。
「あ、しまった、私の棒」
猿姫が慌てて、荷車からはみ出た手足をばたつかせる。
三郎も慌てて茶店の中へ。
猿姫愛用の得物を回収して戻ってきた。
「大事なものを忘れるところでござった」
「私としたことが」
猿姫は棒を受け取って、大事そうに自分の体の上に置く。
「これもです」
三郎は猿姫に編み笠を手渡した。
「ちょうどいい、恥ずかしいからこれで顔を隠そう」
猿姫は編み笠を目深にかぶった。
口元しか見えない。
三郎たち三人も、編み笠をかぶっている。
朝からの旅装のままだ。
「急ぎましょう」
佐脇与五郎がうながした。
三郎と阿波守はうなずいた。
いよいよ半年の間頓挫していた南伊勢への旅を再開する。
仲間三人が集まり、そこに与五郎という同行人も加わったが、先行きの不安である。
茶店の中に襲ってきた刺客を残したまま、心残りもある。
だが、同じ場所に留まっていることが一番危険だ。
一向は南へ、伊勢街道を進んだ。
与五郎に代わって、猿姫の乗った荷車を三郎が押している。
自分が猿姫の近くにいないと、三郎は安心できない。
「漁民の家に着き次第、小船を借りましょう」
落ち着いた与五郎の声に、励まされる心地になる。
三郎はうなずいた。
近隣の漁民から小船を借りて、伊勢の海に漕ぎ出した。
とは言え、沖に出るわけではない。
着かず離れず、岸辺に沿って南下する。
阿波守が櫂を担当した。
阿波守の出身である蜂須賀氏は川並衆と呼ばれる集団に属している。
この川並衆は尾張国と美濃国の間の木曽川流域を根城にしており、木曽川を使った物流、渡し舟の運営等を収益源にしている。
その縁で阿波守も船の扱いに長けている。
運よく、海は凪いでいた。
「しかし俺は川舟には慣れていても海に漕ぎ出すのは慣れておらん」
阿波守は弁明した。
半年前、三郎たちは猿姫の漕ぐ川舟で木曽川から白子まで海を来ている。
猿姫に船歌を強要した結果、船歌を知らない彼女はやむなくお田植え歌を歌っている。
「そうだ。髭、貴様、歌を歌え」
船底に横たわった猿姫が、思い出したように言った。
「歌とは」
船尾に立つ阿波守は、そ知らぬ顔で潮風を頬に受けている。
「とぼけるな。お前、前に私が船を漕いだ時は私に歌わせただろう」
猿姫は小声で抗議した。
「そう言えばそうですな」
三郎も同調した。
猿姫は、船を漕ぎながら歌を歌った状況を思い返している。
「女が船を漕ぐのは不吉だの、船歌を歌わないのは不吉だの。およそ縁起でもない嫌がらせをしてくれたじゃないか」
思い返すと腹が立って、小声で抗議し続けた。
三郎は口をつぐんで、阿波守の方を見た。
船尾で櫂を操りながら、阿波守は平然としている。
「その節は無礼なことを言って悪かった」
猿姫の方を見下ろして、口先で謝罪した。
「許すか」
猿姫の怒りに火がついてぶり返し、収まらない。
「お前も船歌を歌え。でないと不吉だ」
「この俺に可愛らしい声でお田植え歌でも歌えと言うか」
猿姫は起き上がろうとする。
「このむさくるしい髭面が」
「猿姫殿、傷に障ります」
三郎が慌てて猿姫を押し留めた。
「阿波守殿、怪我人を愚弄するのはお止めくだされ」
「愚弄した覚えはないが」
阿波守は平然と船を漕いでいる。
船上の騒ぎと裏腹に、海面は穏やかである。
空には雲も少ない。
「歌など歌わなくとも、見ろ、俺の日頃の行いがよいから海も凪いでいるではないか」
「お前の日頃の行いじゃない。私の日頃の行いがいいんだ」
猿姫が憎々しげに阿波守を見上げ、毒づいた。
三郎と与五郎は苦笑している。
「さっさと歌わないか」
猿姫はあきらめなかった。
船底から愛用の棒を取り上げ、船尾の阿波守の腹を突く真似をする。
「危ない、海に落ちる」
