『手間のかかる長旅(098) 本堂で過ごす』

絨毯の敷かれた床の上に、時子(ときこ)とアリスは座り込んだ。

目の前には本尊の威容がある。

二人で、この本尊を眺めている。

如意輪寺の本堂の中は、天井にランプ照明が灯っているばかりで薄暗く、静かだった。

外では境内を吹く風の音がしている。

しばらく、二人は本尊を眺めながら外の風の音を聞いていた。

時子は自然と、正座で座っていた。

お寺の本尊の前で、足を崩すことは無意識に避けたのだ。

横にいるアリスのことが気になった。

正座できるのだろうか?

彼女の足に目をやった。

見るとアリスは座禅を組むような形で、その長い足を小さくまとめている。

いつの間にか隣で、そんな凝った座り方をしていたのだ。

スカートからタイツの膝先を露出させていた。

「それ、痛くないの…?」

時子は小声で聞いた。

「痛くないにゃ」

アリスは答えた。

「お前こそ、正座で」

「うん」

確かに、正座もつらい。

しかし本尊が見ている。

「仏さんが見ているし」

「仏さんは見ているけれど、坊さんは見ていないよ」

「そうかな」

確かに、その場に僧侶がいなければ、多少の粗相をしても怒られることはない。

仏さんには悪いけれど、と思いながら時子は足を横に崩した。

楽だ。

「ここ、落ち着くね」

足を崩して楽になると、この本堂の空間は悪くない。

静かで、雨風もしのげて、いいところだった。

堂内に漂う線香と木の香りも、鼻に心地いい。

少し、寒いけれども。

「そうだな」

「うん」

「ここで、一晩泊まりたいにゃ」

小さく息を漏らすように、アリスは答えた。

切実な響きがあった。

時子は思わずアリスの横顔を見た。

「泊まる?どうして?」

「いや、別に、どうしてってほどの理由もないにゃ」

アリスは言葉を濁している。

何かあるな、と時子は思った。

 

