言い訳の東京旅行二日目(7)。『真女神転生Ⅳ FINAL』で馴染みの錦糸町駅、錦糸公園。東京スカイツリーの威容

コシャリ屋コーピーでコシャリを食べた後、JR錦糸町駅前に来ています。

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駅ビルの名前はTERMINAって言うんですね。

イタリアの駅みたいですね。

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丸井錦糸町店も駅側から見るとしっかり百貨店然としています。

私は見た目の地味な裏口から入ったのでスーパーに入るような気持ちで入ってしまいましたが。

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錦糸町駅前ロータリーに明治時代の歌人で小説家でもあった伊藤左千夫(いとうさちお)の歌碑があります。

小説の『野菊の墓』を書いた人ですね。

ここ、彼が経営していた牧舎跡なんですって。

もともと酪農家だったのが、同業者の影響で文芸活動に目覚めたのですと。

錦糸町って昔はもっと鄙びた場所だったんですかね。

想像がつきません。

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巨大な駅舎ですな。

少し中をうろついてきました。

この下にある地下鉄駅構内が『真女神転生Ⅳ FINAL』というゲーム作品の中で主人公「ナナシ」とヒロイン「アサヒ」の住居になっているんですね。

ただ今回は地下鉄を利用するわけでもないので、地下鉄駅構内には入りませんでした。

後から考えれば、聖地巡礼で来ているんだから入場券買うなりして入ってみればよかったですね。

惜しいことをしました。

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駅ビル脇のトンネルを通って北側へ抜けます。

なぜなのか、歩いている人の数が妙に多いです。

東京はどこもそうなのでしょうかね。

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駅を北に抜けたところにある錦糸公園に行きます。

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お察しの通りここも『真女神転生Ⅳ FINAL』に出てくる場所で、ゲーム内では一種のダンジョンとして再現されております。

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公園の東側に野球場があるんですね。

ゲーム中では「錦糸公園」の東端は壁のようになっていて背景も暗いのですが、よく見ると野球場のフェンスらしい陰影があります。

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ゲーム冒頭の山場になるイベントの発生場所がこの噴水前なのでした。

どんなイベントなのかは重大なネタバレになるのでここでは明かせませぬ。

どうぞ皆様『真女神転生Ⅳ FINAL』を遊んでください。

私は実際の場所に来れて、感無量でした。

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錦糸公園隣に立つ高層ビル「オリナスタワー」の陰から、東京スカイツリーがこちらの様子をうかがっております。

いよいよスカイツリーの勢力圏に足を踏み入れてしまったようです。

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ロケットの形を模した遊具も健在でした。

ゲーム内では配置場所が現実のものから変更されてはおりますが。

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錦糸公園を後にして、東京スカイツリーを目指して歩いていきます。

結構距離はありそうなのですが、途中の街並を見ながら歩いておきたいんですね。

東京スカイツリーもゲーム中に出てくる重要な場所で、私は普通の観光客である以上にメガテンファンとしての目線でランドマークとか街並を鑑賞しています。

あらかじめ言っておくと東京スカイツリーの内部もダンジョンとして出てくるんですね。

それで普段観光地のタワー系建造物には入らず登らずに済ませることが多い私も、今回は中へ入ってみようと計画しております。

 

錦糸公園からずっと西に行くと「大横川親水公園」という南北に長く縦走する川沿いの公園がありまして。

その川沿いに北にスカイツリーまで歩いて行こうと思います。

ということでオリナスタワーのある太平四丁目の交差点で左に曲がり、まずは西方面に行きます。

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と思ったら、途中の太平二丁目交差点でこんな通りを見つけてしまいました。

「タワービュー通り」と言って、ご覧のとおり東京スカイツリーを眺めながらその下まで歩いていける、奇跡のような通りなんですね。

東京スカイツリーの全容をここで目にして、興奮しました。

大横川親水公園を経由して行く予定をここで変更しました。

このまま目の前のスカイツリーに向かっていきます。

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途中の街並を堪能する余裕もなくなりました。

スカイツリーしか目に入ってきません。

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人類があれだけの高さのものを建てて許されるのか?という問いが心に浮かんできます。

圧倒的な高さです。

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浅草通り沿いの建物に突き当たりました。

ここに至ってこの眺めです。

見上げると、腰を反る体勢になって痛いです。

建物を迂回して、スカイツリーの根元まで行きましょう。

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川向こうにツリー。

ツリーの下は商業施設、東京スカイツリータウンです。

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北十間川という川だそうです。

スカイツリーの根元付近は川の両岸が親水テラスになっていて、散策できるようになっています。

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スカイツリーの対岸のビルの窓にはスカイツリーがそのまんま映っていました。

ビルの中の人はツリーを毎日至近で見ながら生活することになるのですね。

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歩行者専用橋「おしなり橋」を渡って私もいよいよ東京スカイツリー側に参りましょう。

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『瞬殺猿姫(52) 猿姫の縁者。吟味にあたる織田弾正忠信勝』

