『手間のかかる長旅(100) 次のお参りを考える』

時子(ときこ)はアリスと二人、如意輪寺の本堂を後にした。

帰る時間だ。

冷たい風の吹いている、境内に出る。

時子は、身じろぎした。

山門の方に向かう。

「お坊さん、会えなかったね」

時子はアリスの方を振り返った。

当寺にはアリスの知り合いの僧侶がいるのだが、とうとう会えなかったのだ。

「寺務所にいたのかな」

アリスも首をかしげる

「この時間までに本堂のおつとめは済ましていたのかもしれんにゃ」

不確かな声でそう言った。

本堂の本尊の前で、お経を唱えるのは僧侶の日課のはずである。

時間が早ければ、時子とアリスは本堂で件の僧侶に会えたのかもしれない。

帰り際になっても、アリスはまだ心残りのある顔をしている。

時子はそろそろ帰りたいのだが、このままアリスを無理に連れ帰るのも気の毒なような気がした。

「アリス、そのお坊さんに挨拶だけして帰る?」

立ち止まり、アリスの顔を見た。

アリスも立ち止まった。

「うむ」

とアリス。

「そうしたかったけど、わざわざ挨拶しに行く口実がないにゃ」

そう、遠慮がちに続けた。

「どうして?面接の帰りに寄った、とでも言えば」

「今日はいいや、また今度遊びに来よう」

時子を急かして、再び歩き出すアリスである。

仕方なく、時子も彼女について歩いた。

僧侶に会うことなく、二人は寺から最寄りのバス停へ。

 

バスの車内で並んで座席に腰掛け、二人は家路についている。

面接を終えた後に如意輪寺に寄って、少々疲れていた。

時子は眠い顔をしている。

彼女の隣、窓際に座るアリスは車窓を眺めていた。

時子はぼんやりと、来週の頭から始まる仕事のことを考えている。

工場で働くのは初めてなので、緊張と期待が入り混じっている。

隣のアリスも同じ仕事のことを考えているのかどうか。

気になった。

もっともアリスは自分などとは違って様々な苦労をくぐり抜けてきた女性だから。

新しい仕事にも、淡々と向かっていくのかもしれない。

そんな風に時子は想像した。

「時子」

アリスが時子の方を振り返った。

「何?」

何気なく応じた。

「如意輪寺、また行こうか」

自然に提案してくる。

彼女は、まだお寺に心を残していたようだ。

「そうね、行きたいね」

時子も答える。

これから通勤する工場から近い、如意輪寺である。

仕事帰りにでも、またお参りできる機会はあるはずだ。

「あさってぐらい、どうか」

アリスは間髪入れずに提案した。

「え、あさって…」

しかし今お参りしてきたばかりなのだ。

「朝からお参りするの。で、お昼に精進料理をいただいて帰るの」

そう言われてみると、あさってまた行くのも悪くない気がする。

お泊りまでするのは躊躇しても、お昼に精進料理をいただくぐらいは許されるのではないか。

「私、他の連中も誘ってみるにゃ」

時子の表情のわずかな変化を見て取り、アリスは勢いづいた声をあげた。

「皆で行くの?」

「うん。町子たちにもあの寺を紹介してやるにゃ」

時子はうなずいた。

そうだ。

仕事が始まるまでに残されたわずかな日々。

有意義に使いたい、と時子も思った。

町子(まちこ)や美々子(みみこ)、ヨンミたちと一緒にお昼が食べたい。

先日は例の喫茶店に全員揃っての会食をし損ねたのだ。

代わりにお寺で食事するのも、いいかもしれない。

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今日の即席麺この一杯。스낵면(スネクミョン、スナック麺)

韓国即席麺、今年の一杯目です。

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오뚜기(オットギ)の製品、스낵면(スネクミョン、スナック麺)であります。

スナック麺…何ともいさぎよい製品名ですね。

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パッケージ裏はこんな感じでした。

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熱量475キロカロリー、たんぱく質は10グラム。

そこそこですな。

 

さて、作り方を見てみましょう。

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まず、鍋にお湯を500ミリリットル分、沸かしましょう。

そこに麺と분말스프(プンマルスプ、粉末スープ)を投入します。

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麺は極細の、ちぢれ麺です。

太めのものが多い韓国即席麺では、珍しいですね。

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別添えの小袋はこの분말스프(プンマルスプ、粉末スープ)のみ…。

