『手間のかかる長旅(068) ハンバーグを食べた三人』
時子(ときこ)とヨンミはまったりコーヒーを飲んでいる。
その間、町子(まちこ)と美々子(みみこ)は配膳されたそれぞれの料理を食べている。
町子はスパゲッティペペロンチーノ、美々子はハンバーグランチだ。
二人とも、食欲旺盛なようだった。
午前中のアルバイトをこなしてきたところなのだ。
時子とヨンミも、時子の住居近くの古墳を見学して、スーパーマーケットに買い物に行っている。
結構歩いたのだが、その後二人でご飯を炊いて食べたのでおなかは満たされているのだ。
ヨンミの身柄は当分預かる、と美々子が表明したことで、その件は解決されたかのような空気である。
皆、のんびりしている。
いつも通り念入りな化粧で白い顔の美々子、は細かく切ったハンバーグを口先に運んでは小さく食べていた。
時子の隣にいる町子は、何か魂の抜けた顔で皿の上の麺をフォークにからめて、淡々と食べる。
何か自分のたたずまいを忘れたかのような座り方で時子の隣にいる。
時子は、町子がいつもとは違う人のように感じられた。
二人の視線が合う回数が、日頃より少ない。
心当たりはある。
時子はいつもは町子と行動を共にしているのに、今日はヨンミと一緒に現れた。
町子は、時子との距離感を忘れてしまったのかもしれない。
そんなことを考えながら、時子はカップからコーヒーを吸った。
「アリスも言ってたけど、まあ美味しいね」
気付いたら、美々子が何か話している。
無心に食べながら、食べているハンバーグの味に注意を向けていたようだ。
「うん、わりと穴場だし、いいでしょ?」
町子が応じている。
美々子はうなずきながら、ハンバーグの一片をフォークの先に刺して、隣のヨンミに味見させている。
仲がいいのだ。
言葉が通じると人の距離感もより近まるのだと時子は眺めながら思った。
ハンバーグをもらって、ヨンミは喜んでいる。
「ほい、時子」
眺めている時子の方に、美々子は別のハンバーグ片をテーブル越しに突き出してきた。
「えっ…」
「お食べよ」
時子は一瞬ためらった。
が、美々子はフォークを引っ込めない。
断ることもできず、時子は肉片を口先で受けた。
小さく切られた肉片を、口の中に移して咀嚼した。
熱くて適度に汁気のある、美味しいハンバーグだ。
おいしい、と時子は思った。
向かいでヨンミも同じものを咀嚼しながら機嫌よく笑っている。
「町子も欲しい?」
フォークを皿の上に戻して、美々子は町子の方を見やった。
どこか試すような表情である。
「ううん、私はこのスパゲッティ食べるのでいっぱいいっぱいだから、いいよ」
町子はそつなく断った。
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