阿波守は大げさによろめいてみせた。
なかなか歌おうとしない。
「阿波守殿、拙者も船歌を一度聞きとうございます」
三郎は猿姫を助けに入る。
「事情は知りませんが、ここまで言われるのだから歌って差し上げてはいかがか」
事情を知らない与五郎も猿姫たちに加わった。
阿波守は渋い表情になった。
追い詰められている。
「運び賃を払った船客にだけ聞かせる歌なのだが」
「お前にはよほど借りがあるはずだ、髭」
阿波守はため息をついた。
それから息を吸って、木曽川の船歌を歌い始めた。
船上では、猿姫と三郎が船底に仲良く並んで横になり、寝息をたてている。
船先に後ろを向いて座った与五郎も、眠そうな顔でうつむいている。
船尾で櫂を操る阿波守は、板に付いた様で、船歌を歌う。
阿波守の明朗な声と、穏やかな波の音が溶け合って響いている。
小さな船が海岸沿いをゆっくりと南に進んでいった。
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『手間のかかる長旅(106) ぽくぽくと鳴る木魚。アリスは先んじる』
山門内側で待っていた美々子(みみこ)たち先の三人と合流した。
「遅いぞ」
美々子は腕組みしている。
「理由も無しに急いで先に行くからでしょ」
町子(まちこ)は負けていない。
ヨンミは本堂を見ている。
東優児(ひがしゆうじ)は境内を囲む土塀の際に立てられた境内案内図を見ている。
美々子は彼の傍らに立った。
「みんな、どうする?」
美々子の声かけで、時子(ときこ)、町子、アリスとヨンミも案内図の前に体を寄せた。
こんなのあったんだ、と時子は思った。
先日は、勝手知った様子で境内を進むアリスに任せ、時子は本堂まで同行しただけだった。
如意輪寺の境内に何があるか、把握していない。
案内図で見たところ、境内は山中の広い範囲に及んでいた。
広い境内に様々な寺院施設が散在している。
「何かいろいろあったのね」
時子は思わず口にしていた。
アリスはうなずいている。
「日本庭園もあるにゃ」
「本当だ」
境内に入り込んだ森に遮られて、寺院の全容が見えないのだ。
先日の時子はアリスと山門から入った先の正面にある本堂で時間を過ごしている。
そのときにはアリスの知り合いだという「坊さん」にも会えなかった。
無理もなかった。
あらかじめ連絡を取っておかなければ、境内で偶然落ち合うことは難しいだろう。
今回は会えるのかな、と時子はアリスのことを考える。
アリスは屈託もなさそうな顔で案内図を見ている。
「どうする、お前たち」
アリスは友人たちに声をかけた。
「まず最初にお参りだよね」
美々子はすぐに反応した。
お参りして、御本尊を拝む。
建前は、皆でお参りに来ているのだ。
寺社参詣である。
ご飯を食べてまったりするのは、その後だ。
一団は本堂に向かった。
同時にバスで降りた年輩の女性たちは、本堂を素通りして境内の一角にある墓地に向かう人が多かった。
彼女たちはお寺へのお参りではなく、最初から墓参りだけを目的にしているらしい。
残された時子たち六人が本堂に近づくと、妙な小高い音が聞こえた。
同じ音が延々と鳴り続けている。
「ぽくぽくぽくぽく…」
ヨンミがふざけて真似をする。
木魚を叩く音だ。
その音に重なるように、後から経を読む声が響いてくる。
明朗な、男性の声である。
当然僧侶のものであろう。
「坊さんだ…」
すぐ横にいた時子にだけ聞こえる、小さな声だった。
時子は並んで歩くアリスの顔を見上げた。
アリスも時子を見返した。
嬉しそうな表情を隠さない。
時子も笑顔を返した。
「よかったね」
「うん」
二人のやり取りを町子が黙って見ている。