二人とも、一方は座禅、一方は崩れた座り方のまま、依然としてぼんやりと座っている。

「そう言えば、お坊さんは」

時子は何気なく言った。

「私たちお坊さんに会うんじゃなかった?」

「ああ、そうだっけ」

アリスも思い出したように言った。

「泊まるにしても帰るにしても、坊さんに挨拶はしておいた方がいい?」

時子に尋ねてくる。

「えっ、泊まらないよ…?」

時子は混乱した。

お寺の本堂に泊まるなんて、想像もできない。

確かに居心地はいいが、一晩過ごす場所とは思えなかった。

「泊まらないよね?」

不安になって、アリスを見返した。

アリスは、首をかしげる。

「泊まってみたいんだけど、駄目かな」

「なんで急にそんな流れになったの?」

時子は焦った。

アリスがテレビの仕事でロケに来たお寺。

面接の帰りに、その現場に寄り道するぐらいのつもりだったはずだ。

当初から、時子もアリスも。

それが本堂でちょっとまったり過ごせたぐらいで、妙な考えを起こされては、身が持たない。

時子は、アリスの言動が少し心配になった。

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『手間のかかる長旅(097) 本尊を鑑賞する』

如意輪寺の境内にいる、時子(ときこ)とアリス。

夕暮れどきの寒さの中で、二人はお寺の建物に入ることにした。

たとえ寒くても、もうさっさと帰ろう、という気は二人にはなかった。

先ほど、食品工場での面接で即日採用を告げられたばかりで、気持ちが高ぶっている。

このまま家に帰る気は、なかった。

二人で境内を突っ切って、本堂に来た。

本堂前にお香を焚く香炉があった。

煙は立っておらず、燃え尽きたお香の残滓と灰ばかりが香炉の内部に積もっている。

長い時間、この場所には参拝客が来ていないようだ。

それでも香炉の前に立つと、かすかにお香の香りが鼻先をくすぐった。

香炉の脇を抜けて、本堂の入口で二人は靴を脱いだ。

本堂の戸は、閉まっている。

時子の先に立ったアリスは、躊躇することなくその引き戸を開けた。

戸はがらがらと音を立てる。

アリスは、本堂の中に入り込んだ。

「大丈夫なの?」

時子は後ろから声をかけた。

迷いのないアリスの行動が、心配だ。

「問題ないにゃ」

アリスは何気なく言って、中へ。

時子も彼女の後を追った。

うす暗い本殿に入るなり、正面に、寺の本尊である仏像が二人を迎えていた。

時子には、それがどういう種類の仏像なのかわからない。

本尊は、蓮華の花の形をした台の上に座り、片膝を立てている。

六本もの腕を持った、ふくよかな体格の仏像である。

一本の手先で柔らかくその頬を支え、うつむき加減な物憂げな表情をしているのだった。

「なんだか、女の人みたいな仏さんだね」

仏像の存在感に圧倒されて、その場に突っ立ったまま、時子はささやいた。

同じように横に立っていたアリスが、時子の方を見た。

「そうか。女の人か、これ」

「ええと、私はよくわからないけれど」

時子は慌てた。

無知な自分がうかつなことを言って、外国から来ているアリスに間違った知識を与えてはいけない。

「いや、女の人じゃないかも。だって仏さんって、皆、男の人でしょ?」

「仏はブッダのことにゃ」

アリスは、時子の言葉にうなずいた。

ブッダはね、インド人の王子にゃ」

王子なら、やはり女の人ではない。

時子は納得した。

「じゃあやっぱり、男の人ね」

「そうか」

アリスは首をかしげながら言った。

二人で立ったまま、本尊を眺めた。

うつむき加減の、物憂げな眼差し。

赤い唇。

細く、その柔らかさを想像させる六本の腕。

彼を目の前にして、時子は生々しい存在感を肌に感じる。

眺めながら、これは本当に仏像なのだろうか、と彼女は目を細めた。

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『瞬殺猿姫(38) 猿姫たちは抜け穴の先、三の丸へ』

一行の主である、織田三郎信長(おださぶろうのぶなが)。

彼は、しきりにうなずいていた。

「下総守殿が仰せられる通り。国の強さとは、民の強さ。我ら武家は、あくまで民を陰ながら主導する者であるべきでござる」

先の、神戸下総守利盛(かんべしもうさのかみとしもり)の発言を、全面的に支持するものであった。

三郎からの追認を得て、当の下総守もうなずき返している。

 

彼らの方を振り返って見て、猿姫(さるひめ)はため息をついた。

この領主たちの、何という楽観主義であることか。

猿姫自身、尾張国の、貧しい土豪の家に育った身だ。

下々の社会には確かに、他人と助け合って生きていくたくましさがある。

しかしそのたくましさの基本にあるのは、自分が生き延びることだ。

場合によれば、自分と同じく貧しい他人を踏みつけてでも、己だけは生き残りたい。

個々の民衆の顔を注意深く見ていれば、そんな利己的な空気を感じることは容易だ。

ただ猿姫も、そんな彼らの心性を批判できない。

なぜなら、彼女自身がそうした下流の社会の利己的な空気に、忠実に生きてきた。

幼い頃から、少しでもいい暮らしをしたくて、猿姫は他国の武家に仕える道を選らんだ。

主がどんな人物であれ、己が他の者よりもましな暮らしをできるならば、仕官する。

その一心で、猿姫も彼女と同じ階級の出の他の人々も、日々を暮らしている。

いつなんどき、どの領主に寝返るとも知れない人々である。

そんなあくまで利己的な民衆のたくましさ。

 

領主である三郎と下総守とが、手放しで民を肯定する様は、猿姫から見ても心配になるものであった。

「三郎殿…」

猿姫はおそるおそる、言葉を挟んだ。

「なんでござるか」

神戸城が関家の軍勢に落とされつつある、この現状。

しかし三郎は、なおも元気である。

目を輝かせて、猿姫を見つめ返してくる。

かえって、猿姫は心配だ。

「下総守殿を、むやみに元気づけるのは、控えた方がいいと思う…」

猿姫は下総守に聞こえないように、小声で言った。

「なんと…」

三郎は、猿姫の顔を凝視した。

大きな仕草である。

彼も、状況が状況だけに、興奮状態にあるのだろう。

「そのような後ろ向きなことをおっしゃるとは、猿姫殿らしくもない」

三郎は笑いながら言った。

三郎のこういうところが怖い、と猿姫は思う。

その場の流れに、流されすぎるのだ。

尾張国の人々が噂するほどには、彼はうつけな人物ではないのに…。

時々、流れの空気に乗って、考えなしなことを言う。

「今後どうなるかわからない状況だ。あまり、軽率な発言をしないように」

出すぎたことを、口にしているのかもしれない。

そう自覚しながらも、猿姫は言ってしまった。

「はっ…」

猿姫から咎められて、少し表情を固くしながら、三郎は頭を下げた。

思った以上に、言葉は響いたらしい。

彼の表情を見て、猿姫は胸が痛んだ。

「猿女、早く進め」

殿の阿波守から声が飛ぶ。

思わず、猿姫は彼をにらみ返した。

「うるさいぞ」

先にいた城の者たちは、皆抜け穴の先に進んだらしい。

猿姫は動いた。

四人で、抜け穴に向かって進む。

 

大の大人が屈んでかろうじて通れるほどの、天井の低い通路だった。

真っ暗で、何も見えない。

先頭に立つ猿姫は手探りで通路を進みながら、後ろの者たちに声をかける。

四人で時間をかけて進んだ。

足元に石段が現れ、そこを登り切ると、埃くさい祠の内部に出た。

祠の戸は閉まっている。

隙間から、わずかな月の光が中に差し込んでいる。

猿姫は祠の観音開きの扉に張り付いて、隙間から外をうかがった。

外も、わずかな月明かりばかりが頼りの暗さ。

この祠の周りも、竹薮なのだ。

三の丸の東側である。

祠の外に、人の気配は感じられなかった。

大手門までたどり着けば、外に出られる。

先に抜け穴を抜けた皆は、大手門に向かったのだろう。

「外が安全か確かめる。皆ここで待っているんだ」

猿姫は振り返り、狭い祠の中で息を殺している他の三人にささやいた。

「猿姫殿」

三郎の不安そうな声。

「心配ない」

短く言い残して、猿姫は祠の外に出た。

 