織田弾正忠信勝(おだだんじょうのじょうのぶかつ)は、那古野城の地下牢に来ている。

いくつかに区切られた房のそれぞれに、罪人が押し込められている。

尾張一国を統一して後、弾正忠は領内の治安回復に努めていた。

それで、収監される罪人の数は日増しに増えている。

常に地下牢の房は罪人で満ちて、空きが無い。

ひとつの房の中に、赤の他人の罪人同士を複数入れることを余儀なくされている。

だが中には、家族ぐるみで押し込められている者たちもいた。

「猿姫の縁者」家族である。

「もう半年にもなるとな」

房の中を覗きこみながら、弾正忠は気の毒そうに言った。

家族は、それぞれ莚の上に力なく座り込んでいる。

壁際にもたれかかっている、年輩の男。

着衣は擦り切れて、汚い。

やせ細り、頬がこけている。

精気の無い目で、無表情に弾正忠を見返している。

居住まいを正すことはなかった。

「亭主の名は竹阿弥(ちくあみ)、御先代の頃にお側に仕えておった者です」

弾正忠の隣に立ち、房内を燭台で照らしながら説明しているのは、那古野城の城主である織田孫三郎信光(おだまごさぶろうのぶみつ)である。

孫三郎信光は、弾正忠の父である先代弾正忠信秀(のぶひで)の実弟で、弾正忠にとっては叔父にあたる。

「竹阿弥。しかし、知らぬ顔だが」

「病を得て暇を出されたと聞いております。御館様の御元服前のことでしょう」

「城仕えをしていたにしては、姿勢がよくない。その病のせいか」

「さようでしょうな」

孫三郎は若い甥の質問とも皮肉ともとれる言葉を受け流した。

竹阿弥は心身ともに衰弱しきって、尾張の支配者を迎えても作法を改めることすらできないのだ。

死相さえ浮かんでいる。

責めるのは酷であろう。

弾正忠はしかめ面でうなずきながら、竹阿弥から視線を他の者に移した。

「竹阿弥は正気を失っておりますので、無礼はお許しを」

竹阿弥の隣にいる女房は莚の上に平伏している。

「表を上げよ」

弾正忠は好奇心から声をかけた。

女房はおそるおそる、顔を少しだけ上げた。

弾正忠の顔を見上げる。

痩せて汚れた顔に、目鼻が乗っている。

中年の主婦であった。

やはり疲れきった表情である。

半年も牢での生活を強いられていては無理もない。

「お主が猿姫とやらの母御か」

「左様でございます」

猿姫の母はもつれる舌で言った。

「女房の名は、なか、という名だそうです」

横から孫三郎が補足する。

弾正忠はうなずいた。

「母御の名は、なか。して、なかよ」

「は」

「猿姫は父御と母御、どちらに似ておるか」

「は…」

唐突な質問に、猿姫の母は面食らった。

「どちらと言って似ては…」

「あの娘は死んだ弥右衛門(やえもん)の子です。少なくとも私にはひとつも似ておりません」

女房の言葉を遮って、壁際の竹阿弥がしわがれ声を発した。

酷薄な言い方であった。

弾正忠は孫三郎の方を見た。

「猿姫は、なかの前の亭主の子です。弥右衛門と言って、当家の足軽だった男です」

「討ち死にか」

「戦場で膝に矢を受けて、御役御免になったのですな。その後何年か経って病で逝ったものと女房は申しております」

「であるか」

弾正忠は気も無さそうに相槌を打った。

ただ猿姫の容貌を、両親の顔から連想したかっただけなのだ。

弾正忠は視線を移した。

女房の横で同じく平伏する少年と、その横には幼い少女。

「猿姫の、父親違いの弟と妹です」

「であるな」

弾正忠はうなずいた。

「両名、表を上げよ」

兄と妹に声をかけた。

二人は顔を上げる。

「む」

弾正忠は声を漏らした。

見上げる二人から、敵意のある視線を向けられている。

痩せた兄妹の鋭い目に射られて、弾正忠は同じく厳しい視線を相手に返した。

「両人共、何か言いたそうな目であるな」

少年の方に語りかけた。

少年の口元が歪む。

だが発言をためらっていた。

「童。名を申せ」

「小一郎(こいちろう)です」

弾正忠の目を見据えたまま、はっきりと言った。

「小一郎。私は織田弾正忠である」

「知っています」

「私の素性を知りながら、その方のその目つきは何か。無礼とは思わぬか」

弾正忠は正論を言った。

しかし、小一郎は態度を改めない。

「そうでしょうか」

「何、無礼ではないと申すか」

「殿様が私たちになさった仕打ちをお考えください」

「どういうことであろう」

「私たち一家は言われ無きことで半年もここに閉じ込められております」

「言われ無きことでもあるまい。猿姫はお主らの係累であろう」

「そうです」

「猿姫がこの弾正忠の配下の者たちを殺めたのだ。当人が逃げれば、係累であるお主らが責を負うのは当然であろう」

小一郎は納得しない顔でいる。

「確かに、姉…猿姫が三郎様をそそのかしたうえ、お侍を殺したと言われて私たちはここに閉じ込められました。ですが、もとより話がおかしくはありませんか」

「なぜそのように考える」

弾正忠は口元にわずかに笑みを浮かべて先をうながす。