アリスは時子の顔から本堂の方に、視線を戻した。
早足になって、一団の先頭に先んじた。
「アリスどうした」
二番手になった美々子が怪しんで、声をかける。
「知り合いの坊さんだにゃ」
声を弾ませて先へ行く。
「知り合い?ああいうお経を読む声でわかるもんなの?」
「わかる」
事もなげに言い、友人たちを置いて本堂に入ってしまう。
「待ってよアリス、お坊さんを私たちに紹介しな」
慌てて追いかける美々子である。
時子たちもアリスと美々子を追って本堂に迫った。
「ぽくぽくぽく…」
ヨンミは木魚の音が気に入ったらしい。
歩きながらまた真似している。
木魚が珍しいのだろうか。
「あにえよ、うりならえどもったくんいっそよ」
私の国にも木魚はあります、と控えめに言い添えている。
しかし時子には返事をする余裕がなかった。
アリスと件の僧侶の邂逅を、見逃したくない。
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言い訳の東京旅行二日目(6)。メガテン聖地巡礼。夜の街、錦糸町。コシャリ屋コーピー何食べる
なぜ錦糸町に来たのか?
東京スカイツリーに向かう中継地であることとは別に、一度来てみたかったのです。
錦糸町が、私の好きなテレビゲームの『真女神転生Ⅳ FINAL』という作品で、主人公の少年「ナナシ」の故郷であり本拠地として描かれているんですね。
閉鎖されて荒廃した近未来の東京を舞台に、神と悪魔の最終戦争…!
錦糸町、もっと言えば東京スカイツリーも前日訪れた築地本願寺も、本作品中で重要な場所として登場するのですね。
昔から私は東京旅行の時には『真・女神転生(通称メガテン)』シリーズに出てくる場所を「聖地巡り」的に訪れることを通例にしているわけなのです。
ゲーム内に出てきた錦糸町、実際の風景がどんな具合なのか。
見たいですね。
牡丹橋通りをずっと来て、丸井錦糸町店の裏手に出たのですが…。
ほんとにマルイのすぐ裏?って首をひねるぐらい、道に吸殻とかごみ類とか散らかってて。
なんか新宿の駅前みたいですね。
人がやたらと並んでいる。
お隣の亀戸に本店のある「亀戸ぎょうざ」の錦糸町店でした。
有名なお店らしいけれど、今回は私は別の店で昼食をとるのでパスです。
亀戸ぎょうざ店舗のはす向かいにある、この三人の赤ちゃんのモニュメント。
『真女神転生Ⅳ FINAL』の中にも出てきたんですよね。
ここも散らかって…周囲をカラスたちがうろうろしています。
魔境ですね。
このスポットで写真撮ってる観光客って私を含めたメガテンのファンだけでは?って気がしますね。
しかしこの赤ちゃん三人の由来はわかりません。
どの角度から撮っても画面内に見苦しいものが写ってしまいます。
赤ちゃんの腕にビニール袋まで掛けられていて。
酷いけど、これはちょっと笑ってしまいました。
このモニュメント自体はなかなか味わいがあるんですよね。
秘められた霊力がありそうです。
メガテンらしいと言えばいかにもメガテンらしい、「背徳の地」という趣きがありますね。
昼間に来てごみの散らかり具合だけ見て言ってるわけですけれどね、私は。
夜の街、錦糸町。
この後、マルイ錦糸町店の中を軽くのぞいてきました。
大阪の地元駅前にあるローカル商業ビルに雰囲気が近かったです。
その勢いで、大阪人の特性でエスカレーターでは右側に立ってしまうのです。
でも他の買い物客の人たちは誰もが左側に立ってました、やっぱり。
皆さん東京人ですね。
迷い込んだ大阪人は目立ちました。
エスカレーターの立ち居地って実は真ん中が正解、なんて話もあるので、今後は地域差も解消されていく…のでしょうか。
自分のことを考えても、ちょっと実感できないですね。
