『手間のかかる長旅(076) 時子はブログを開設したものの』

三人でお昼ご飯をつくったり、午睡に耽ったり、起きてトランプで遊んだり。

苦しくも、スケジュールの空白を埋めることができた。

夕暮れ時になった。

ドラッグストアで働く美々子(みみこ)のシフトが、終わりを告げる頃だ。

時子(ときこ)と町子(まちこ)は、時子の家を出て、ヨンミの身柄を美々子のもとに運んだ。

居場所が定まるまで、当分、ヨンミは美々子の家に住むことになる。

美々子はヨンミの言葉がわかるのだから、不自由はないはずだ。

ヨンミも美々子を慕っている。

だが最近、時子は美々子が男性と同棲しているらしいことを知った。

先日会った、東優児(ひがしゆうじ)である。

優雅な、女性らしい仕草で振舞う男性だ。

彼と美々子が同棲するアパートに、ヨンミは転がり込むことになる。

美々子は嫌な顔ひとつ見せず請け負ったが、優児はどう思うだろうか。

その一点が、時子の気になっていた。

しかし、彼女も人のことばかりを気にしてはいられない。

今は、他に考えるべきことがある。 

 

町子、美々子、ヨンミと共に美々子の住居まで同行した後、時子は町子とも別れ、再び自宅に戻った。

今夜は、することがある。

そう思うと、自然に笑みがこぼれる。

時子に習って、自分のブログを開設するのだ。

ささいな思いつきだったが、一度思いついたとたん、何か素晴らしいことを閃いたかのような気持ちがしているのだった。

自室の机に向かい、時子はノートパソコンを起動した。

インターネットに接続し、手頃なブログサービスを模索する。

各ブログサービスのユーザー評を見て検討した結果、あるブログサービスが気に入った。

無料で使える、シンプルなつくりのブログである。

これでいい、と思う。

時子は、自分のブログ執筆スタイルを、すでにイメージしている。

活字主体のスタイルなのだ。

おそらくこれから写真等の画像を載せる機会は多くない、と思う。

とにかく、文章を、書きたい。

一日に何本ものブログ記事を更新する時子に、更新頻度と文章の質で負けない執筆をする。

そう考えているのだ。

文章の執筆そのものに重点を置くなら、シンプルなブログサービスが一番なのである。

 

狙いをつけたブログサービスに、時子は自分のアカウントを取得した。

ブログ、開設。

自分の、居場所。

手に入れた。

その手順は、あっけないほど、簡単だった。

思わぬ喜びに襲われ、体が震えた。

しかし、この喜びは、町子がすでに通過済みの場所だ。

時子は、気持ちを引き締める。

これからが大事だ。

何を書くかだ。

時子も町子に負けず、これから毎日、一日10本の記事を更新していくのだ。

時子が記念すべき一本目の記事を執筆するのを、目前でウェブブラウザが待っている。

「ちょっとだけ、待ってね」

思わず、時子はノートパソコンのディスプレイに声をかけた。

ブログ、一本目の記事。

何を書けばよいのだろう?

ブログの開設で頭がいっぱいで、何を書くべきか、事前に考えてはいなかった。

時子は、頬を両手で覆った。

「何を書いたらいいの…」

誰も、教えてはくれない。

好敵手でありブログの先達である町子のブログを参考にしようか。

彼女のブログ、その第一本目の記事を参考にしようか。

時子は、必死でかぶりを降った。

駄目だ。

町子に自分がどれだけ挑戦できるか、試そうとしているのだ。

早々に、町子に甘えるような真似はできない。

 

夜の自室で、数時間。

電源のついたノートパソコンの画面を前にして、時子は悩み続けた。

何も思い浮かばない。

画面を凝視し続けた目は痛み、涙がにじんでくる。

時子は、声をあげて泣きたかった。

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