小一郎の理屈っぽい語り口が、満更不愉快でもないらしい。

「姉がお侍を殺す理由がありません。理由があったのは三郎様の方でしょう」

「そういうことか」

「猿姫が三郎様の代わりにお侍を殺して、何の得があります。むしろ三郎様が姉を脅して無理にお侍たちを殺させたのではありませんか」

「筋は通っておるな」

弾正忠はうなずいた。

「そのはずです。本来三郎様が責を負うべきことを、身分の低い姉に押しつけて縁者の私たちを半年も閉じ込めている。これは殿様の御政道として、無体ではありませんか」

小一郎は言い切った。

母親のなかは、畏れ多くて言葉を失っている。

ただただ額を莚の上に付けて、平伏した。

壁際の竹阿弥は、聞いてか聞かずか、壁にもたれかかったままぼんやりとしている。

小一郎の幼い妹は、弾正忠を無言でにらんでいる。

「であるか。しかし仮にそうとして、小一郎。猿姫が当家の侍たちを殺めたのは事実だ。これは言い逃れできまい」

「農家の小娘ごときに倒されてしまったのはお侍の側の瑕疵でありましょう。お武家のたしなみとしての武芸に怠りがあったのでは」

弾正忠は口をつぐんだ。

織田家は兵の強さでは近隣の大名家に引けを取っている。

家中の武士たちを見ても、武芸に秀でた者は少ない。

痛いところを突かれた形である。

弾正忠の隣で、孫三郎は話の流れに呆れた顔だ。

「御館様。この成り行き、どうするのです」

「猿姫捕縛の手がかりを得ようとしてここに来たのだ。収穫はあった」

小一郎にやり込められたばかりなのに、口元がほころんでいる。

再び小一郎の方に視線を向けた。

「小一郎の言い分はわかった」

「では、私たちを出してもらえるのですか」

「それはお主次第である」

房内の雰囲気がふいに軽くなった。

小一郎の顔に、期待の色が浮かぶ。

「私次第ですか」

「そうだ。小一郎、私はお主が気に入った」

「これは」

少年は、何と言葉を返していいかわからないらしい。

戸惑いの表情でいる。

「…ありがとうございます」

「お主のように弁舌巧みな者が城下におるとは。稀有なことである」

「ありがとうございます」

「おそらくは城仕えをしていた父御の薫陶によるものであろう」

弾正忠が自分に言及しても、竹阿弥は壁によりかかったままで反応しない。

代わってなかと小一郎が平伏をする。

「…ついては小一郎」

弾正忠が声の調子を強めた。

「お主だけを牢から出そう」

「どういうことでございましょう」

小一郎の表情は翳った。

「小一郎。その弁舌で、猿姫を連れ戻して参れ」

「えっ、そんな無体な」

「お主に期待するところがある。猿姫の身柄と交換に、父御も母御も妹も解放する」

「無体です」

小一郎はあえいだ。

流れに乗って殿様相手に出すぎたことを言ってしまった、とようやく気付いた顔だ。

手遅れであった。

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『手間のかかる長旅(107) 暗い本堂。座り込むアリス』

靴を脱いで、暗い本堂に足を踏み入れた。

「あれっ」

中の風景に目が慣れてきた。

「アリス…?」

時子(ときこ)は恐る恐る声を上げた。

すぐ手前に、正面の御本尊に向かって、アリスが座り込んでいる。

その横に美々子(みみこ)が立っていた。

御本尊に向かう祭壇の手前には、誰も座っていない座布団と木魚がある。

「あれ、これ」

時子は気付いた。

誰もいないのに、勤行の経を読む声と、木魚の声。

本堂内部に鳴り続けている。

「スピーカーで鳴らしてたんだ」

美々子が時子の方を振り返って言った。

「なんでこんな…」

座り込んだアリスが、こちらに背を向けたまま、くぐもった声で言った。

時子はいたたまれない気持ちになった。

「にぎやかしかな」

美々子は首をひねる。

時子の後ろから、町子(まちこ)とヨンミ、東優児(ひがしゆうじ)が本堂に入ってきた。

「いご、ちんっちゃちょあよ。ぽくぽくぽく…」

「ヨンミちゃん、これ録音されたお経と木魚だよ」

「お、ちょんまりえよ?」

「本当に。誰もいない」

「くれ…しんぎはねよ。ぽくぽく…」

ヨンミも腕組みして口ずさみながら、胡散臭そうに天井あたりに視線をやった。

スピーカーの場所を探しているらしい。

しかし物陰にあるらしく、暗い本堂の中では容易に見つからない。

無人でお経なんて…」

「防犯対策かしらね」

町子も美々子のそれよりも世知辛い見解を示した。

時子にはわからない。

先日の夕暮れ時に時子が来たときには、こんな自動のお経も木魚も再生されてはいなかった。

週末だけの試みなのだろうか。

「くろんで、ありすおんに。けんちゃなよ?」

ヨンミがアリスを気遣い、静かに声をかける。

アリスの背中は小さかった。

沈黙している。

「おんに?」

「…あんまり大丈夫じゃない」

ややあって、気落ちした小さな声が返ってくる。

アリスの隣に立つ美々子が、アリスの肩を軽く叩いた。

 