三の丸の東側にも関家の軍勢が及んでいるおそれはある。

できるだけ、敵方の目につきたくないのだ。

猿姫は腰を落とした姿勢で進んだ。

背中に背負っていた棒を外し、両手で抱えて胸の前に引き寄せている。

竹薮の外れに来た。

外に、見覚えのある風景がある。

この城にやってきたとき、大手門から入った直後に通った場所だった

大手門は近い。

一帯に、まだ関兵の姿はない。

静かなものだ。

猿姫はうなずいて、きびすを返す。

再び、竹薮の中へ。

足を踏み出し、祠に戻りかけた。

「待ちなさい」

すぐ後ろから、声がかかった。

猿姫は棒を振り抜きながら、鋭く体を反転させる。

一瞬前に誰もいなかった場所から、突然声をかけられたのだ。

相手は、わかっている。

棒の切っ先が、相手の胸元の一寸先、空を切った。

かわされた。

猿姫が振り抜いた棒はそのまま、近くに生えている竹の腹を打って、止まった。

竹が高い音を立てて、手応えを猿姫の手先に伝える。

「話がしたいだけなのに」

目の前で、竹の隙間から差す月明かりの中に、忍び装束の女の影が留まっている。

「どの面を下げて私の前に現れた」

猿姫は棒を引き戻しながら、相手の顔をにらみつけた。

忍びの女、一子。

本丸御殿で、猿姫に奪われた財布を取り戻すために、刺客をよこしてきた女。

一子が送り込んだ忍びに薬を盛られ、猿姫は不覚を取った。

あやうく、殺されるところだったのだ。

冗談では済まない。

「何かいろいろと誤解があるようだけれど、あえて申し開きはしません」

一子は、落ち着いた声で言う。

彼女は頭巾をかぶっておらず、素顔を晒していた。

「誤解も何も、刺客を送り込んだのは事実だろう」

猿姫の表情が険しくなる。

「申し開きはしません」

猿姫を相手にせず、一子は繰り返した。

棒を握る猿姫の両手に、力が込められた。

「なら、死ぬ前に何でも言いたいことを言え。次に貴様の仲間に会うことがあれば、伝えておいてやる」

内にこもるような低い声で、猿姫は言った。

並の人間が聞けば怖気が立つような響きが、その声にある。

しかし目の前の一子は変わらず、涼しげなたたずまいのままだ。

「あのね、取引しましょう」

猿姫からの殺気を感じてもいないように、気軽に言った。

猿姫は、相手の顔を見据えた。

「財布は返さない」

「そうじゃないの、今は別件で来たの」

一子はそう答えながら、わずかに表情を崩した。

猿姫は猿姫で、相手を殺したい気持ちを身にあふれさせながら、焦りもあった。

三郎たち三人が、祠の中で自分を待っている。

この局面で、一子が何を言いに来たのか。

あまり、考えたくないことだった。

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『手間のかかる長旅(096) 境内で、寂しさの募る二人』