習慣の力は根強いです。
北の錦糸町駅方面には行かず、昼食予定のお店に行くためにマルイ裏を東に抜けます。
天台宗のお寺「五徳山観音寺(通称・江東観世音)」があります。
お参りしました。
群馬県にある水沢寺の別院にあたるんだそうです。
御本尊は千手観音菩薩ですが、近くに競馬の場外馬券場があるためか、敷地内に馬頭観音も祀られています。
私は賭け事はしませんが、念のため勝負運上昇もお祈りしました。
江東橋3丁目の交差点です。
錦糸町ってそうそう来るところではないので、こういう何気ない風景も脳裏に刻もうとしています。
ま、写真に撮ってしまえば今みたいに後から確認できるんですよね。
ただ全身と五感で感じられる、その場だけの空気というものがあります。
錦糸堀公園に来ました。
公園名の由来はわかりませんけれど、おそらくこの辺りに昔は錦糸堀という名のお堀があったのでしょうね。
公園内に河童のモニュメントが立っていたので、おそらくそのお堀に河童が出没したんでしょうね。
お堀が埋め立てられて、錦糸堀の河童はどこへ行ったのでしょうね。
河童の行き先として、公園北西のこの路地が怪しいですね。
私の目的のお店もこの先にあるっぽいです。
夜に営業するお店なんかもあって、なかなかメガテン趣味の横溢した路地空間です。
この味わいのある雑居ビルが怪しいですね。
2階に「コシャリ屋コーピー」ってお店があるらしいです。
「エジプトを代表するB級グルメ」の「コシャリ」なる料理が500円で食べられるというのですな。
私は実のところ、このコシャリというものが食べたくて食べたくて。
メガテンの聖地巡りとは別に、このお店で食事することも大きな動機になって、錦糸町に来たのです。
コシャリ屋コーピー、日本初のコシャリ専門店なんですね。
とりあえず今のところ常設店舗としては日本でここでしかコシャリは食べられない、と言ってよさそうです。
ビル2階の店舗内、夜間のバー営業と兼用で運営していると見られるお店で、照明は若干暗めです。
目立たない立地の店舗なのに、先客が結構入っています。
カウンター席とテーブル席がいくつかありました。
このカウンター席に座って、コシャリを注文します。
本場エジプトのコシャリとは別に日本人向けにアレンジされたコシャリメニューが豊富にあるのですが、今回はとりあえず基本のコシャリをお願いしました。
基本のコシャリ500円と、モロヘイヤスープ200円です。
私、モロヘイヤスープも好物で、時々自分でつくったりもしていて。
コシャリと合いそうですね。
というかコシャリってどんな味わいなんでしょうね。
ご飯とマカロニと短く切ったスパゲティ、それからひよこ豆とレンズ豆とを混ぜて、上からフライドオニオンを乗せてある。
そこにトマトソースをかけて食べる。
そういうシンプルな料理なんですね。
ところがこの食感が何とも言えず、たまらないんです。
ご飯、各種パスタ、フライドオニオン、豆。
それぞれ違った食感が口の中でぶつかりあって、咀嚼するのが楽しくてたまらないのです。
味付け自体はほぼトマトソースなので、わかりやすい味ではあるんです。
お好みでカボスの汁を絞ってかけたり、卓上備え付けの辛味ソース、酸味ソースをかけて味変をしながらいただきます。
美味です。
味付けのしっかりしたモロヘイヤスープ、とろとろモロヘイヤに胡麻もたっぷりで、美味。
やはりコシャリに合ってました。
初めて錦糸町で食べるコシャリ、癖になる食感、味わいでした。
癖になると言えば店内で流れているコシャリ屋コーピーのオリジナルソングも癖になります。
癖になるどころか洗脳されそうなぐらいの勢い、独特の曲調で、たまりませんでした。