アリスの左右に美々子とヨンミ。

アリスの後ろに時子、その左右に町子と優児。

皆がアリスと同じく御本尊の方を向いて彼女を囲み、正座している。

すっかり意気消沈したアリスを放っておけず、集まった。

そのまま、思い思いに祈っている。

アリスは膝の上に両手をついて、前屈みになっている。

誰も声をかけない。

美々子もヨンミも、アリスの顔を覗き込むことを遠慮して、前方の如意輪観音像を眺めている。

町子はその場の雰囲気に合わせながら、どこを見るでもなく顔を上げてぼんやりと過ごしていた。

優児はアリスに同調したのか、しんみりしてうつむき加減でいる。

時子は前に座るアリスの背中を撫でて慰めたい衝動に駆られながら、遠慮してそれをしないでいる。

録音のお経と木魚でアリスに期待させたお坊さんは罪な人だ、と思うのだった。

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『瞬殺猿姫(51) 海の上、阿波守に復讐する猿姫』

織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)と蜂須賀阿波守(はちすかあわのかみ)は力を合わせた。

二人で茶店の中から、猿姫(さるひめ)の体を抱えて、外に運び出した。

外には、農家で借りた荷車を支えて、佐脇与五郎(さわきよごろう)が待っている。

阿波守が猿姫の背中側から両脇の下に手を入れて彼女を持ち上げ、三郎は猿姫の両脚を大事そうに奉げ持っている。

猿姫はおとなしくされるがままになっている。

阿波守と三郎は二人で息を合わせて、荷車の上まで猿姫の体を運んだ。

「猿姫殿、ご気分はいかがでござる」

荷車の上に力なく収まった猿姫を、三郎は気遣った。

「恥ずかしい」

猿姫は小声で短く答えた。

阿波守が笑い声をあげる。

「あ、しまった、私の棒」

猿姫が慌てて、荷車からはみ出た手足をばたつかせる。

三郎も慌てて茶店の中へ。

猿姫愛用の得物を回収して戻ってきた。

「大事なものを忘れるところでござった」

「私としたことが」

猿姫は棒を受け取って、大事そうに自分の体の上に置く。

「これもです」

三郎は猿姫に編み笠を手渡した。

「ちょうどいい、恥ずかしいからこれで顔を隠そう」

猿姫は編み笠を目深にかぶった。

口元しか見えない。

三郎たち三人も、編み笠をかぶっている。

朝からの旅装のままだ。

「急ぎましょう」

佐脇与五郎がうながした。

三郎と阿波守はうなずいた。

いよいよ半年の間頓挫していた南伊勢への旅を再開する。

仲間三人が集まり、そこに与五郎という同行人も加わったが、先行きの不安である。

茶店の中に襲ってきた刺客を残したまま、心残りもある。

だが、同じ場所に留まっていることが一番危険だ。

一向は南へ、伊勢街道を進んだ。

与五郎に代わって、猿姫の乗った荷車を三郎が押している。

自分が猿姫の近くにいないと、三郎は安心できない。

「漁民の家に着き次第、小船を借りましょう」

落ち着いた与五郎の声に、励まされる心地になる。

三郎はうなずいた。

 