そう思いきや、袋をよく見ると、「건더기스프(コンドギスープ、具スープ)+분말스프」って書いてあるんですね。

건더기스프って、言ってしまえばかやくのことなので。

この小袋ひとつにかやくとスープが全部入っているってことなのですね。

お手軽です。

麺とこの분말스프小袋の中身を鍋に入れましょう。

2分間煮込んで、出来上がりであります。

3分から4分間煮込むものが多い韓国即席麺にあって、2分間というのは異例です。

やはり独特の極細麺、短い煮込み時間でいいのでしょうね。

 

2分間煮込んで、器に移しましたよ。

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美味しそうな香りです。

辛さ控えめのあっさりスープ。

極細のちぢれ麺は、歯ごたえモチモチ。

かやくはワカメ、あとニンジンが少しだけ入っています。

シンプルな一品なのですけれど、麺に個性があるので、気が抜けません。

お手軽、かつ奥深い味わいです。

スナック麺とは名乗りながら、しっかり美味しい一品でした。

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『自己発見講座』

心理学の知見に基づく「自己発見講座」を受講することにした。

私は、自分のことが時々わからなくなってしまう。

そんな折だった。

件の講座が開かれることを知ったのだ。

地元に基盤を置くNPO団体の主催によるものだという。

私はその団体に電話をかけて、受講の予約をした。

やはり私も、自分がどういう人間なのか、肝心なところはいつも心得ておきたい。

そういう、前向きな気持ちで決心したのだ。

 

駅ビルの三階にある貸し会議室を借りて、自己発見講座は開かれるようだ。

会場についた。

部屋の外に、受付などは設けられていない。

出入り口脇の壁に「自己発見講座」と書かれた紙が張られているだけだ。

私は扉を開けて、部屋の中に入った。

各種の講座、講演等の用途に使われる部屋なのだ

壁際には使われていない机、椅子などが小さくたたんでまとめられていた。

つるつるした合成樹脂の床が広くその姿をさらしている。

部屋の奥に、大きめのテーブルがひとつだけ。

そしてその周辺に椅子がいくつか準備されていた。

男性が一人、そこに座っている。

私はテーブルに近づいた。

「ここ、心理学の講座の部屋ですよね?」

声をかけた。

私服姿の、壮年の男性。

細長い顔と細長い体格で、猫背気味に座っている。

彼は、私の方には関心を向けない。

顔を上げて、テーブル越しに窓の外を見ていた。

「あの」

もう一度声をかけた。

彼は前を向いたまま、こちらを相手にしない。

なんだこの人は、と私は思った。

彼も講座の参加者のようなのだが、反応がない。

人形のように動かず、窓の外を見たままだ。

人形なのではないかと疑ったが、見ていると時々口から呼吸音をさせる。

人形ではなかった。

人形のような態度の、生きた男性だ。

返答を待つのは無駄とわかり、私は男性から少し離れたところの椅子を引いて座った。

 