できれば月1ぐらいの頻度でコシャリを食べに、オリジナルソングを聴きに通いたいぐらいです。
錦糸町の近隣にお手頃な賃貸物件といいお仕事ないだろうか、と思いました。
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『瞬殺猿姫(50) 猿姫を狙う織田弾正忠信勝』
織田家の当主、織田弾正忠信勝(おだだんじょうのじょうのぶかつ)は、清洲城を本拠に定めている。
隣接する諸国との戦は小康状態にあって、動きがない。
城内の空気は落ち着いている。
彼の兄、三郎信長(さぶろうのぶなが)を支持する織田家家臣は家中からほとんどいなくなった。
「ほとんど、というのが気に食わない」
居室の上座に、弾正忠信勝は背筋を伸ばして座っている。
形ばかり、右肘を脇息に置いている。
衣服の折り目も正しい。
髪油で整えた髪を頭部の後ろに集め、結ってある。
鼻下に整えた髭の他は無駄毛を綺麗に剃りあげてあり、肌艶が良く白い。
白い顔の中につくりの大きな、それでいて品のある目鼻立ちが浮かんでいる。
左手の先に扇子を持ち、じっと床に垂らしている。
「と言って、今は連中にも取れる動きは何らありますまい」
柴田権六郎勝家(しばたごんろくろうかついえ)が受ける。
権六郎は織田家先代の時代から、歳若い弾正忠に仕える家老であった。
彼自身がまだ若くして高い地位にある、実力者である。
「三郎様を連れ戻そうにも、動けば直ぐにもこちらに知れます故」
上座の弾正忠と彼に向かって斜め前の下座に平伏する権六郎。
今この場にいるのは二人だけだ。
小姓も居室の外に控えさせてある。
家臣団の概ねは今や弾正忠になびいているが、その中でも心から信頼できるのは、権六郎を置いて他にない。
弾正忠はことあるごとに権六郎を居室に招いていた。
もともと清洲城は、かつて尾張国の守護大名であった斯波(しば)氏の居城である。
代々の斯波氏当主は清洲城内の居館を守護所とし、政務を行った。
守護所であったこの城に住むということは、すなわち「自分が尾張国の支配者である」という意思表示であり、同時に世間にもそのように追認させるだけの実力が伴っている。
斯波氏は台頭する家臣たちに勢力を削がれ、清洲城を追い出されている。
とうに尾張支配者の地位を失っていた。
尾張国内に数ある織田家の中、今や織田弾正忠家が尾張を統一して支配者として君臨している。
尾張統一は、当代の弾正忠信勝の実力によるところが大きかった。
弾正忠家の先代の当主である弾正忠信秀(だんじょうのじょうのぶひで)は、尾張国内での覇権争いの最中に没した。
信秀の嫡子である兄・三郎信長(さぶろうのぶなが)と弟・勘十郎信勝(かんじゅうろうのぶかつ)の兄弟、いずれに家督を継がせるか。
信秀は今際の際に弟の勘十郎信勝を指名し、逝った。
戦国の常なら家中を二つに割っての家督争いが予想されるところであった。
かねてより奇行が目立ち巷で「うつけ」と称された兄、三郎信長は先代弾正忠の葬礼の場で粗相を行った。
喪主としてつつがなく葬礼を済ませた弟、勘十郎に、人望が集まるのは自然な成り行きだった。
先代を見送ってわずかの後に、勘十郎は代々の「弾正忠」の官命を自称し始めている。
勘十郎への兄からの抗議に同調する家臣は数少なく、自然に黙殺された。
その後、勘十郎は先代の悲願であった尾張統一を、実力で成し遂げている。
勘十郎の家督相続は家臣団にも領民にも名実共に認められた。
孤立した兄、三郎は弾正忠の暗殺を謀るがこれに失敗、尾張を出奔した。
「孤立させて追い出したはいいが、あの愚兄もあれでうつけではない」
弾正忠は、矛盾した所見を述べた。