近隣の漁民から小船を借りて、伊勢の海に漕ぎ出した。

とは言え、沖に出るわけではない。

着かず離れず、岸辺に沿って南下する。

阿波守が櫂を担当した。

阿波守の出身である蜂須賀氏は川並衆と呼ばれる集団に属している。

この川並衆は尾張国美濃国の間の木曽川流域を根城にしており、木曽川を使った物流、渡し舟の運営等を収益源にしている。

その縁で阿波守も船の扱いに長けている。

運よく、海は凪いでいた。

「しかし俺は川舟には慣れていても海に漕ぎ出すのは慣れておらん」

阿波守は弁明した。

半年前、三郎たちは猿姫の漕ぐ川舟で木曽川から白子まで海を来ている。

猿姫に船歌を強要した結果、船歌を知らない彼女はやむなくお田植え歌を歌っている。

「そうだ。髭、貴様、歌を歌え」

船底に横たわった猿姫が、思い出したように言った。

「歌とは」

船尾に立つ阿波守は、そ知らぬ顔で潮風を頬に受けている。

「とぼけるな。お前、前に私が船を漕いだ時は私に歌わせただろう」

猿姫は小声で抗議した。

「そう言えばそうですな」

三郎も同調した。

猿姫は、船を漕ぎながら歌を歌った状況を思い返している。

「女が船を漕ぐのは不吉だの、船歌を歌わないのは不吉だの。およそ縁起でもない嫌がらせをしてくれたじゃないか」

思い返すと腹が立って、小声で抗議し続けた。

三郎は口をつぐんで、阿波守の方を見た。

船尾で櫂を操りながら、阿波守は平然としている。

「その節は無礼なことを言って悪かった」

猿姫の方を見下ろして、口先で謝罪した。

「許すか」

猿姫の怒りに火がついてぶり返し、収まらない。

「お前も船歌を歌え。でないと不吉だ」

「この俺に可愛らしい声でお田植え歌でも歌えと言うか」

猿姫は起き上がろうとする。

「このむさくるしい髭面が」

「猿姫殿、傷に障ります」

三郎が慌てて猿姫を押し留めた。

「阿波守殿、怪我人を愚弄するのはお止めくだされ」

「愚弄した覚えはないが」

阿波守は平然と船を漕いでいる。

船上の騒ぎと裏腹に、海面は穏やかである。

空には雲も少ない。

「歌など歌わなくとも、見ろ、俺の日頃の行いがよいから海も凪いでいるではないか」

「お前の日頃の行いじゃない。私の日頃の行いがいいんだ」

猿姫が憎々しげに阿波守を見上げ、毒づいた。

三郎と与五郎は苦笑している。

「さっさと歌わないか」

猿姫はあきらめなかった。

船底から愛用の棒を取り上げ、船尾の阿波守の腹を突く真似をする。

「危ない、海に落ちる」

阿波守は大げさによろめいてみせた。

なかなか歌おうとしない。

「阿波守殿、拙者も船歌を一度聞きとうございます」

三郎は猿姫を助けに入る。

「事情は知りませんが、ここまで言われるのだから歌って差し上げてはいかがか」

事情を知らない与五郎も猿姫たちに加わった。

阿波守は渋い表情になった。

追い詰められている。

「運び賃を払った船客にだけ聞かせる歌なのだが」

「お前にはよほど借りがあるはずだ、髭」

阿波守はため息をついた。

それから息を吸って、木曽川の船歌を歌い始めた。

 

船上では、猿姫と三郎が船底に仲良く並んで横になり、寝息をたてている。

船先に後ろを向いて座った与五郎も、眠そうな顔でうつむいている。

船尾で櫂を操る阿波守は、板に付いた様で、船歌を歌う。

阿波守の明朗な声と、穏やかな波の音が溶け合って響いている。

小さな船が海岸沿いをゆっくりと南に進んでいった。

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『手間のかかる長旅(106) ぽくぽくと鳴る木魚。アリスは先んじる』

山門内側で待っていた美々子(みみこ)たち先の三人と合流した。

「遅いぞ」

美々子は腕組みしている。

「理由も無しに急いで先に行くからでしょ」

町子(まちこ)は負けていない。

ヨンミは本堂を見ている。

東優児(ひがしゆうじ)は境内を囲む土塀の際に立てられた境内案内図を見ている。

美々子は彼の傍らに立った。

「みんな、どうする?」

美々子の声かけで、時子(ときこ)、町子、アリスとヨンミも案内図の前に体を寄せた。

こんなのあったんだ、と時子は思った。

先日は、勝手知った様子で境内を進むアリスに任せ、時子は本堂まで同行しただけだった。

如意輪寺の境内に何があるか、把握していない。

案内図で見たところ、境内は山中の広い範囲に及んでいた。

広い境内に様々な寺院施設が散在している。

「何かいろいろあったのね」

時子は思わず口にしていた。

アリスはうなずいている。

「日本庭園もあるにゃ」

「本当だ」

境内に入り込んだ森に遮られて、寺院の全容が見えないのだ。

先日の時子はアリスと山門から入った先の正面にある本堂で時間を過ごしている。

そのときにはアリスの知り合いだという「坊さん」にも会えなかった。

無理もなかった。

あらかじめ連絡を取っておかなければ、境内で偶然落ち合うことは難しいだろう。

今回は会えるのかな、と時子はアリスのことを考える。

アリスは屈託もなさそうな顔で案内図を見ている。

「どうする、お前たち」

アリスは友人たちに声をかけた。

「まず最初にお参りだよね」

美々子はすぐに反応した。

お参りして、御本尊を拝む。

建前は、皆でお参りに来ているのだ。

寺社参詣である。

ご飯を食べてまったりするのは、その後だ。

一団は本堂に向かった。

 

