『手間のかかる長旅(032) 警察署の食堂で食休み』

三人はいまだ、警察署の食堂にいる。

ようやく美々子(みみこ)はカツ丼定食を食べ終わった。

町子(まちこ)も時子(ときこ)も自分たちの食事を終えている。

食堂の壁にかかっている時計を見る限り、美々子の午後からの業務開始時間まで、まだ間がある。

「ほら、見てごらん、クレームをこなしたうえにちゃんと警察めしも味わったぞ。時間内で」

美々子は直前までの微妙な場の流れを変えるように、時計を指差して明るく言った。

時子は追従で、美々子に軽く拍手をする。

本当のことを言えば、時子が土手で遭遇した警官の件はうやむやにされてしまったのだ。

しかし例えそうであっても、自分に美々子がついている限り、何も心配することはないような気持ちになる。

三人で席についたまま、しばしまったりした。

時子は遠くの席にいる警察署員たちを何気なしに眺めた。

食堂は禁煙らしく、煙草の箱とライターを手にして出て行く大柄な刑事たちの姿がある。

時子たちと同じように席でまったりしながら雑談を楽しむ女性署員たちの姿もある。

あとは思い思いにくつろぐ者、早くも食器を片付けて食堂を出て行く者など。

警察もいろいろだ、と時子は思った。

時子はぼんやりしている。

向かいの席で、町子はまたスマートフォンをバッグから取り出して触っている。

美々子はテーブル上に頬杖をついて、そんな町子を見ている。

彼女は食事を終えて眠くなったか、とろんとした目つきだ。

「そういや町子、あんたここの写真撮ったの?」

ぞんざいな声で町子に呼びかけた。

町子は、スマートフォンに目を据えたまま首を振る。

「ううん」

「なんでだよ。私のカツ丼定食だって、撮っておけばブログのネタになったんじゃないの?」

そう言えばそうだ、と時子も思い当たった。

警察に着てから町子は食堂内の写真も食べ物の写真も撮っていない。

もっと言えば、昨日一昨日と喫茶店で食事をした際にも、町子は自分たちが食べるものの写真を撮ろうとはしなかった。

時子はそうした事柄に詳しくは無いが、ブログを頻繁に更新するならそうしたネタは逃してはいけないのではないだろうか、と思う。

えへへ、と町子は愛想笑いをしてごまかした。

「えへへじゃないだろ」

「だって私、掲載許可取らなきゃ駄目なコンテンツは使わない主義なの」

確かに、警察の施設内で許可もなしにやたらと写真を撮るのは控えた方がいいのかもしれない。

「そんなたいそうな話かよ。たまにはグルメネタに走ったっていいんじゃないの?」

美々子は呆れた目で町子を見ている。

「美々子さん、町子さんのブログのこと知ってるの?」

時子は横から美々子に尋ねた。

「うん。いつも読んでるよ」

そっけない返事。

時子は意外な気持ちがした。

「時ちゃんも読みたくなった?」

すかさず町子から、例の勧誘である。

「いや、そういうことじゃなくて、美々子さんはどうなのかと思って」

町子が不満そうに頬をふくらませるのが見えた。

「じゃあ、美々子さんは町子さんのブログの愛読者なのね」

時子は美々子に向き直って話を続ける。

「愛読者ってこともないけどさ、あれだけ更新回数多いと、つい見ちゃうの」

美々子は眉をひそめて答えた。

「そうなの」

「そこまで町子の私生活に興味はないけどね。ただ暇なときは、新しい記事更新されてないかな、ってつい見ちゃう」

町子が、一瞬美々子の方を見て嬉しそうな目をしたことに時子は気付いた。

そんなものなのかな、と時子は思った。

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