面接を終えた後の、リクルートスーツ姿のまま。

時子(ときこ)とアリスの二人は、その寺の山門の前に立った。

森の中の広い敷地を、土塀が囲んでいる。

その土塀の最中に、古くて大きな山門があった。

年季が入った木造の建築である。

その山門には「如意輪寺」と書かれた表札が掛けられている。

如意輪寺というのが、お寺の名前のようだ。

「ここ、如意輪寺って言うの?」

「そう、にょいりんじ」

言葉のやり取りを交わしながら、二人は山門を抜けて境内へ。

境内は広い。

深い森の広がりを背景にして、いくつもの寺の建物が立っている。

そして今二人がいる山門の正面奥に、どうやら本堂らしい、ひときわ大きな建物があった。

建物から建物の間には、石畳の通路が通じている。

境内のところどころには、各種の植木が囲いに覆われて育っている。

桜に梅、紅葉など、それぞれの盛りの時期ごとに参拝客の目を楽しませるのだろう。

しかし、今は寒い季節である。

どの木も寒々とした空気の中で目に見える果実もなく、かろうじて細々とした枝を伸ばしているばかりだ。

見た目に痛々しい。

夕暮れ時の境内は、見るべきものもなく、物寂しい空気に包まれていた。

アリスと並んで立って、時子は心細くなっている。

お寺の雰囲気自体は、悪くない。

自分たちが生きる日常とは違う、日本の古い時代から続く空気がそこに感じられる。

だが。

どうにも、寂しい。

境内にいる人間は、時子とアリスの二人だけなのだ。

静かである。

近辺の森の中から、複数の鳥が羽ばたくささやかな音すら聞き取れるほどだ。

二人は、黙って立った。

お寺の境内に、立っている。

お寺の周囲を囲む木々の合間をぬって、冷たい風が二人のもとに吹き込んでくる。

時子とアリスは、同時に身をすくめた。

「寒いにゃ」

アリスは、声を震わせた。

外国の、温暖な地域で生まれ育ったアリスだ。

日本の冬の気候は、彼女の身には堪えるはずである。

「お寺の境内に吹く風は寒いにゃ」

「ほんとね」

時子も相槌を打った。

風を遮るもののない境内。

この境内に立っていると、身に染みる寒さに見舞われるのだ。

アリスは手先を伸ばして、時子の手を握った。

時子には、そんなアリスの細長い指先が、やはり冷たく感じられた。

「ね、時子、坊さんに軒先を借りようか」

時子の手を握りながら、妙なアクセントで、アリスは「軒先」を発音する。

「坊さん?」

時子はアリスの顔を見返した。

「うん」

「軒先?」

「うん。坊さんに、お寺の軒先を借りよう?」

雨宿りをするような口ぶりだ。

時子はしばらく考えた。

坊さんに軒先を借りる。

察するに、寒いからお寺の建物の中に入ろう、ぐらいの意味なのかもしれない。

「お寺の中に入れてもらうの?」

「そうそう」

アリスはうなずいた。

「本堂にな、お互いに勝手を知った坊さんがいるんだ」

何気ない口調で、アリスは続けた。

お互いに勝手を知った坊さん。

アリスの口から出た言葉、時子はその意味を、深読みしてしまいそうになる。

「アリス、それ、どういうこと…?」

時子の表情を見て、アリスは首をかしげた。

「どうって、どうということはないよ?お互い腹の内のわかった坊さんが中にいるのよ」

平然と言葉を返してくる。

彼女の言葉通りに受け取っていいものか、時子は迷う。

以前に、話は聞いている。

アリスがテレビ番組の仕事で、この寺でロケを行った経緯は時子も知っていた。

この寺の僧侶から精進料理とたくあん漬けを振舞われことも。

その後に「宗論」を仕掛けたことも。

しかしそれらの話が、アリス言うところの「お互い腹の内がわかった」関係に繋がるとは、時子には予想外だった。

「この寺のお坊さんと、仲いいのね?」

意外に思い、アリスに聞いた。

「仲はそんなによくないけどね、人間性の善悪は知れてるよ」

アリスは答えた。

アリスは要所要所で難しい言い回しを使うので、彼女への対応に時子は時々、戸惑うことがある。

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『手間のかかる長旅(095) 山間の寺に向かう二人』

念のため、工場最寄りのバス停で時刻表を確認したが、帰りのバスは遅くまである。

もう夕暮れ時だが、例の寺に行ってしまおう。

時子(ときこ)とアリスは、そう語り合った。

例の寺。

それは以前、アリスがテレビ番組の仕事でロケをした寺である。

今二人がいるこの工場地帯から、さらに奥まったところにある山間の土地に、その寺はあるらしい。

アリスはその寺で、精進料理を振舞われた。

その後彼女は、寺の僧侶に対して「宗論」を仕掛けるよう、テレビ局側から強いられたのだという。

宗論と言うのは大まかに言えば、異なった宗教もしくは宗派の人間同士がお互いに「お前の信じる宗教は間違っている」として論争を行うことだ。

時子は詳しく確かめたことはないが、アリスは欧米文化圏出身の人なので、彼女の宗教も欧米で主流の一神教のはずである。

一神教は、日本で盛んな神道仏教のあり方とは隔たりがある。

その一神教を奉じるアリスがこの地方都市の寺に来て、僧侶に宗論を仕掛けたのだった。

テレビ局の、ディレクターの指示によるものだったと言う。

仕事として、そのような難題を強いられたアリスの苦しみ。

察するに余りある。

件の寺に向かうバスの車内で、時子は隣に座るアリスの胸中を思っている。

工場での面接が終わった後、消耗した時子のことを気遣っているアリス。

苦しい仕事の現場であった例の寺に向かう彼女の方は、大丈夫なのだろうか。

「アリス、大丈夫?」

時子は、隣に座るアリスに聞いた。

「えっ、何がだ?」

時子を見返して、アリスは首をかしげた。

「お寺、大丈夫?」

「お寺?お寺は、大丈夫だよ」

首をかしげたまま、アリスは応じた。

時子は、もどかしい。

アリスのことを、心配しているのだ。

「アリス、これから行く、そのお寺ね」

「うんうん」

アリスはうなずく。

「あなた、何か、つらいことがあったんじゃないの?」

時子は控えめな口調で言った。

アリスは、また首をかしげた。

「つらいこと…は特にないにゃ」

「本当に?」

「本当に」

アリスは平然とうなずいている。

アリスにそう言われては、時子は返す言葉がない。

 

