飲酒と執筆

飲酒して、酩酊した状態で小説等を執筆することの是非というのがあって、なぜそういう話題が遡上に登るのかと言えば、酩酊した状態では執筆が容易になるからだ。

作家が執筆について書いた読本の類を読むと、結構な確率で飲酒と執筆についての考察がある。

私がその手の小説の書き方の本を読んできたうえでは、ほとんどの作家は酩酊した状態での執筆には否定的である。

脳が働かなくなるから、まともな文章が書けないし、物語の展開、構成を意識しながら書くということはほぼ不可能なのだ。

それを肯定的に言い換えると、物語の展開、構成を意識しないで書けるようになる、ということでもある。

本来の自分よりも言葉選び、展開の幅が広がるので、執筆の速度は飛躍的に上がる。

当然その質は正常な状態で書いたものより落ちているのが常だが、そうなっているにも関わらず、執筆者の中にある執筆へのためらい、例えば書こうとしている文章が自分の求める質に達しないとか、読者が求める質に達しないとか、そういうことで次の文章が書けないという状態が減じる。

書くのが気持ちいいから職業的自尊心も読者もどうでもいいや、の精神状態である。

もうひとつ、常の自分にある倫理的な制約も外れることで、常にない展開に物語を進める効用もある。

登場人物がその人物なら取りそうもない行動を取る、その小説の世界に設定されていたはずの時間的物理的な取り決めから外れた展開をする。

酩酊した状態で、そういう自由な発想と展開で執筆が行えるようになる。

執筆に行き詰った作家は酒に溺れるというのは、酒による酩酊で書けない苦しみを紛らわせるのとは別に、その酩酊による開放的執筆状態に頼った経験が過去にあり、味をしめてしまうのかもしれない。

私も酒を飲んだ状態で執筆することがあり、そういう状態だと筆が進むし、常にない展開を見るのも事実なのだ。

だが前述の通り文章の質は落ちているし、何よりも後から襲って来る「酒の力に頼った」という自己嫌悪が苦しい。

また文章の質が常のそれよりさほど落ちていない場合もあり、それはかえって絶望的な気持ちにさせられる。

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

禁酒セラピー 読むだけで絶対やめられる (LONGSELLER MOOK FOR PLEASURE R) [ アレン・カー ]

価格:995円
(2022/11/21 00:41時点)
感想(47件)

kompirakei.hatenablog.com