『謎の渡来人 秦氏』水谷千秋

文春新書からこういう本が出ています。

謎の渡来人 秦氏 (文春新書)

水谷千秋氏の『謎の渡来人 秦氏』であります。

皆様は秦氏と聞いてどんなイメージを思い浮かべられますでしょうか。

もしかしたら、秦氏のことをご存知ないかもしれません。

秦氏はざっくりと言ってしまえば、山城国(現在の京都市あたり)を中心として日本全国に分布した、海外にルーツを持つ氏族なのです。

秦氏が輩出した人物としては、聖徳太子の支援者として著名な秦河勝が特に有名だと思います。

また京都観光のお好きな方ならば、伏見稲荷大社を創建した秦伊呂具の名を耳にされたことがあるかもしれません。

ですが、著名なのは彼ら少数の代表者ばかりで、氏族全体の実態には謎が多いのです。

タイトルになっていますように究極的には秦氏というのは「謎の渡来人」なのです。

それでもその存在にはこれまで多くの研究者の方々が関心を持ち、研究を続けてこられたわけなのですね。

著者は本書でそれらの先行研究に言及しながら、秦氏がいかなる集団であったのか明らかにしようと試みています。

 

秦氏というのは同じ血筋から成る一族ではなく、現在の中国及び朝鮮半島出身の人々がつくる、ゆるい集団だったようです。

彼らが山城国を本拠とする秦氏の宗家を中心にまとまって、次第に日本全国に広がっていったわけです。

秦氏は中国及び朝鮮半島由来の農耕、また土木建築の先進技術を持っていました。

養蚕、織物、酒造などの技術を日本にもたらしたのも秦氏だったと思われます。

そんな先進技術を持った彼らの活動領域の拡大によって、日本全国の開発が進んだのかもしれません。

特に土木建築などは土地の様相を変えるものですから。

水田と河川の開発によって今の日本の原風景をつくったのは秦氏と言えるのかもしれないですね。

奈良時代に、秦氏が支援していた聖徳太子の一族が滅びた後には秦氏についての表立った記録は少なくなってしまいます。

彼らは中央政治から距離を置いてしまうわけです。

この辺りが各時代の秦氏の実態が謎に包まれている理由でもあるのですが。

それでも秦氏の息吹は日本のそこかしこに残っておりまして。

秦氏の一流の末裔として、戦国時代の九州で活躍した大名の島津氏があります。

真偽はわかりませんが、能の世阿弥も本姓は秦氏を称しています。

忍者の元締めとして有名な服部半蔵を生んだ服部氏も、秦氏の末裔だという説があります。

服部半蔵と同じく徳川氏の家臣として、金山開発で活躍した大久保長安も本姓は秦氏でした。

 

 

彼らのように秦氏に繋がる人々というのは、どこか不思議な魅力を持った人物が多いのですね。

そこが、私が秦氏という存在に長年心惹かれている所以なのです。

同時に異国から来て特殊な技術をもたらした特異な集団でありながら、やがては日本人の一部となっていったことにも親しみを覚えます。

ある種、私たち現代日本人の先祖でもあるのです。

本書を読んでも秦氏についての謎はまだ残るのですが、そうではあっても彼らへの憧れの気持ちをかき立ててくれます。

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