『手間のかかる長旅(083) 深酒はいけない』
アリスは隣の町子(まちこ)の肩に、右腕を回している。
上機嫌で、時に町子の頬に接吻する。
町子はその都度もがく、だがアリスは逃がさなかった。
「うふふふ」
笑いながら町子にすぼめた唇を近づけて、音をたてて接吻する。
「ちゅっ」
「もう、本当にアルコール臭いな」
町子はもがきながら、不平を言った。
時子(ときこ)はテーブルの上に頬杖を突いて、向かいの席からアリスの醜態を眺めている。
アリスは飲みすぎたのだ。
バーボンをストレートに五杯、グラスで空けた。
その結果へべれけになっている。
「本当にいつまでも飲まれたら困るよ」
「うふふふふ」
アリスは顔を緩めて、やたらと忍び笑いをする。
口数は、少なくなった。
公園でさんざん泣いた末、これだけ飲んだのだ。
何か辛いことがあったのだろう、と時子も町子も気にはしている。
しかし二人がいくら問い詰めずに粘っても、アリスは何があったのか、語ろうとしない。
酒を飲むばかりだ。
よほど語るには重い悩みがあるのかもしれない。
悩みを語る代わり、時折思い出したように町子の顔に口元を寄せる。
上体を反らして逃れようとする町子の体を無理やり引き寄せて、接吻。
「ちゅっ」
「タチ悪いよこの人」
町子は助けを求めて時子を見た。
時子は、うなずいて返すばかりだ。
「時ちゃんうなずいてないで、叱ってよ」
「酔ってる人に何を言っても無駄だと思う」
時子は冷静に言った。
アリスの隣にいるのは自分ではないので、冷静だ。
「酔ってないにゃ」
アリスは怪しい目付きで時子を見ながら、口を挟んだ。
テーブルの向こうにいても、彼女の息からアルコールの強い匂いが嗅げた。
「うそつき、酔ってるでしょ」
「酔ってないにゃ」
強情だ。
「もうそれぐらいにしておいた方がいいよ」
横合いから、アリスに抱かれたままで町子がたしなめた。
アリスは耳を貸さない。
左手で、テーブルの上のグラスを握ったままなのだ。
「いやだ、まだ飲んじゃうもん」
乱暴にかぶりを振っている。
これはさせておいたら潰れるまで飲む気だ、と時子は思う。
もう彼女に飲ませてはいけない。
時子の両腕が、自然に前に伸びた。
「あっ」
驚いて、動きを止めるアリス。
時子は酒の入ったグラスを両手でつかみ、アリスからひったくった。
口元に運ぶ。
底に残るバーボンを、自分の舌から喉へ、流し込んだ。
鼻腔に酒の強い香りが満ちる。
次の瞬間、酒を飲み慣れない時子は、むせて飲み込んだものを吐き出していた。
慌てて押さえた袖口が、酒と唾液とで濡れた。
「なんでそんなことするのよ…」
町子は呆れた目で見ている。
「あなたまで無茶しないで」
涙を目にためてむせながら、時子は苦しげにうなずいた。
アリスも一瞬酔いから醒めた顔で、時子の顔を見つめていた。
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