「中央に上って妙な工作をされては困る」
「京奉行には三郎様の入京を阻止するように申し伝えておりますが」
尾張国内には弾正忠家以外にも織田を名乗る同族の家柄が多くある。
尾張統一の過程で弾正忠はそれらの同族たちを傘下に置いている。
しかしそれらの家々を完全に臣従させたとは言い難く、三郎と連絡を取られて挙兵の口実にされてもおかしくはなかった。
この点を早くから憂慮していた弾正忠は、家督を継いだ早々から、三郎と尾張国内の諸家との連絡を遮断するように常に目を光らせてきている。
その点では抜かりない。
だが現在の三郎は尾張国外にいる以上、その遍歴そのものを妨害することは難しかった。
中央に上られたり、近隣国の大名と結託されると面倒なことになる。
「どこぞの辺境でおかしな地侍に担がれはしないか」
出奔した三郎と那古野の土豪の娘とが手と手を取り合い、弾正忠配下の侍を殺害して伊勢に向かったことは、すでに織田家中に知れている。
権六郎は伊勢に向けて、すでに複数の刺客を放っていた。
「伊勢の情勢は混乱しておりますからな」
権六郎は言い訳をした。
三郎信長捕縛の報告も殺害の報告も、まだ届いてはいない。
「であるか」
弾正忠は追及を避けた。
「いえ、三郎様の足取りはおおむね分かってはおりますが」
弾正忠がわかりのいい態度を取ると、権六郎は慌てて弁明をする。
いつも通りのことであった。
「どこに向かっておるか」
「南であります」
伊勢の南と言えば、大大名、北畠家が君臨する土地。
弾正忠は、眉間に皺を寄せた。
「面倒な輩がいるところであるな」
「ご心配召されますな。先ほど申した通り、伊勢の情勢は混乱しております。この混乱に乗じて…」
権六郎は語尾を濁した。
「愚兄はともかく、同行の娘は生かしておきたい」
弾正忠は小声で言った。
左手の扇子を小さく広げて、口元を隠している。
弾正忠には、相手に希望を述べる際に、そうする癖があった。
そんな癖を知っているのは、彼が気を許している家臣、権六郎だけだ。
「噂では町衆から『猿姫』などと呼ばれる野卑な者だということですが」
「しかしあの愚兄を籠絡したのであろう。只者ではあるまいぞ」
口元を隠し、視線を座した己の膝先に落としている。
その表情から意図が読めない。
「御館様は、三郎様のことを意外と買っておられますな」
権六郎は、弾正忠のうつむいた顔を見据えて言った。
「我らは似た者兄弟である故な」
「御戯れを」
有能な弟とうつけの兄と、その性質に似た点はひとつも無い。
同じ両親から生まれた弾正忠と三郎だが、巷間にはその事実をすら疑う者が多い。
しかし弾正忠自身は、実兄を蔑みながらも何らかの点で評価しているきらいがあった。
「その『猿姫』とやらの縁者は押さえてあるのだな?」
彼は権六郎に視線を戻した。
「娘の父母と兄弟姉妹は皆、那古野城の地下牢に閉じ込めてあります」
「私が直々に吟味しよう」
「御館様」
常ならぬ意欲を弾正忠は露わにしている。
平伏した権六郎は戸惑いを隠せず、弾正忠を見上げていた。
言い訳の東京旅行二日目(5)。堀部安兵衛の道場跡も公園に。隅田区の各種の橋。錦糸町へ
両国公園の南を「馬車通り」なる通りが通っています。
この馬車通りを東に少し歩くと、すぐ南北に走る国道463号線にぶつかります。
この463号線の向こう側は、「墨田区緑」になっています。
463号線を境にして両国の町と緑の町とが分かれているのですね。
私はこの463号線を一度南下して、南の立川経由で錦糸町方面に向かいます。
小松川を渡る橋が両国・緑と立川とを繋いでおります。
橋と交差するように頭上に首都高速7号小松川線の高架が走ります。
小松川線ってぴったり小松川の上に沿うように通っているんですね。