同時にバスで降りた年輩の女性たちは、本堂を素通りして境内の一角にある墓地に向かう人が多かった。

彼女たちはお寺へのお参りではなく、最初から墓参りだけを目的にしているらしい。

残された時子たち六人が本堂に近づくと、妙な小高い音が聞こえた。

同じ音が延々と鳴り続けている。

「ぽくぽくぽくぽく…」

ヨンミがふざけて真似をする。

木魚を叩く音だ。

その音に重なるように、後から経を読む声が響いてくる。

明朗な、男性の声である。

当然僧侶のものであろう。

「坊さんだ…」

すぐ横にいた時子にだけ聞こえる、小さな声だった。

時子は並んで歩くアリスの顔を見上げた。

アリスも時子を見返した。

嬉しそうな表情を隠さない。

時子も笑顔を返した。

「よかったね」

「うん」

二人のやり取りを町子が黙って見ている。

アリスは時子の顔から本堂の方に、視線を戻した。

早足になって、一団の先頭に先んじた。

「アリスどうした」

二番手になった美々子が怪しんで、声をかける。

「知り合いの坊さんだにゃ」

声を弾ませて先へ行く。

「知り合い?ああいうお経を読む声でわかるもんなの?」

「わかる」

事もなげに言い、友人たちを置いて本堂に入ってしまう。

「待ってよアリス、お坊さんを私たちに紹介しな」

慌てて追いかける美々子である。

時子たちもアリスと美々子を追って本堂に迫った。

「ぽくぽくぽく…」

ヨンミは木魚の音が気に入ったらしい。

歩きながらまた真似している。

木魚が珍しいのだろうか。

「あにえよ、うりならえどもったくんいっそよ」

私の国にも木魚はあります、と控えめに言い添えている。

しかし時子には返事をする余裕がなかった。

アリスと件の僧侶の邂逅を、見逃したくない。

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言い訳の東京旅行二日目(6)。メガテン聖地巡礼。夜の街、錦糸町。コシャリ屋コーピー何食べる

なぜ錦糸町に来たのか?

東京スカイツリーに向かう中継地であることとは別に、一度来てみたかったのです。

錦糸町が、私の好きなテレビゲームの『真女神転生Ⅳ FINAL』という作品で、主人公の少年「ナナシ」の故郷であり本拠地として描かれているんですね。

閉鎖されて荒廃した近未来の東京を舞台に、神と悪魔の最終戦争…!

錦糸町、もっと言えば東京スカイツリーも前日訪れた築地本願寺も、本作品中で重要な場所として登場するのですね。

昔から私は東京旅行の時には『真・女神転生(通称メガテン)』シリーズに出てくる場所を「聖地巡り」的に訪れることを通例にしているわけなのです。

ゲーム内に出てきた錦糸町、実際の風景がどんな具合なのか。

見たいですね。

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牡丹橋通りをずっと来て、丸井錦糸町店の裏手に出たのですが…。

ほんとにマルイのすぐ裏?って首をひねるぐらい、道に吸殻とかごみ類とか散らかってて。

なんか新宿の駅前みたいですね。

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人がやたらと並んでいる。

お隣の亀戸に本店のある「亀戸ぎょうざ」の錦糸町店でした。

有名なお店らしいけれど、今回は私は別の店で昼食をとるのでパスです。

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亀戸ぎょうざ店舗のはす向かいにある、この三人の赤ちゃんのモニュメント。

『真女神転生Ⅳ FINAL』の中にも出てきたんですよね。

ここも散らかって…周囲をカラスたちがうろうろしています。

魔境ですね。

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このスポットで写真撮ってる観光客って私を含めたメガテンのファンだけでは?って気がしますね。

しかしこの赤ちゃん三人の由来はわかりません。

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どの角度から撮っても画面内に見苦しいものが写ってしまいます。

赤ちゃんの腕にビニール袋まで掛けられていて。

酷いけど、これはちょっと笑ってしまいました。

このモニュメント自体はなかなか味わいがあるんですよね。

秘められた霊力がありそうです。

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メガテンらしいと言えばいかにもメガテンらしい、「背徳の地」という趣きがありますね。

昼間に来てごみの散らかり具合だけ見て言ってるわけですけれどね、私は。

夜の街、錦糸町

 

この後、マルイ錦糸町店の中を軽くのぞいてきました。

大阪の地元駅前にあるローカル商業ビルに雰囲気が近かったです。

その勢いで、大阪人の特性でエスカレーターでは右側に立ってしまうのです。

でも他の買い物客の人たちは誰もが左側に立ってました、やっぱり。

皆さん東京人ですね。

迷い込んだ大阪人は目立ちました。

エスカレーターの立ち居地って実は真ん中が正解、なんて話もあるので、今後は地域差も解消されていく…のでしょうか。

自分のことを考えても、ちょっと実感できないですね。

習慣の力は根強いです。

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北の錦糸町駅方面には行かず、昼食予定のお店に行くためにマルイ裏を東に抜けます。

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天台宗のお寺「五徳山観音寺(通称・江東観世音)」があります。

お参りしました。

群馬県にある水沢寺の別院にあたるんだそうです。

御本尊は千手観音菩薩ですが、近くに競馬の場外馬券場があるためか、敷地内に馬頭観音も祀られています。

私は賭け事はしませんが、念のため勝負運上昇もお祈りしました。

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江東橋3丁目の交差点です。

錦糸町ってそうそう来るところではないので、こういう何気ない風景も脳裏に刻もうとしています。

ま、写真に撮ってしまえば今みたいに後から確認できるんですよね。

ただ全身と五感で感じられる、その場だけの空気というものがあります。

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錦糸堀公園に来ました。

公園名の由来はわかりませんけれど、おそらくこの辺りに昔は錦糸堀という名のお堀があったのでしょうね。

公園内に河童のモニュメントが立っていたので、おそらくそのお堀に河童が出没したんでしょうね。

お堀が埋め立てられて、錦糸堀の河童はどこへ行ったのでしょうね。

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河童の行き先として、公園北西のこの路地が怪しいですね。

私の目的のお店もこの先にあるっぽいです。

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夜に営業するお店なんかもあって、なかなかメガテン趣味の横溢した路地空間です。

