『手間のかかる長旅(072) 小さな候補地選び』
妙な雰囲気になったまま、四人は食事を終えて別れた。
ヨンミの分の支払いは、美々子(みみこ)が払った。
美々子には、午後からも仕事がある。
彼女の仕事が終わって帰宅するまで、ヨンミは時子(ときこ)と町子(まちこ)に同行することになった。
ヨンミには美々子の家以外には行き場所がないのだ。
やむを得ない。
しかし時子、町子にしたところで午後からの予定がなく、行くべきところもなかった。
「三人でどこ行く?」
時子は町子に尋ねた。
「ネタになりそうなところ」
「ネタ?」
「つまり、私のブログのネタになりそうな…」
町子は静かに言った。
彼女は、趣味でブログを運営している。
一日に10本も20本もブログの記事を更新できると豪語する彼女だ。
おそらく彼女がネタになる場所におもむけば、インスピレーションを得て記事を量産できるだろう。
ネタになりそうな場所、時子はとっさには思いつかない。
思いついた河川敷は、時間を忘れてのんびりするにはいい場所ではある。
だが諸々の不快な出来事があったせいで、時子はそこに行きたくなかった。
そして、屋外で長時間過ごすにはそろそろ寒い時期になってきている。
屋内でネタになりそうな場所。
そんな場所が、市内に存在するだろうか。
「ちょっと思いつかない…」
時子は安易にあきらめた。
「そんな簡単に匙投げないでよ」
町子が苦情を言う。
「じゃあ町子さんは何か考えがあるの」
「あったらあなたに聞くわけないでしょ」
呆れた声で答える。
がっかりして時子はヨンミの方を見た。
「ヨンミちゃんは、何か面白い場所を知らない?」
「くろん、おんにどぅる、くこぶぬんおってよ?」
あの古墳はどうか、とヨンミは答えたようだ。
「何て言ったの?」
町子は首をかしげている。
「あの古墳はどうか、って」
時子は通訳した。
「あのコフン?」
町子はますます訝しげな顔になる。
「コフンってなんのこと?」
「私の家の近くに、昔の古墳があったの。で、今朝ヨンミちゃんと一緒にそれを見に行ったの」
時子は説明した。
「コフンって、あの古墳か…」
「うん。住宅地の中の、雑木林の中にあるの」
町子は渋い顔になった。
「ネタにならないでもないけど、あまりそういう変な場所に行くのは…」
語尾を濁した。
変な場所は言い過ぎにしても、
時子も件の古墳一帯が楽しい場所だとは言い切れなかった。
ネタになりそうで屋内で、楽しい場所となると、ますます候補地選びが難しい。
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