ところで、かつて小松川にかかっていた「二之橋」のたもとのこの場所に、俳人の小林一茶(こばやしいっさ)が一時期住んでいたそうです。
そこは借家だったのですが、あるとき旅に出た後、戻ってきたらその借家が他の人に貸し出されてしまっていて路頭に迷ったそうです。
ポール・オースターの短編にそんな話がありましたな。
非常につらい状況ですね。
一茶は弟子と後援者の家を転々とした後に、故郷の信濃国(現在の長野県)に帰って晩年を迎えました。
私は小学生のときに、その長野県の小林一茶の旧宅に家族旅行で行ったことがあります。
土壁の住居の内部は昼でも真っ暗で、子供心に「昔の生活は明かりが少なかったんだな」と実感したのでした。
立川側に参りましょう。
橋の上から小松川線を見上げます。
前に日本橋に行ったときにもこういう場所がありましたね。
首都高の高架はよく川の上を通っていることがあるんですね。
私、こういう風景、とても好きです。
橋を渡って立川の街に来ました。
さようなら、両国。
日差しが強いです。
橋を渡ってすぐのこの通りを、これから東にずっと進みます。
町内掲示板に「第1回錦糸町ラーメンスタンプラリー」のポスターが貼ってあります。
まだ両国に近い立川ですが、すでに東の錦糸町の影響力が及んでおります。
「太陽のトマト麺」って錦糸町に本店があったのですね。
「中華そばムタヒロ」は大阪の堺東駅前のお店で食事したことがあります。
錦糸町は実はラーメン激戦区?なんですかね。
ただ今日のお昼は錦糸町でとる予定ではあるのですが、今回はラーメン以外のお店を予定しているのです。
錦糸町のラーメンはまた今度ですね。
わりと歩いたところで、そろそろ中継の目的地が見えてきました。
旗が裏返っちゃってますが、墨田区立立川第二児童遊園、別名「安兵衛公園」です。
かつて赤穂浪士の一人で剣豪、堀部安兵衛武庸(ほりべやすべえたけつね)が道場を経営していた場所です。
道場跡ですね。
堀部安兵衛は両国の吉良上野介義央(きらこうずけのすけよしなか)邸から近いこの場所に道場を開いて、討ち入りの機会を計っていたのです。
吉良邸討ち入りが決行された際には、堀部道場は浪士たちの出撃拠点のひとつになりました。
今は史跡としての案内版はありますが、それ以外は児童向け遊具とベンチとトイレがあるだけの、普通の小さな公園です。
地元の子供たちが遊んでいる、平和な風景です。
かつてはここで堀部安兵衛が敵討ちの動機を胸に弟子に剣術を教えていたのだと思うと、感慨深いものがあります。
遊んでいる地元の子供たちにも、そうした史実は伝わっていくのでしょうか。
安兵衛公園でひと息ついた後、今度は錦糸町方面へ。
歩きましょう。
と思ったら、立川から東の江東橋、毛利方面に渡る南辻橋が封鎖されていました。
封鎖というか、橋そのものが無くなっていました。
迂回路があって「架替整備のため南辻橋撤去」する旨の案内版がありました。
歩行者と自動車が通りやすい橋にするために新しく架け替えるんだそうです。
私は仮設迂回路を行きましょう。
大横川の上の迂回路を渡りながら、首都高7号線の錦糸町料金所を見ています。
左手にふいに東京スカイツリーの先がのぞいて、私は興奮しました。
東京スカイツリーは、錦糸町を経由した後に向かう本日の目的地になっております。
威容は後でゆっくり堪能するつもりです。
立川から大横川を渡って江東橋5丁目を通過し、毛利1丁目交差点に来ました。
この先、毛利2丁目の交差点で北に曲がれば錦糸町に行けるはずです。
牡丹橋通りを北に行きます。
牡丹橋って雅な名前ですね。
川は埋め立てられて、かつての橋の名だけが残っています。