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この味わいのある雑居ビルが怪しいですね。

2階に「コシャリ屋コーピー」ってお店があるらしいです。

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「エジプトを代表するB級グルメ」の「コシャリ」なる料理が500円で食べられるというのですな。

私は実のところ、このコシャリというものが食べたくて食べたくて。

メガテンの聖地巡りとは別に、このお店で食事することも大きな動機になって、錦糸町に来たのです。

コシャリ屋コーピー、日本初のコシャリ専門店なんですね。

とりあえず今のところ常設店舗としては日本でここでしかコシャリは食べられない、と言ってよさそうです。

 

ビル2階の店舗内、夜間のバー営業と兼用で運営していると見られるお店で、照明は若干暗めです。

目立たない立地の店舗なのに、先客が結構入っています。

カウンター席とテーブル席がいくつかありました。

このカウンター席に座って、コシャリを注文します。

本場エジプトのコシャリとは別に日本人向けにアレンジされたコシャリメニューが豊富にあるのですが、今回はとりあえず基本のコシャリをお願いしました。

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基本のコシャリ500円と、モロヘイヤスープ200円です。

私、モロヘイヤスープも好物で、時々自分でつくったりもしていて。

コシャリと合いそうですね。

というかコシャリってどんな味わいなんでしょうね。

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ご飯とマカロニと短く切ったスパゲティ、それからひよこ豆とレンズ豆とを混ぜて、上からフライドオニオンを乗せてある。

そこにトマトソースをかけて食べる。

そういうシンプルな料理なんですね。

ところがこの食感が何とも言えず、たまらないんです。

ご飯、各種パスタ、フライドオニオン、豆。

それぞれ違った食感が口の中でぶつかりあって、咀嚼するのが楽しくてたまらないのです。

味付け自体はほぼトマトソースなので、わかりやすい味ではあるんです。

お好みでカボスの汁を絞ってかけたり、卓上備え付けの辛味ソース、酸味ソースをかけて味変をしながらいただきます。

美味です。

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味付けのしっかりしたモロヘイヤスープ、とろとろモロヘイヤに胡麻もたっぷりで、美味。

やはりコシャリに合ってました。

 

初めて錦糸町で食べるコシャリ、癖になる食感、味わいでした。

癖になると言えば店内で流れているコシャリ屋コーピーのオリジナルソングも癖になります。

癖になるどころか洗脳されそうなぐらいの勢い、独特の曲調で、たまりませんでした。

できれば月1ぐらいの頻度でコシャリを食べに、オリジナルソングを聴きに通いたいぐらいです。

錦糸町の近隣にお手頃な賃貸物件といいお仕事ないだろうか、と思いました。

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『瞬殺猿姫(50) 猿姫を狙う織田弾正忠信勝』

織田家の当主、織田弾正忠信勝(おだだんじょうのじょうのぶかつ)は、清洲城を本拠に定めている。

隣接する諸国との戦は小康状態にあって、動きがない。

城内の空気は落ち着いている。

彼の兄、三郎信長(さぶろうのぶなが)を支持する織田家家臣は家中からほとんどいなくなった。

「ほとんど、というのが気に食わない」

居室の上座に、弾正忠信勝は背筋を伸ばして座っている。

形ばかり、右肘を脇息に置いている。

衣服の折り目も正しい。

髪油で整えた髪を頭部の後ろに集め、結ってある。

鼻下に整えた髭の他は無駄毛を綺麗に剃りあげてあり、肌艶が良く白い。

白い顔の中につくりの大きな、それでいて品のある目鼻立ちが浮かんでいる。

左手の先に扇子を持ち、じっと床に垂らしている。

「と言って、今は連中にも取れる動きは何らありますまい」

柴田権六郎勝家(しばたごんろくろうかついえ)が受ける。

権六郎は織田家先代の時代から、歳若い弾正忠に仕える家老であった。

彼自身がまだ若くして高い地位にある、実力者である。

「三郎様を連れ戻そうにも、動けば直ぐにもこちらに知れます故」

上座の弾正忠と彼に向かって斜め前の下座に平伏する権六郎。

今この場にいるのは二人だけだ。

小姓も居室の外に控えさせてある。

家臣団の概ねは今や弾正忠になびいているが、その中でも心から信頼できるのは、権六郎を置いて他にない。

弾正忠はことあるごとに権六郎を居室に招いていた。 

 