山間部のバス停で、二人はバスを降りた。

森の中である。

バス停というのも名ばかりのもので、実態は道路沿いにバス停標識が立っているばかりだ。

「山の中だね…」

時子は、思わず頼りない声を出した。

心細いのだ。

食品工場の面接で心身共に消耗した後、日暮れ時の山間部にたたずんでいる。

アリスが一緒にいても、これは不安だった。

「心配しなくていいにゃ」

身を固める時子を抱きかかえるように、アリスは励ました。

「歩いて10分も行けば、そのお寺に着くにゃ」

本当なのかな、と時子は不安な気持ちでアリスの顔を見上げている。

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『サンタ女性との一夜』

私は怒鳴り声をあげている。

「おい、酒だ!酒がないぞ!どうして買っておかねえんだ!」

目を吊り上げて、怒鳴る。

しかしこれで私も、俺はどうしようもないのんだくれおやじだ、と自分でもわかっている。

「おい、聞いてるのかよ。酒だよ!」

返事をしてくれない。

畜生、と思った。

「酒をよこせよ!」

私の怒鳴り声だけがその場に響く。

響いた後には、かえって静けさが際立ってしまう。

なぜって、家にいるのは、私一人なのだ。

酒を買ってきてくれる家人も、買ってきてくれない家人もいない。

私は、ため息をついた。

自分以外に誰もいない部屋で、私はのんだくれおやじの演技をして、怒鳴り声をあげていたのだ。

酒が飲みたいのは、本当の気持ちである。

他に誰もいなかったとしても。

心が追い詰められて、もう、演技でもするより他にどうしようもなかった。

怒鳴っている間は、心が落ち着く。

しかし酒はおろか、相手をしてくれる人もいない。

昔からそうだ。

部屋に一人。

地球上に一人。

私は壁のハンガーにかかった上着を手に取った。

袖に通して上着を羽織り、外に出かけることにする。

 

街はクリスマスを前にして、着飾っている。

この国はもはや、クリスマス趣味の文化圏内にある。

商店がクリスマス調の装飾を店舗に施すのは、序の口である。

一般の住宅でも、クリスマスツリー、電飾ライトからなるイルミネーションを通行人に見せつけている。

そんな家が沿道に多々あるのだ。

またサンタクロースの衣装を模したおそろいの服を着て、睦み合いながら繁華街を歩くカップルも、そこかしこにいる。

彼らは、幸せそうだ。

まだクリスマスイヴまで間があるというのに。

お前たち、クリスマスぶるのはもう少し待てなかったのか、と私は彼らに腹立ちを覚える。

こちらは大好きな酒にもありつけないでいるのに、あいつらは素面でろくでもないことをしている。

酒も飲まずに浮かれていられる体質の人たちが、私は心底うらやましい。

 

街をうろついたところで、一文無しでは当然、酒は一滴も手に入らなかった。

私は全身の血が干上がるような気持ちを抱えながら隣町まで来た。

歩き続けると体の新陳代謝が良くなって、意識は明瞭になるのだ。

健康的である。

それがかえって、辛かった。

意識が明瞭になると、欲しいものも手に入らず、街をさまよう自分のうらぶれた姿ばかりを意識してしまう。

つらい。

自分は、何で生きているのだろう。

自分は何で生まれてきたのだろう。

酒への渇望、お揃いサンタ服の仲睦まじいカップルへの嫉妬。

己の無力に対する絶望。

それらが最高潮に達したときだった。

「受けて!受けて!」

大きな悲鳴。

それは、頭上からだった。

反射的に顔を上げるよりも先に、大きな塊が私の上に落ちてきた。

とっさに抱きとめようとした腕がはじかれた。

私は押し潰されるように地面に倒れる。

横向きに倒れた。

落ちてきた塊の重みが、私の体にくっついて、衝撃を加えてくる。

内臓が圧迫されて、私の喉から酷い声が漏れた。

生きた人間の重み。

「ごめんよ~」

私の体のすぐ上で、声がしている。

呼吸の乱れた息遣い。

ミントの香りのする息が、私の鼻先にかかる。

苦しい中で、私は首を曲げて見上げた。

私の上に、人が乗っている。

こちらに覆いかぶさるように。

赤い、柔らかい生地の服を着て、その姿は大きく膨らんでいた。

「ごめんよ。家の屋根の上を歩いていたら、足を滑らせたんだよ」

人を押し潰したまま、弁解している。

軽やかな、若い女の声だった。

それにしても、重みが苦しい。

「…ひとまず、どいてくれる?」

苦し紛れに私は、下から相手を威圧した。

飛び退く女。

体が、急に軽くなった。

ようやく、楽になれた。

 

立ち上がり、服の乱れを直した後、私は相手の姿を改めて見た。

絶句した。

赤い服。

それは、サンタクロースの衣装だったのだ。

赤白二色の生地からなる、ふわふわの帽子と衣装。

足にはブーツを履いて、肩から背中に大きな白い袋を担いでいる。

しかしその顔には髭などない。

若い女だ。

ぽっちゃりした、丸顔の人。

肌が抜けるように白く、頬は赤く染まっている。

さらにじっと見れば、その瞳の色は薄くて、目鼻立ちは日本人離れしていた。

どうも、外国人のようだ。

最近は、在日外国人もサンタコスプレに励むものらしい。

それにしても、彼女がまとう衣装は妙に厚手で年季も入っており、コスプレという安っぽい感じではない。

見た目にも、長年使い慣れた感がある。

何者だろう?

彼女はクリスマス行事に携わる、教会関係者なのだろうか?