開始予定時刻を10分程過ぎたところで、部屋の扉が開いた。

「お待たせ」

短くそう言うなり、騒々しい靴音をさせながらテーブルまでずかずかと、歩いてくる。

スーツ姿の、中年の女性だった。

片手に紙袋、片手にコーヒー店からテイクアウトしてきたらしいカップを持っている。

コーヒーの香りがした。

彼女はテーブルの上に紙袋とコーヒーカップを置き、自分も椅子に腰掛けた。

件の男性の向かいの位置である。

私から見て左手に男性、右手に女性が見える形になった。

テーブルの三方に私たちがそれぞれ腰掛けている。

「自己発見講座ねえ、参加人数少ないんなら中止にしてもらってもよかったんだけどね」

女性は誰にともなくそう言い、コーヒーをひと口すすった。

それから紙袋の中に手を入れて、ごそごそと探る。

中から、プリントの束を取り出した。

その束から数枚を手にする。

それらを目の前の男性のすぐ前に置いた。

そのまま残りを、紙袋の中に戻した。

「さっさと終わらせてお開きにしようか、こんなの時間かけても仕方ないから」

また誰にともなくそう言い、コーヒーを飲む。

何をさっさと終わらせるのだろう、と私は思った。

名乗りもしないこの女性は、何者なのだろう。

私は自己発見講座を受けに来たので、おそらくは講師だと思うのだが。

心理学の知見にもとづく講座、と事前に説明を受けている。

心理学の専門家か、もしくはカウンセラーの講師が来ることを期待して私はここに来た。

この女性が、そうなのだろうか。

「あんた何やってんの」

女性が私の顔を見ながら、顔をしかめている。

私は我に返った。

「はっ?」

「何で言われたことをさっさとやらないのよ。何様なの?」

威圧的な声だった。

「えっ…」

私は、身を固める。

何を言われているのか、わからない。

「何のことですか?」

私は恐る恐る尋ね返した。

女性のしかめ面に皺が入り、さらに歪んだ。

「何のこと、じゃないよ。馬鹿にしてんのか。プリントは配ってあるだろうが」

それはもう罵声と言っていい勢いである。

見ると私の左手にいる男性は、いつの間にかペンを取り出して、配られたプリントの一枚に何か書き込んでいる。

さっさとやる、というのはあれのことだろうか?

だが、私の前にはそのプリントは配られていない。

「いや、プリント、ないんですけど…」

恐る恐る口にした。

「子供じゃないんだから自分で取れよ」

女性から再び罵声を浴びる。

私はその勢いに怯えて身をすくめながら、何のことだ、と慌てて考えた。

もしかしたら。

男性の目の前には、彼が書き込んでいるものとは別にまだプリントが何枚か残っている。

あのプリントから一枚自分で取れ、ということなのだろうか。

私の位置からは、手を伸ばしても取れない距離なのだが。

女性の顔に目を向けた。

怒鳴るだけ怒鳴って、彼女はそっぽを向いてコーヒーを飲んでいる。

本当に誰なのだろう、この女性は。

心理学の専門家かカウンセラーというのは、もう少し他人に丁寧に接するものだと思っていたのに。

私の勘違いだったのだろうか。

困惑しながら、私は男性の方に視線を移した。

プリントまで、こちらの手が届かない。

私の分のプリントを、男性が気を利かしてこちらの方に近づけてくれないだろうか。

そういう期待を込めて彼の方を見た。

男性は、一生懸命プリントに書き込んでいる。

私の視線には気付きもしない。

よく考えれば、最初に来たときに話しかけても反応のなかった彼だ。

何かを期待するのが間違っているのかもしれない。

仕方なく、私は立ち上がった。

テーブルの周囲を回り、男性の傍らに来た。

横から手を伸ばして、プリントを一枚取ろうとする。

テーブルの上に、私の影が差した。

予想しないことが起こった。

男性が、物凄い素早さでこちらを振り返ったのだ。

我々の目が合った。

彼は目を見開いた、形相をこちらに向けている。

カンニングをするな!」

唾液を飛ばしながら、罵声を浴びせてきた。

「はっ?」

心外な言葉だった。

私は見ていない。

男性がプリントに何を書き込んでいるのか、そんなものに興味はない。

私は自分のプリントを取りに来ただけだ。

カンニングをするな!」

全く同じ調子の罵声を再び発する男性。

カンニングなんてしてませんよ」

カンニングをするな!」

たまらない。

男性の罵声を無視して、私はテーブルの上に身を伸ばし、プリントを手にした。

元の席に戻る。

座った私を、男性がまだにらんでいる。

最初に話しかけたときは全く反応すらしなかったくせに、と私も腹を立てる。

カンニングをするな!」

男性はまだ叫んでいる。

私はうんざりした。

カンニングしてごめんなさい、ぐらいのことは言ったらどうだ」

思わぬことに、右側の女性からもそんな言葉が私にぶつけられた。

私は顔を上げて女性を見た。

彼女は、仏頂面で私を見返している。

「だから、カンニングなんてしてませんて」

私は女性に言い返した。

女性も男性も、私をにらみ続けている。

何なんだこの連中は、と私は呆れた。

馬鹿馬鹿しい。

「あなたがプリントを自分で取れって言うから取りに行ったんでしょ、私は」

いい加減にうんざりしてきた私は、女性を相手に声を高める。

「言い訳すんなよ」

怒鳴り返してくる女性。

カンニングをするな!」

合わせて怒鳴る男性。

私は、拳を握った。

この連中に、いつまでも付き合っていられない。

罵声は無視して、自分の義務をまっとうしてしまおう。

私はプリントに向かった。

そこに書かれている文面に目を通した。

わかりにくいが、どうも心理テストのようだ。

設問がいくつかあって、それらに対して用意された選択肢の中から適切なものを選んでいくのだ。

おそらく私の右手にいる女性が作成したのだろう。

各設問の文面は、とてもわかりにくかった。

一例が、「今の自分のことを無視して、自分が市場にいたら、その市場は海に面しているか、山に面しているか」。

この設問への解答として選択肢は「片栗粉、クラゲ、山芋」の三つがある。

設問と選択肢の内容がうまく噛み合っていない。

どの設問もこんな具合なのだ。

しかしこういうのが、心理テストというものなのだろうか。

私は自分のバッグからペンを取り出した。

その心理テストの内容に混乱し、同時に左右からの罵声を浴びながら、私はプリントへの記入を進めていった。

 