もともと清洲城は、かつて尾張国守護大名であった斯波(しば)氏の居城である。

代々の斯波氏当主は清洲城内の居館を守護所とし、政務を行った。

守護所であったこの城に住むということは、すなわち「自分が尾張国の支配者である」という意思表示であり、同時に世間にもそのように追認させるだけの実力が伴っている。

斯波氏は台頭する家臣たちに勢力を削がれ、清洲城を追い出されている。

とうに尾張支配者の地位を失っていた。

尾張国内に数ある織田家の中、今や織田弾正忠家が尾張を統一して支配者として君臨している。

尾張統一は、当代の弾正忠信勝の実力によるところが大きかった。

弾正忠家の先代の当主である弾正忠信秀(だんじょうのじょうのぶひで)は、尾張国内での覇権争いの最中に没した。

信秀の嫡子である兄・三郎信長(さぶろうのぶなが)と弟・勘十郎信勝(かんじゅうろうのぶかつ)の兄弟、いずれに家督を継がせるか。

信秀は今際の際に弟の勘十郎信勝を指名し、逝った。

例外はあれど、武家家督は嫡男が継ぐことが通例である。

戦国の常なら家中を二つに割っての家督争いが予想されるところであった。

しかし織田家の場合、勘十郎の家督相続は円滑に行われた。

かねてより奇行が目立ち巷で「うつけ」と称された兄、三郎信長は先代弾正忠の葬礼の場で粗相を行った。

喪主としてつつがなく葬礼を済ませた弟、勘十郎に、人望が集まるのは自然な成り行きだった。

先代を見送ってわずかの後に、勘十郎は代々の「弾正忠」の官命を自称し始めている。

勘十郎への兄からの抗議に同調する家臣は数少なく、自然に黙殺された。

その後、勘十郎は先代の悲願であった尾張統一を、実力で成し遂げている。

勘十郎の家督相続は家臣団にも領民にも名実共に認められた。

孤立した兄、三郎は弾正忠の暗殺を謀るがこれに失敗、尾張を出奔した。

「孤立させて追い出したはいいが、あの愚兄もあれでうつけではない」

弾正忠は、矛盾した所見を述べた。

「中央に上って妙な工作をされては困る」

「京奉行には三郎様の入京を阻止するように申し伝えておりますが」

尾張国内には弾正忠家以外にも織田を名乗る同族の家柄が多くある。

尾張統一の過程で弾正忠はそれらの同族たちを傘下に置いている。

しかしそれらの家々を完全に臣従させたとは言い難く、三郎と連絡を取られて挙兵の口実にされてもおかしくはなかった。

この点を早くから憂慮していた弾正忠は、家督を継いだ早々から、三郎と尾張国内の諸家との連絡を遮断するように常に目を光らせてきている。

その点では抜かりない。

だが現在の三郎は尾張国外にいる以上、その遍歴そのものを妨害することは難しかった。

中央に上られたり、近隣国の大名と結託されると面倒なことになる。

「どこぞの辺境でおかしな地侍に担がれはしないか」

出奔した三郎と那古野の土豪の娘とが手と手を取り合い、弾正忠配下の侍を殺害して伊勢に向かったことは、すでに織田家中に知れている。

権六郎は伊勢に向けて、すでに複数の刺客を放っていた。

「伊勢の情勢は混乱しておりますからな」

権六郎は言い訳をした。

三郎信長捕縛の報告も殺害の報告も、まだ届いてはいない。

「であるか」

弾正忠は追及を避けた。

「いえ、三郎様の足取りはおおむね分かってはおりますが」

弾正忠がわかりのいい態度を取ると、権六郎は慌てて弁明をする。

いつも通りのことであった。

「どこに向かっておるか」

「南であります」

伊勢の南と言えば、大大名、北畠家が君臨する土地。

弾正忠は、眉間に皺を寄せた。

「面倒な輩がいるところであるな」

「ご心配召されますな。先ほど申した通り、伊勢の情勢は混乱しております。この混乱に乗じて…」

権六郎は語尾を濁した。

「愚兄はともかく、同行の娘は生かしておきたい」

弾正忠は小声で言った。

左手の扇子を小さく広げて、口元を隠している。

弾正忠には、相手に希望を述べる際に、そうする癖があった。

そんな癖を知っているのは、彼が気を許している家臣、権六郎だけだ。

「噂では町衆から『猿姫』などと呼ばれる野卑な者だということですが」

「しかしあの愚兄を籠絡したのであろう。只者ではあるまいぞ」

口元を隠し、視線を座した己の膝先に落としている。

その表情から意図が読めない。

「御館様は、三郎様のことを意外と買っておられますな」

権六郎は、弾正忠のうつむいた顔を見据えて言った。

「我らは似た者兄弟である故な」

「御戯れを」

有能な弟とうつけの兄と、その性質に似た点はひとつも無い。

同じ両親から生まれた弾正忠と三郎だが、巷間にはその事実をすら疑う者が多い。

しかし弾正忠自身は、実兄を蔑みながらも何らかの点で評価しているきらいがあった。

「その『猿姫』とやらの縁者は押さえてあるのだな?」

彼は権六郎に視線を戻した。

「娘の父母と兄弟姉妹は皆、那古野城の地下牢に閉じ込めてあります」

「私が直々に吟味しよう」

「御館様」

常ならぬ意欲を弾正忠は露わにしている。

平伏した権六郎は戸惑いを隠せず、弾正忠を見上げていた。

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