宗派は知らないが、外国から日本に派遣されてくる教会関係者がこの街にも大勢いることを、私は知っていた。

教会関係者は、クリスマス行事に熱心だ。

「急に落ちてきて、ごめんよ」

先ほどの私の威圧が利いたのか、彼女は私が立ち上がるなりすぐに謝った。

その口ぶりからすると、真面目な人柄のようだ。

私は、今さら慌てた。

サンタコスプレの若者ならいざしらず、教会関係者を威圧するのはよくない。

私は態度を取り繕おう、と思った。

「教会の方ですか?」

探りを入れる。

女性は目を丸くして、私を見た。

「教会?」

「いずれかの宗派の、教会の方ですよね?」

彼女は首をかしげている。

「私が、教会の人に見えるのかね」

そう言ってうつむき、自分の胸元、衣装を見ている。

教会の人と言うより、正確にはサンタクロースの衣装だ。

「いや、見た目そのものはサンタクロースの衣装ですね」

「そうだろう?」

私が合いの手を入れると女性は安心したらしく、うなずいて見せた。

私は、わからなくなった。

なんなのだろう。

教会関係者ではなく、やはりただのコスプレ女性だったのだろうか。

屋根の上から足を滑らせて、落ちてきたりして。

雪国ではあるまいし、雪は降っていないのに。

雪かきでもないだろう。

彼女は、なぜコスプレして屋根の上にいたのだろうか。

 