解答を済ませるなり私はプリントをテーブルの上に残して立ち上がった。

「それじゃ帰らせてもらいます」

二人に背を向けて、出入り口の方へ。

「誰が帰っていいと言った、自己発見する気はないのか」

女性の罵声。

カンニングをするな!」

男性の罵声。

私は無視して歩いた。

私の背中に、後ろから何かぶつけられた。

それが床に落ちた音から、空になったコーヒーのカップだとわかった。

私は振り返らず、部屋を出た。

 

罵声を受けに行った自己発見講座から、一ヶ月が経った。

自宅に、郵便が来ている。

差出人は、件の講座を主催したNPO団体になっている。

封書で、中に見覚えのある、心理テストのプリントが入っていた。

私が解答を記入したものだ。

その文面の末尾には、私の記入時にはなかった、赤ペンでのコメントが書かれている。

「心理テストの結果を見るまでもなく、あなたは自分勝手な人間だということがわかりました」。

乱れた筆跡だ。

あの例の女性の手によるものだろう。

私はプリントを両手で丸めて、くずかごに投げ入れた。

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『定期的なすき焼きの気分』 

不思議と、定期的に「すき焼き」が食べたくなる。

すき焼き。

美味しい牛肉を、豆腐、白菜、シイタケ、白ネギ等の具材と共に醤油、みりん、砂糖から成る割り下で味付けしながら。

鍋の上で煮たり焼いたりして食べる日本料理である。

その過程でかかるガス代等諸々の料金と、まず何より美味しいお肉の代金とを考えると、結構な高級料理である。

お金がかかる。

そんなわけで、たとえ定期的にすき焼きが食べたくなっても、定期的に食べるわけにはいかないのだ。

 

私は、孤独に街中を歩いている。

すき焼きが食べたいという、定期的な腹具合に私はさしかかっていた。

しかし、財布の中身はすき焼きの準備をするには心もとない状況だ。

まず、美味しい牛肉が買えない。

それどころか、昨今は付け合せの野菜類の価格も高騰している。

お肉も野菜も、とても私の手の届くものではなかった。

なんですき焼きにはあんなに金がかかるのだ、と私は腹さえ立ってきた。

 

きゃーっ、という悲鳴とも歓声ともつかぬ声が聞こえてくる。

私はすき焼き食べたさに意識朦朧としたまま、その不思議な声に釣られるように歩いた。

歓声は、目の前にある神社の中から聞こえてくる。

「きゃーっ」

まただ。

複数の、悲鳴とも歓声ともつかぬ声。

いったい、神社の境内で何が行われているのだろう。

私はふらふらと神社の鳥居から中に誘い込まれた。

「いてて…」

ばらばらと細かな、それでいて堅い物体が複数飛んでくる。

「きゃーっ」

依然として、悲鳴とも歓声ともつかぬ声。

それらは、境内に集まった参拝客があげているのだ。

高い場所にある神社の本殿の上から境内にいる参拝客に向けて、神社の職員たちが餅を投げている。

餅なのだ。

「いてて…」

ぼんやりと突っ立っている私の顔にも餅が投げられて、私の顔にぶち当たるのだ。

餅は固くて、当たると痛い。

私の顔に当たった餅は、そのまま地面に落ちていこうとする。

しかし落ちさせはせず、私の近くに立っている他の参拝客たちが、手を伸ばして餅を横からかすめ取っていくのだ。

目にも留まらぬ速さ。

「だって、あんたがぼやぼやしてるから」

餅を横から取っていく人、隣に立つ主婦らしい女性の顔を思わず見たら、彼女は言い訳がましく言った。

私は餅が欲しいわけではなくて、ただ餅を横から取っていく手際の良さに感心しただけなのだが。

「帽子とかスーパーの袋とか、そういうものを広げなさいよ」

うしろめたかったのか、彼女は私にそういう助言をする。

別に餅はいらないしなあ…と思いながらも、助言をもらった以上はそれをむげにするのも気が引ける。

私は上着のポケット内に突っ込んでいたスーパーの袋を取り出して、広げた。

神社の本殿から、職員が複数の餅を放った。

「きゃーっ」

歓声が上がる。

私は義務感で、スーパーの袋で飛んできた餅を受ける。

ひとつ、ふたつ。

私の手元に、餅が残った。

 

