『手間のかかる長旅(081) 荒ぶるアリスに、眉をひそめる』

この一週間で時子(ときこ)と町子(まちこ)が通い慣れた、例の喫茶店に来ている。

「お酒くださいにゃ」

全員がテーブル席に落ち着き、例の女性店員が瞬間移動してくるなりアリスは大声をあげた。

「お酒が欲しい」

「ちょっとアリス、喫茶店にお酒はないよ」

アリスの横に座った町子がアリスの袖を引いてたしなめる。

時子も、眉をひそめた。

しかし、アリスは聞く耳を持たなかった。

「あるんでしょ、お酒」

テーブルの上、それぞれの前に水の入ったコップを置きながら、従業員は微笑んでいる。

その彼女に、アリスは試すような視線を向けていた。

「ありますよ」

従業員は素直に答えた。

意外な反応だった。

時子と町子は、虚を突かれて彼女の顔を見た。

従業員は、自然な笑みを時子たちに返している。

「おお、お姉さん話がわかりますにゃ」

アリス一人が喜んでいた。

「お酒、ください。バーボンがいい」

要求に応じ、従業員は希望の銘柄をアリスに尋ねた。

アリスは、従業員が口頭で挙げた銘柄のうちひとつを指定した。

「ストレートでお願い」

「かしこまりました」

「ちょっと、アリス」

従業員がカウンターの方に去っていった後、町子は非難がましい目でアリスを見た。

「まだお昼でしょ。だいたいストレートって、荒っぽいことを…」

「まだお昼、にも関わらず飲みたい気分だにゃ」

アリスは澄ました顔で町子に応じた。

町子はため息をついた。

テーブル越しに彼女たちを見ている時子。

お酒が飲めない彼女は、アリスの勢いに、感嘆の思いでいる。

「お昼からストレートで飲むなんて、アリス凄いね」

「凄かろうよ。お昼からストレートなんて、慣れっこよ」

アリスは澄ました顔のまま、時子に言った。

「本当に?」

「本当よ。飲んで済むなら、飲んで済ますにゃ」

時子は首をかしげた。

「飲まずに済むなら、飲まない方がいいんじゃないの?」

「そう思うなら飲まずにいなさい」

アリスは、時子をにらみつけた。

「私、飲まない…」

「今の私は、飲まずにはいられない気分だにゃ」

率直にアリスは答えた。

やはり何か辛い目に遭ったのだろう、と時子は想像する。

でなければアリスも、昼から喫茶店で酒を注文するような暴挙には出ないはずだ。

アリスの横で、町子は呆れている。

「昼間からお酒飲む人なんて、もうどうしようもないよ」

投げやりな言い方だ。

時子はうなずいた。

アリスが彼女たちをにらむ。

「お前たちに何がわかる、このぼんくら共」

時子も町子も驚いてアリスを見た。

「ぼんくら共、って…そんな言葉どこで覚えたの?」

「職場で覚えたの」

アリスの職場は、時子が思っていたよりも荒れた場所らしい。

それはストレスがたまって昼間からお酒が飲みたくもなるかもしれない、と時子はアリスに同情する。

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