混乱した様子を、私の顔に見て取ったらしい。

女性は、自分が落ちてきた屋根の上を指差した。

「ほらほら、この家。見てごらん。煙突があるだろう?」

そう言われてみると、確かにそうだった。

目の前に立つ、その家。

欧米式のレンガ積み住宅なのだ。

見上げても、高いところにある屋根の上は見えない。

それでも日本では珍しい、大きなレンガづくりの煙突の先端が、ひさしの向こうに見えた。

「立派な煙突がありますね」

「ね。あの煙突を上から見下ろしていたら、どうにも我慢できなくなってね。プレゼントを落とそうと思ったんだよ」

女性は告白した。

プレゼントと言うのは、背中に背負った白い袋の中に入っているようだ。

「上から見る、と言うのは?」

私は女性の言葉を指摘した。

「それはね。私はそのとき、トナカイの引く、そりに乗って空を飛んでいたんだよ」

女性は得意そうに答えた。

「この国には大きな煙突が少ないから、できることもなくて、持て余していたんだ。そうしたら、この家の煙突を見つけてね」

ははあそうですか、とうなずきながら、私は適当に聞き流している。

この人も、酒も飲まずに浮かれていられるクチらしい。

トナカイの引くそり。

空を飛ぶ。

プレゼント。

その浮かれ具合がうらやましいぐらいの、与太話だ。

「まあ、日本には暖炉の文化がないですからねえ。大きな煙突も少ないですよねえ」

無理くり話を合わせながら、私は、次の展開を考えている。

相手は、浮かれたサンタコスプレ姿の外国人女性である。

本来の私なら、そんな相手のことは眉をひそめて遠くから見守る程度で済ませるのだ。

でもこうやって、きっかけはともあれお近づきになれた以上、なんとかして仲良くなりたい。

そう思った。

「ところでお姉さん、喉渇きません?」

相手の顔色を見守りながら、私は注意深く言葉をかけた。

「え、喉かい?」

「うん」

「おお、確かに。お前さん、よくわかったね。確かに、何日も空を飛んでいると、喉は渇くよ?」

「ですよねえ」

と、私は話を合わせる。

「この近くに、私の馴染みの喫茶店があるんです。お茶の時間にしませんか」

馴染みの喫茶店というのは、その場で口から出た、出まかせだ。

界隈にある私の馴染みの店など、ホームセンターぐらいしかない。

そんなところにサンタ女性を連れていくわけにはいかない。

ここは出まかせを言ってでも、彼女をどこかの喫茶店に連れ込むのだ。

「お茶かい…?」

サンタ女性は、首をひねった。

どうも、不満なようだった。

私は、慌てる。

喫茶店では不足だったか。

「もしかしてお姉さん、おなか空いてました?」

相手に尋ねながら、私は漠然と自分の懐具合を思い出している。

悲しいことに、私は一文無しだった。

一滴の酒にも事欠いていたわけなのだ。

だが、思い出した。

財布の中に、普段使っていない預金口座のキャッシュカードが入っている。

あの口座、もしかしたらまだ一晩飲み食いできるぐらいの残高は、かろうじて残っていたかもしれない…。

「いやいやあ」

と、サンタ女性は鷹揚に言った。

「おなかはそうでもないんだがね。お前さん、ビールはどうかね?」

目を輝かせながら、彼女は私の顔色をうかがっている。

ビール。

それは、私の好物のひとつだ。

私も少し浮かれた。

「ビールですか、いいですねえ」

「喉が渇いたときには、ビールが一番だよ」

この人も、酒好きらしい。

これは意外に、話がうまく進むかもしれない。

「じゃあ、ビールの美味しいお店にお連れします」

「そりゃあ頼もしい。次の煙突が見つかるまで、しばらくお前さんと楽しもうかな」

サンタ女性はおおらかに言って腕を伸ばし、私の手に彼女の手を絡めてくる。

手を握り合った。

この流れは、悪くない。

彼女の手の平の温もりを感じながら私は、どのタイミングで貯金を降ろそうか、などと考えている。

その間にサンタ女性は、後ろを振り向いていた。

「お前たち、ついておいで」

小声で呼びかけている。

我々の後ろにある電信柱の陰から、突然。

何匹もの、巨大なトナカイたち。

彼らは、背後に木製のそりを引きながら現れた。

雄々しい角を持った、たくましいトナカイたちの群れである。

こんな連中が、今までおとなしく潜んでいたのだ。

サンタ女性の小声に従い、歩く私たち二人の後をついてくる。

彼らは一様に、それぞれの双眸に反発心を宿しながら私を見据えている。

私は、一瞬たじろいだ。

だが、すぐに彼らをにらみつけた。

お前ら、せいぜいおとなしくしてろ。

お前たちのご主人は、俺のことがお気に入りなんだ。

これから、二人で楽しい飲み会なんだ。

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『真田丸』の史跡を訪ねて。大阪市の旅

先週末、大阪市内を散策してきたのです。

私、大河ドラマの『真田丸』見てましてね。

今週の日曜日、その『真田丸』も最終回を迎えます。

それに先駆けて、『真田丸』と「真田幸村」ゆかりの史跡を見て、真田丸の空気を体感しようと思ったのですね。

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南海電鉄新今宮駅で降りました。

ここから、北に歩いていきます。

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高架下を通って、新世界のジャンジャン横丁を通って行きましょう。

来ていきなりですが、ちょっと小腹が空いていたんですね。

ジャンジャン横丁で、何か手頃なおやつが手に入ればいいのですが…。

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午前中からにぎわっています、ジャンジャン横丁

串カツ店ですとか、立ち飲み居酒屋などが多い商店街です。

大阪観光のテレビ番組でもよく取り上げられて、観光客の方々も着実に増えているようですね。

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小腹の空いた私は、あるたこ焼き店で「たこせん」の名を目ざとく見つけました。

海老せんべいにたこ焼きを一、二個挟んで、天かす、ネギなどの具をまぶしたたこせんです。

子供の頃から食べている、お馴染みの一品であります。

だいたい100円とか200円で買えて、たこ焼きよりも手頃です。

子供のおやつにも、ちょうどいいんですよね。

このたこせんは150円で、たこ焼きの中にはこんにゃくも入ってまして、美味でした。

小腹が満たされて、元気が出ました。

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天王寺動物園、美術館などがある天王寺公園界隈をしばし散策します。

通天閣も眺めに入ります。

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大阪市立美術館、久しぶりに近くまで来ましたが、立派な建物ですね…。

ちなみに、この日は閉まっていました。

私が高校生のとき、美術の授業の宿題で「天王寺で絵画展を見て来なさい」と言われ、夏休みに友人たちと来た記憶があります。

それ以来、中に入ったことはないですねえ…。

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美術館のすぐ近くに、渋い門があります。

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昔ここにあった黒田藩(福岡藩)の蔵屋敷、その長屋門が残っているのですね…。

しばらく前にNHKの「ブラタモリ」という番組で、タレントのタモリさんがこの界隈に来たようです。

できれば、この長屋門へのタモリさんの反応が見たかったですね。

江戸時代、現在の福岡県一帯を治めていた黒田藩。

タモリさんは、その黒田藩に仕えた家柄の出身だと聞いたことがあります。

ドラマの『真田丸』では、俳優の哀川翔さんが演じる武士、後藤基次(ごとうもとつぐ)がもともとは黒田藩の黒田家の家臣でした。

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今日まで、こうして門だけでも残っているというのは嬉しいことです。

 

大阪市立美術館と黒田藩の長屋門の近くに、大阪夏の陣の際に真田幸村が陣を置いた茶臼山があるそうで。

足を向けました。

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池の向こうに緑豊かな古墳の盛り上がりがあって。

いい雰囲気ですな。

私もこの界隈には昔からよく来ていたのですけれど、不思議と茶臼山には来たことがなかったのです。

今回が初めてです。

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美術館側から茶臼山側まで、河底池(かわぞこいけ)の上をまたいで掛かる、和気橋。

和気橋の名は、奈良時代の偉人、和気清麻呂(わけのきよまろ)が近辺の開発を行ったことにちなんでつけられたそうです。

この界隈、歴史の古い土地なんですね。

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河底池の水面に写る、通天閣であります。

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茶臼山に渡って来ました。

古墳であり、かつて大阪夏の陣の際に真田幸村(信繁)の陣が置かれた高台であります。

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このように、大河ドラマを記念しての幟が関連史跡の周囲に立っています。

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茶臼山の頂から、かつての徳川家康本陣跡を望もうと思いましたが…。

木々が生い茂って、方角がわかりません。

うっそうとした雰囲気です。

 

そう言えば、大阪夏の陣から、時代はかなり遡りますが。

かつて周防国(現在の山口県の東部)に本拠を置いた戦国大名、その名を大内氏という武家がありました。

この大内氏は自らの祖先を琳聖太子(りんしょうたいし)という、百済王族の末裔だとしています。

この琳聖太子という人物、朝鮮半島から日本に渡って来た後に摂津国の荒陵(あらはか)の地で、聖徳太子と謁見したのだそうです。

その際に、彼は聖徳太子から周防国を賜ったのだと。

そういう伝承があるのですね。

その伝承に言う荒陵の地というのが、今ちょうど私がいる茶臼山の辺りを指すのだそうですよ。

この辺りで琳聖太子聖徳太子とが出会ったんですね。 

 

琳聖太子も、また聖徳太子に至っても、半ば伝説上の人物で、彼らの事跡も史実かどうかは定かではありませんが…。

ひとつの土地を取り上げても、そこに重層的に各時代の歴史が積み重なっているのは面白いことだと思います。

私がここを訪れたこと自体も、大きく言ってしまえば茶臼山の歴史の一幕ではあるのですね。

まあ琳聖太子真田幸村と私のようないち観光客が肩を並べるのは、少し無理がありますか。

 