すき焼きが食べたいんだがな、と思いながら私は餅を持ち帰った。

仕方ない。

この餅をお肉に見立ててすき焼きにしよう。

私は、鍋を火にかける。

豆腐、モヤシ、細ネギなどのお手頃な具材を投入した。

さらに、今手に入れたばかりの餅も入れる。

餅のすき焼きだ。

割り下を鍋の中に振り入れると、素敵な香りが立ち上った。

甘くて香ばしい味わいが期待できそうだ。

取り皿に、私は生卵を割り入れる。

すき焼きには生卵がつきものである。

溶いた生卵の中に、適度に煮えたお餅と野菜類とを入れて、いただきます。

口の中で、熱く煮えた具材を転がした。

砂糖と醤油の味付けは、最高だ。

生卵のまろやかさもいい。

ただ餅はやっぱり、お肉の代わりにはならない。

神社でもらった餅を辛抱強く噛みながら、私は実感した。

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年末年始の風物詩。『Mr.Bean』の動画がYouTubeで見られます

年末年始ですね。

皆様、いかがお過ごしですか。

年末年始と言えば、私が中学生ぐらいの頃は、NHKの放送で『Mr.Bean』の番組を見るのが楽しみだったんですよね。

イギリスの公共放送局であるBBC製作のコメディ番組、Mr.Beanです。

映画化もされましたし、ご存知の方も多いですよね。

コメディアンのRowan Atkinsonが演じる不思議なキャラクタ、Mr.Bean

彼がいろいろな無茶をする各短編の作品内に笑わせるポイントが多くて、見てて面白かったですね。

実はこのMr.Beanの番組、YouTubeに公式チャンネルがありまして。

ちょくちょく動画が配信されてるんですよね。

 

www.youtube.com

 

今までの習慣で私、年末年始には、何となく見たくなるんですよね。

久しぶりに動画を見に行ってみたら、季節柄を意識した過去の作品がアップされてました。 

クリスマスで盛り上がるMr.Bean

やって来る彼女をもてなすための準備をしたり、プレゼントを仕込んだりの彼ですが、果たして…。

「他人の気持ちになって考える」というのは、人の世を生きるうえで大事なことです。

でもMr.Beanほど他人の気持ちを省みない生き方というのも、かえっていさぎよく思えてきます。

こういう人がいてもいい!

ただやっぱり、私たちは彼の真似はしないで反面教師にするぐらいが無難なのでしょうね…。

 

続けてこちらも。

自室で、新年のパーティを主催するMr.Beanです。

仕事上の関係者か、はたまた友人なのか、彼のような変人にも訪ねてきてくれる奇特な人たちがいるのですね。

さて、Mr.Beanのおもてなしぶりは喜んでもらえるのでしょうか…。

訪ねてきたお客さんたちがMr.Beanとどういう関係なのか、私は本当に気になります。

 

さらに、続きます。

お正月の恒例、デパートでのバーゲンセールにやってきたMr.Bean

順番待ちの場所取りからお買い物の後の荷物の扱いまで、ずる賢いのだか間が抜けてるのだか。

本当にとらえどころがないですね、この人は。

 

Mr.Beanはあまり言葉を話さないので、彼の動画を見ても「英会話のリスニング」にはあまりならないのですけれど。

かえって英語がわからなくても楽しめるのは、いいですね。

娯楽として申し分ないですし、また、Mr.Beanの活躍(?)を通して、何となくイギリスという国の日常も垣間見えるのです。

年末年始は彼の動画を見てまったりしたいですし、年末年始が過ぎても時々見たいぐらいの、不思議な魅力がありますよね

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『カタコンベ、二人の法事』

茂吉(もきち)は、右手に燭台を掲げて目の前を照らしながら。

暗い地下通路の中を歩いている。

そこには、ひんやりと冷たい空気が充満している。

彼の背中に寄り添うようについて歩く、フェデリカ。

両手を組んで体の前に垂らしているフェデリカ、その手の先には四角いカゴを提げている。

カタコンベでしばらく過ごすために必要なものを、そのカゴに入れてあるのだ。

 