もともと明治時代に橋の南側にあった観光名所の牡丹園が、牡丹橋の名の由来だということです。
その牡丹園も関東大震災で焼失して、再興されることはなかったんですって。
首都高速7号の高架下は川が埋め立てられた跡地で運動場になっていて、広々としています。
本格的に人が住んでいる生活の形跡もありました。
牡丹橋を抜けて江東橋公園東まで来ると、「夜の街に昼間に来た」感のする街並です。
錦糸町界隈に着いたようですね。
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『手間のかかる長旅(105) 山門を目指す、時子と町子とアリス』
時子(ときこ)たちと同じバスから降りた年輩の女性たちが、ぽつぽつと間隔を置いて如意輪寺があると思しき方へ車道の勾配を登っていく。
六人はその後に続いた。
「何これ、結構歩く流れじゃないだろうね」
歩きながら、美々子(みみこ)は小さな声で懸念を表した。
「じっきに着くにゃ」
後ろからアリスが補足する。
時子は一人でうなずいていた。
「そうかい」
美々子は東優児(ひがしゆうじ)とヨンミを抱えるようにして、三人並んで先へと進む。
じっきに着く、と言われて先の見通しが楽になったせいか。
歩調が早い。
歩みの遅いアリスと時子、町子(まちこ)と間隔が空いた。
「美々ちゃん、ゆっくり歩いてよ」
「お寺、早く見たいだろ」
町子に答える声が弾んでいる。
優児とヨンミも振り返って笑っている。
次第に後ろの三人を取り残して、美々子たち先の三人は曲がりくねった道の先に消えた。
「あんなに急ぐことないのにね」
町子は半ば揶揄するように言った。
「あいつらは子供にゃ」
アリスも言葉のうえで同意した。
時子は黙っている。
実はアリスはやせ我慢しているだけで、お寺に早く行きたいのではないか、と思ったのだ。
先日二人で過ごした時間の記憶が新しい。
それを口にするのは、町子の前ではためらわれた。
三人はゆっくり歩いて坂道を進んだ。
晩秋の朝の山には、冷たい空気が溜まっている。
厚手の上着を着込んできて、ちょうどよい気候だった。
「歩いて体あったまるとちょうどいいぐらいね。あんまり山道を長く歩くのはやだけど」
町子は言った。
「じっきに着くにゃ」
アリスが言葉少なめに補足する。
時子もうなずいた。
10分も歩けば如意輪寺の山門が見えるはずだ。
「それでさ、お寺で何するの」
町子は二人に問うた。
「お参りしてから、お昼を食べるの」
時子は率先して答えた。
さすがに町子相手には遠慮はしなくて済む。
「お参りなんて何年ぶりかな」
「町子お前、お寺に行かない趣味か」
アリスが驚いた様子で尋ねた。
「ま、まあね」
町子は少し言いよどんだ。
何年もお寺にお参りする機会が無かったというのは、極端な気がする。
時子も意外な気持ちで町子を見た。
一般に日本人は信仰心の希薄な人が多いというけれど。
自分だってそうだけれど、それだけにかえって気楽にお寺参りをしている気がする。
「お寺とかお墓とか、苦手なのよ」
少し強い口調で、町子は言った。
時子は思い出している。
先日、町子とヨンミと三人で、時子の自宅近くにある鉢形山古墳を見に行った。
そのときにも、町子は「お墓は好きじゃない」と言った。
時子はようやく気付いた。
もしかしたら、町子は、大切な誰かを亡くしているのかもしれない。
思い至らなかった自分がうかつだった。
「一方の私は、凄く好きだにゃ。お寺も、お墓も」
恐山に行きたいアリスが、町子を見て力強く返した。
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