大内氏聖徳太子真田幸村に思いを馳せながら、歩いて参ります。

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真田幸村ゆかりの地としてこちらも有名であります、安居神社

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境内に、幸村の立派な坐像があります。

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素敵です。

花の赤備え。

「赤備え」と言うのはもともと甲斐国(現在の山梨県)の武田家の家臣、飯富(おぶ)氏が着用した、真っ赤な甲冑のことなんですね。

幸村も武田家に仕えた経緯から赤備えを採用して、真っ赤な部隊を率いました。

徳川家の重臣、井伊直政(いいなおまさ)も配下に武田家の元家臣が多かったので、この赤備えを採用していたそうですよ。

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安居神社の裏手に降りると、そこは「天王寺七坂」のひとつ、天神坂。

今回は他に上りたい坂がありますので、この坂を上らず通り過ぎてしまいます。

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こちらに来ました。

清水坂です。

春にも来たんですが、この上に清水寺ってお寺があって、そこからの眺めがいいんですね。

その眺め、また見たかったんです。

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清水の舞台からの眺め。

いいですなあ。

私の地元がもう少しひなびたところなので、こういう風景を見ると「都会だなあ」と思ってしまいます。

 

清水寺の境内で修験道の聖地である玉出の滝を拝んだ後、谷町筋に沿って北に歩きます。

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都会ですが、その最中にお寺も多い谷町筋

この筋沿いに、赤穂浪士を祀った吉祥寺なんてお寺もあります。

吉祥寺は、赤穂藩主である浅野主匠頭(あさのたくみのかみ)の浅野家の、菩提寺だったんですね。

赤穂浪士討ち入りの日も近づいている中、今回は寄りませんでした。

この記事を書いている今日がちょうどその討ち入りの日でした。

 

お昼時をまわったので、そろそろご飯にしたいと思います。

場所は上本町にさしかかりました。

いいラーメン店があればいいのですがねえ。

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ラーメン店、ありました。

谷町筋の東にある、上町筋沿いです。

「とんとん拍子」というお店です。

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四段階から辛さが選べる味噌ラーメンがあったので、そちらを…。

750円でした。

一番辛いものをお願いしました。

名づけて「地獄辛」。

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赤いですねえ。

「普段から激辛韓国即席麺食べてるから、平気だろ」などと思ってましたが…。

予想した以上の辛さでした。

ただ具材のチャーシューと白菜が美味しく、味噌のコクもあって。

辛うまです。

からいからい、スコットーきた。

から うま。

うまかっ です。

元ネタ知らない方、すみません…。

ともかく私には辛すぎる辛さでした。

週末でしたが、ランチタイムにはおにぎりとお漬物がついてくるサービスがあって、嬉しかったです。

しかし食後から、長らく五臓六腑に辛さダメージが響きました。

辛い料理を食べなれない皆様は、「地獄辛」ではなく「ピリ辛」ぐらいに留めるのがよろしいかと思います。

このとんとん拍子のお店の近くに、天理ラーメンの元祖、彩華ラーメンの支店もあって。

近くに来たときはどちらに行くか、迷うところです。

 

とんとん拍子の辛さにヤラれながら、それでも真田丸関連の史跡を巡り終えるまでは、私はまだ倒れません。

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真田丸のあった場所とされる大阪明星学園のグラウンド前に来ました。

真田丸』人気もあってか、さすがの人だかりでした。

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真田丸跡地から真田山陸軍墓地の前を通り抜けて、三光神社へ。

ここにも、真田幸村がらみの史跡があります。

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「真田の抜け穴」だそうですよ。

真偽は不明ですが、ここから大阪城の敷地内まで横穴が通じていたのだとか…。

今は穴が途中で崩れてしまって、中を通っても大阪城までは行けません。

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実際は、ここに抜け穴ができた経緯は不明のようですね。

経緯はともあれ、謎の横穴の存在に興奮します。

 

三光神社を出た後、大阪城まで足を伸ばします。

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細川忠興(ほそかわただおき)と、ガラシャこと玉夫人が暮らしていた屋敷の跡、越中公園。

この公園の隣には、今も「大阪カテドラル聖マリア大聖堂」の大きな建物が立っています。

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公園から車道を挟んだ向かいに、「越中井」なる場所があります。

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関ヶ原の合戦の際に細川ガラシャ越中屋敷で自害、その後屋敷は焼け落ちました。

その敷地内にあった井戸だけが、残ったのですね。

ガラシャの信仰を受け継ぐ大聖堂と合わせて、この井戸もガラシャが当地にいた痕跡を感じさせる史跡であります。

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越中井まで来れば、大阪城まではすぐです。

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とは言え、天守閣にたどり着くまでが大変なのですが。

お城が攻めにくい構造になっているのを実感します。

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天王寺の、黒田藩の長屋門と比べるとかなりゴツイ、多聞櫓です。

威圧感が凄い。

ここを攻めろと言われたら、躊躇します。

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天守閣前は、今日も多国籍な観光客でいっぱいでした。

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