石灰質の洞窟を昔の人たちが手作業で掘ってつくりあげた地下墓地、カタコンベ

その地下通路は細かく枝分かれしながら、どこまでも続いている。

改まったスーツ姿のまま、頭にヘルメットをかぶった茂吉。

彼の背後につくフェデリカも、フォーマルな服装で頭には同じくヘルメットをかぶっている。

地下通路の天井は時折低くなって、大の大人ならば屈まないと通れない箇所もある。

ぶつけて頭を怪我しないように、ヘルメットが必要なのだ。

二人が進む通路の側面には、ところどころに空洞が空いている。

人がかろうじて横たわれるぐらいの、横幅と奥行きを持った空洞である。

それらの空洞の中に、人の遺体が横たわっている。

と言っても、いずれの遺体もすでに白骨化した、ごく古いものばかりだ。

これらが全て、墓だった。

多くは近世から中世にかけてのもの、いくつかはさらに時代を遡る墓である。

カタコンベの通路の壁面を掘って、墓がつくられている。

奥の墓に行くほど古い時代の死者が葬られて、眠っているのだ。

茂吉とフェデリカは、それらの露出した墓に眠る遺体に怯えることなく、さらに通路を進む。

 

しばらく進んだところで背後のフェデリカが、あ、とわずかな声をあげた。

目の前を燭台で照らしたまま、振り返る茂吉。

後ろでフェデリカが、彼らの脇にある墓を指差している。

「ここ。これが、ひいひいおじいさんだよ」

墓の中に横たわる遺体の顔を見つめながら、彼女は言った。

茂吉はうなずいて、そちらに向き直る。

他の墓と同じく、通路脇に掘られた空洞である。

そこに、ひいひいおじいさんは横たわっていた。

白骨化した遺体は、乾燥して朽ちた着物の断片を体に貼り付けている。

その体の脇には、鞘に収まった大小二本の刀が横たえてある。

おお、と茂吉は声をあげた。

こうして他の遺体とは全く異なる装いなのに、自分としたことが、気付かず通り過ぎるところだった。

ひいひいおじいさんは、侍のはしくれだったのだ。

侍は、死んでも刀を放さない。

そんなかつての侍の姿をひいひいおじいさんの遺体に見て、茂吉は感心したのだった。

異国で亡くなった、日本の侍。

茂吉とフェデリカは、改めてご先祖を前にして拝んだ。

遺体の前に古い燭台が備え付けてある。

その燭台の上に新しいロウソクを立てて、茂吉の燭台から火を移した。

墓の中のひいひいおじいさんの姿が照らし出された。

 

近くに、二人が腰掛けるのにちょうどいい大きさの、岩の盛り上がりがある。

茂吉とフェデリカは、そこに二人並んで腰を下ろし、お斎をとることにした。

茂吉は燭台を通路の上に置いた。

二人して、頭にかぶっていたヘルメットも脱いだ。

フェデリカが手にしていたカゴの中に、お弁当が入っている。

フェデリカは二人の間の岩の上にワイングラスを二つ置き、ボトルからワインを注ぐ。

ロウソク明かりに照らされて、グラスに注がれたワインは赤々としている。

そのワイングラスを手にした茂吉に、フェデリカはサンドイッチを手渡した。

パンの間には生ハムとモツァレラチーズ、レタスが挟まっている。

フェデリカが、わざわざ自分でつくってきてくれたらしい。

ワインで喉を潤しつつ、二人でサンドイッチを黙々と食べた。

その間にも、石灰質の空洞に横たわる、ひいひいおじいさんの方を二人は見ている。

「なんだか、俺に似ているよな」

ひいひいおじいさんに目を向けながら、茂吉はぼんやりと口にする。

「私が?」

と、フェデリカは受けた。

茂吉は横にいる彼女の顔を見る。

彼女の顔は、この国の女性らしい顔立ちだ。

瞳の青い大きな目、細い鼻筋、小さな口。

茂吉とは似ても似つかない。

「いや、ひいひいおじいさんのことだよ」

「ああそうか」

フェデリカは小さく笑ってうなずいた。

ひいひいおじいさん。

小柄で頭蓋骨の小さなところが、茂吉の体格に似ている。

「ひいひいおじいさんとなら、私も似ているよね」

フェデリカは言葉を添えた。

「そうかな」

「似ているよ」

ワイングラスを口に運びながら、彼女は主張する。

茂吉は曖昧にうなずいた。

隣のフェデリカとは知り合って間もないが、彼女はおっとりしている割にどこか頑固なところがある。

そのあたり、自分に性格が似ているかもしれない。

そう思うのだ。

もしかしたら、ひいひいおじいさんがそういう性格だったのかもしれない。

自分たちは目の前で眠っている、ひいひいおじいさんの末裔ということで、共通しているから。

血を分けていれば、性格も似る。

ひいひいおじいさん。

侍の時代の人である。

彼は家族を日本に残したまま海を渡りこの地に来て、こちらでも新しい家族をつくった。

当地で生涯を終えた後、カタコンベに葬られたのである。

そして、今日。

その彼の二つの国に枝分かれした子孫である茂吉とフェデリカとが、二人仲良く墓参りに来ているのだ。

ひいひいおじいさんも喜ぶだろう、と茂吉は思った。

「ひいひいおじいさんは小顔でしょう。私も小顔で似ている」

茂吉の感慨に気付かない様子で、フェデリカは続けた。

そう言われてみれば、彼女も小顔だ。

茂吉と彼女とを並べて見比べても、それほど似てはいないだろう。

だがひいひいおじいさんを挟むと、三人共が同じたたずまいに見えなくもないのだ。

 

ひいひいおじいさんを見ながらサンドイッチを頬張っている、そんなフェデリカの横顔を見ながら、茂吉は彼女に親しみを覚えた。

これからも年に一度くらいは、この異国の妹のような娘に会うためだけに。

この国まで法事に来たいな、と茂吉は思うのだった。

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出雲大社、行基の土塔、台湾料理。大阪府堺市の旅

皆様、新年あけましておめでとうございます。

異次元の旅人、金比羅系でございます。

どうぞ今年も、よろしくお願いいたします。

 

さて、この元日。

初詣もかねて、私は大阪府堺市内を観光してきたのですよ。

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南海電鉄の南海高野線初芝駅にやって参りましたよ。

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この初芝駅がこれから向かう、「出雲大社大阪分祠」の最寄り駅なのです。

出雲大社大阪分祀

島根県出雲市にある出雲大社の分祠にあたる神社が、ここ大阪にもあるのです。

私、今までこの大阪分祠にお参りしたことがなくて。

ずっと気になっていたわけなんです。

今年の初詣先として、この機会にお参りしてしまおう!ということになりました。

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初芝駅から出雲大社までの道のりは、初詣の参拝客の方々であふれていました。

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文具販売の大手企業、ナカバヤシの本社工場が沿道にありましたよ。

所在地、出雲大社の近くだったんですね。

ちなみにこのナカバヤシ島根県内にも出雲市を始めとして多くの工場を持っているそうです。

これも出雲大社が取り持つ縁でしょうか…?

 

しばらく歩いて、出雲大社大阪分祠にたどり着きました。

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住宅地内に、突然現れる広い敷地。

出雲大社大阪分祠。

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にぎわっています。

島根の出雲大社を彷彿させる、立派な本殿であります。

今年が私と皆様にとってよい年になりますように、しっかりお祈りしてきましたよ。

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本殿内の通路には、こういう注意書きも。

ポケモンGOブームも、そろそろ落ち着いてきたみたいですけれどね。

 

お参りを済ませて、心が入れ替わったような気持ちです。

大国主命主祭神とする出雲大社は、伊勢神宮を頂点に置く日本神道の他の神社とは、どこか異質な雰囲気を持った神社なのですね。

その流れである大阪分祠にお参りして、私もこの日本に息づく、多様な信仰の形に触れることができたような。

そんな気がしました。

 

お参りを終えて、出雲大社を後にしました。

時刻はちょうどお昼時です。

おなかが空いています。

実は出かける前に私、ネットで出雲大社の近場で食事ができるお店を、あらかじめ調べてきたのですよ。

そうすると、台湾料理のお店を見つけることができましてね。

そこで食事したい、と思いながら出てきたんです。

台湾料理、食べたくて仕方なかったんですよ。

と言うのも出かける直前まで私、『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』という映画をテレビで見てましてね。

太川陽介さん、蛭子能収さん、三船美佳さんの御三方が、台湾でローカルバスを乗り継いで。

台湾の最南端にあるガランピ岬を目指す、というドキュメンタリ映画でしてね。

この映画を見ていて、私は「台湾料理が食べたい…」という気持ちになったのでした。

それで出雲大社周辺で台湾料理のお店を探してみたところ、偶然にもあったのですよ。

台湾料理の専門店が、近くに。

それで出雲大社へのお参りを済ませた後、ぜひとも台湾料理を食べる!という気持ちでいっぱいだったのです。

 

そんなわけで、やって参りました。

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台湾料理の専門店、「金陵」さんです。

出雲大社の近所、大野芝町にあります。

住宅地のさなかにある、新しいお店ですね。

元日だし、たぶんお休みかも…と、駄目もとで訪ねてみたのですが。

営業されてました!

運がよかったです。

綺麗な内装のお店でした。

席について、ずっと食べたかった「台湾煮込み豚丼(魯肉飯)」と「ゆで豚肉のニンニクソース(蒜泥白肉)」の二品を注文しました。

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ゆで豚肉のニンニクソース(蒜泥白肉)、350円。

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美味しいソースにつけていただきます。

柔らかいお肉とネギが、ニンニクソースに合うんですね。

お酒が欲しくなる、嬉しい美味しさでした。

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そしてこちらも来ました、魯肉飯(ルーローファン)。

こちらも350円。

台湾料理好きの方には、お馴染みの一品でしょう。

とろとろの煮込み豚肉を乗せた、ご飯料理なのですね。

私、これが食べたくて仕方なかったのです。

運ばれて来た、目の前の魯肉飯。

その香りをかいで私、とても懐かしい気持ちになりました。

というのも、以前に香港を旅した際に街角のそこかしこでかいだのと同じ、独特の香りがしたのです。

あ、香港の香り!と、興奮してしまいました。

魯肉飯のような、豚肉を香辛料で煮込んだ料理は香港でも台湾でも共通なので、煮た香りになるのですね。

嬉しくなって、スプーンを使って豚肉とごはんをほおばりました。

とろとろ豚肉に、タレの味が染み込んだご飯。

私はまだ台湾に旅したことはありませんが、まだ見ぬ台湾を思わせる味わいです。

すっかり満足いたしました。

一品料理の品数も多彩ですし、居心地のいい雰囲気。

機会を見つけて、時々通いたい!

そんなお店であります。

金陵さんでした。

 

食事を終え、金陵さんから出て参りました。

すっかり台湾気分です。

このまま帰ってもいいのですが、この近くに、他にも面白い場所がありましてね。

その場所を見てから帰ろう、と思いました。

少々歩きます。

 

住宅地をさらに歩いて、着きました。

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見えますか?

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「土塔」という史跡なのです。

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瓦を敷いた、ピラミッドのような小山がフェンスの内側に盛り上がっています。

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この土塔。

もともと、奈良時代の僧侶である行基(ぎょうき)という人物がつくった仏塔なのですね。

行基は、堺の偉人の一人と言っていいでしょう。

彼は朝鮮半島百済国から来た渡来人の末裔でした。

畿内を始め日本各地で農業用の池の灌漑など、土木建築の事業に尽力した偉大な人物です。

大阪狭山市の狭山池を始めとして、大阪府内にはこの行基の関わった史跡が多く残っています。

そんな彼の作品のひとつであります、目の前の土塔です。

元の形を失い長らく小山になっていたのを、近年になって当初の姿を復元したのが、この瓦の敷かれた姿なのですね。

見た目、エジプトかメキシコのピラミッドのような。

ある種の威厳があります。

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建造当初の姿を、想像をもとに復元した模型がありました。

瓦が敷き詰められた上に、仏塔が立っています。

渋いですね。

もし本当に土塔がこうした形で、現在までその姿を保っていたとしたら。

世界に例を見ない貴重な建築として、広く名が知れ渡っていたかもしれません。

まさに和製ピラミッド。

素晴らしいですね。

私は行基(敬称として「行基菩薩」とも呼びます)の事跡に尊敬の念を抱いているので、折に触れて、こうした行基の作品を宣伝していきたいと思っています。

読者の皆様にも、出雲大社大阪分祠にお参りされる機会があれば、行基の土塔にも足を伸ばしていただきたいと思います。

台湾料理がお好きなら、金陵さんのこともどうぞお忘れなく!

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